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23. 新国王夫妻の見苦しい行動

 目が眩むほど豪華なシャンデリアがいくつもきらめく広大な広間に、端が見えないほど長く設置されたテーブルの列。それらの全てに、純白の刺繍が施された良質なパールカラーのテーブルクロスがかけられている。セルウィン前公爵夫妻とクロード様と私は、国王夫妻が座る一段高いメインテーブルからさほど遠くない席に揃って腰かけた。

 全員が着座してからほどなく入場したフルヴィオ陛下と新王妃キャロルの顔色は、対照的だった。一国の王としてはこちらが不安になるほどに、上がり症で気の弱いところがある陛下。彼の顔はいまだ強張りが残り、反対にキャロルは楽しくてたまらないというような満面の笑みだ。二人が席に着き、ようやく晩餐が始まった。

 皆がにこやかに談笑し、時は和やかに過ぎていった。やがてメイン料理のふるまいが終わる頃、位の高い人たちから順に新国王夫妻への挨拶が改めて行われはじめた。


(私たちもそろそろ行かなくちゃね……)


 隣の席のクロード様の様子を伺う。……淡々と食事をする姿さえも様になっている。この方は王国随一の貴族なのだと、改めて思った。


「……どうした? エリッサ」


 ついボーッと見つめてしまい、視線に気付いたクロード様からそう声をかけられる。私はハッとして、慌ててごまかした。あなたの食事をする姿に見惚れていましたなんて言えない。


「……いえ、私たちもそろそろ国王陛下ご夫妻の元へ伺う頃合いですわね」

「ああ、そうだな。父たちに続いて行こう」

「ええ」

「……疲れただろう? 晩餐会が終わったら、屋敷まで送っていく。馬車に乗ったら、私に凭れて眠っていてもいい」

「っ! ま、まさか、そのような……」


 クロード様のその言葉に動揺し、つい頬を染めてしまった。彼はふ、と笑みを漏らすと、世間話でもするようにサラリと言った。


「冗談だ。君の立ち居振る舞いは常に完璧なのに、たまにそうやって可愛らしい隙を見せてくれるな。目が離せない」

「……っ!?」

「本当に眠っても、もちろん怒りはしないが」


(……ま、また可愛らしいって言われちゃった……)


 変わった方だ、本当に。この私にそんな種類の褒め言葉を使ってくれた殿方は、過去に一人もいない。私に向けられる賛辞の言葉は「隙のない完璧な令嬢」「凛とした美貌」「気後れするほどの神々しさがある」等々。「可愛らしい」や「愛嬌がある」「守ってあげたいタイプ」などの若い女性の愛らしさを表現する褒め言葉は、そう、あそこにいる妹のキャロルにばかり向けられるもので……。

 そんなことを考えながら、メインテーブルにいるキャロルたちに視線を送った私の、カトラリーを持つ手がピタリと止まった。


(な……なんてみっともない……っ)


 陛下とキャロルはちょうど、東のリウエ王国の王族の方々からのご挨拶を受けている最中だった。けれど、二人のそばにはそれぞれ通訳と思われる従者たちがベッタリと侍っており、リウエの王族の方が何か一言話すたびに、従者が二人に耳打ちをしている。それをフンフンと頷いて聞き、取ってつけたような笑みを浮かべながら返事を返す。……どうやらそんなやり取りを繰り返しているようだった。


(キャロルはともかく、……いやキャロルも充分おかしいんだけど、なぜ陛下はいまだに帝国語さえマスターできていないのかしら)


 まるで我が子が大失態をやらかしたような恥ずかしさを感じる。あれだけ一緒に勉強してきたのに。私は学園に入学するより何年も前から、あまりやる気のない陛下に対して根気強く帝国語を教えてきた。もちろん教育係たちも大勢いたけれど、私と一緒に勉強した方が互いに触発し合ってやる気も出るのでは、と思って頑張ってきたのだ。

 そんな私なりの気遣いや努力は、何一つ実を結ばなかったらしい。


(リウエ王家の方々が、まさかリウエ語で陛下たちにお話しになっているはずがないものね。近隣諸国の重鎮たちが集まるこのような公の場では、大抵皆公用語の帝国語で会話をする。それが一番スムーズで、聞き間違いやすれ違いがなくて済むからよ。なのに、あの二人ときたら……)


 ほら、次に並んでいる十歳くらいの王女様でさえ、ポカンとした顔で陛下とキャロルを見ているわ。

 王国の代表が、王国の恥となる行動をしている。

 あまりにも先行きが不安だ。


「エリッサ、そろそろ行こう」

「……はい、クロード様」


 内心ガックリと肩を落としていた私は、婚約者の声に慌てて笑みを作り、立ち上がった。

 


 




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