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20. 再会

 陛下とキャロルの結婚式当日。私はタウンハウスの自室で、早朝から準備に取りかかっていた。クロード様に贈られたドレスを身にまとい、ヘアスタイルを凝った編み込みのハーフアップに整えてもらう。そしてミハに丁寧な化粧を施されると、最後にドレスと共に贈られたアイスブルーダイアモンドのジュエリーを身に着けた。


「……お嬢様、完璧でございます。完璧なお美しさです」


 ミハは珍しくあんぐりと口を開け、私の全身を凝視している。他の侍女たちも同様だ。思わず苦笑してしまう。


「それはあなたたちのおかげよ。お化粧も髪型もとても素敵だわ。綺麗に仕上げてくれてありがとう」


 そう言うと、侍女たちが次々と口を開く。


「もったいないお言葉でございます。全てはこの素晴らしいドレスとジュエリー、そしてエリッサお嬢様の美貌あればこそですわ!」

「もうすでにセルウィン公爵夫人としての威厳を感じられるほどです。本日のエリッサお嬢様には特別なオーラがございますわ。きっとお集まりになるどなた様よりも輝いておいでのはずです」


 手放しで褒め称えられ、さすがに照れる。けれど、姿見の前で確認した今の自分の姿は、これまでで一番美しいと断言できた。

 しばらく待っていると、家令のルパートが私を呼びに来た。


「エリッサお嬢様、セルウィン公爵閣下がお見えでございます」

「……ええ。参ります」


 その言葉に心臓が大きく跳ねる。お会いするのは数週間ぶりだ。ドキドキと高鳴る鼓動を抑えるように大きく呼吸をすると、私は立ち上がって姿見の前で最終チェックをしてから階下へと降りた。


 玄関ホールの前では、両親とクロード様が何やら言葉を交わしていた。階段を降りながら、久しぶりに目にするクロード様のお姿にときめく。濃紺を基調とした衣装は、高身長でたくましい体躯のクロード様にとてもよく似合っていた。


(……あ、金色の刺繍が……)


 クロード様の衣装の袖口や胸元に、私の瞳の色の刺繍を見つけ、胸が高鳴る。するとその時、彼が私に気付きこちらを振り向いた。

 その瞬間、切れ長のアイスブルーの瞳が、わずかに見開かれた。

 私は緊張を隠すように微笑み、ゆっくりと彼の元へと近付く。そして目の前に立つと、心を込めて一礼した。


「ごきげんよう、クロード様。お久しゅうございます。こんなにも素敵なドレスとジュエリーを、ありがとうございました」

「……」


 クロード様は無言のまま、私のことをジッと見つめている。……もしかして、彼が想像した姿とは違う仕上がりにガッカリしているのでは……。ほんの一瞬そんな不安が頭をよぎった時、クロード様が低く静かな声で言った。


「……綺麗だ、エリッサ」

「……ありがとうございます」


 噛みしめるようなその一言だけで、私の体は熱くなった。


「では、閣下、また後ほど王城で」

「エリッサをよろしくお願いいたしますわ」


 父と母がクロード様にそう声をかけ、表へと出る。これから両親はハートネル侯爵家の馬車で、私はクロード様と共にセルウィン公爵家の馬車で王城へと向かう。今日は国中の貴族たちはもちろんのこと、近隣諸国の王族や重鎮たちも一堂に会する。陛下とキャロルの結婚により、私にも様々な意味での多くの視線が集まることだろう。幼少の頃から王家に嫁ぐための教育を施され、その直前になって突如婚約破棄され妹にその座を奪われた女。一体どんな顔をして二人の姿を祝福するのだろう。興味津々でそんな風に私を見てくる人たちだってきっと少なくはない。

 けれど、私の隣にはクロード様がいてくださる。


「今日誰よりも美しいであろう君をエスコートできるとは、光栄だ。……行こう、エリッサ」


 クロード様は優しい眼差しでそう言うと、私に向かってそっと手を差し伸べてくださる。……相変わらず表情に乏しく、類まれなる威厳と迫力もお持ちなのに、私はもうこの方に対して恐怖心など微塵もなかった。


(こんなことも言ってくださるのね。無愛想で冷ややかなクロード様の雰囲気からは想像もつかない褒め言葉だわ……)


 女性に対する最上級の賛辞に、私の胸が甘く痺れた。


「こちらこそ。本日はよろしくお願いいたします、クロード様」


 はにかんでそう答えると、彼の固く大きな手のひらに自分の手をそっと重ねた。




 王城へと向かう馬車の中では、主に私が話し続けていた。クロード様はセザリア王国での私の行動を知りたがり、私はお会いした方々や新たに得た知識、見聞きしたことから思いついたちょっとしたアイデアなどを、夢中になって語った。クロード様は時折頷きながら、興味深げに私の話を聞いてくださった。


「セザリア王国は、特に海に面した西側の観光業がとても盛んで、港町を歩けばいくつもの外国語が飛び交っていましたわ。新鮮な雰囲気でした。珍しい食材や、変わった土産ものもたくさんございましたのよ」

「観光業の経済効果は大きいからな。我が国にも特筆すべき観光スポットなどがあれば、ますます発展しそうなものだが」

「ええ。サリーヴ王国は資源も資金も軍事力も、安定してはおりますが、大陸の内側でこれといった特徴がございませんものね。……クロード様、その、お土産をいくつか買ってきましたので……よかったら後でお持ちになってください」


 ドギマギしながらそう言うと、クロード様はわずかに微笑んだ。


「ああ。ありがとう」

「……」


 なんだか照れてしまって、私は曖昧に微笑むと口を閉じた。……クロード様とお会いして二人きりでお話しするのは、まだ今日で二回目。こうして対面していると、まだまだぎこちなくて、緊張してしまう。

 けれど、彼と一緒に過ごす時間は、少しも不快ではなかった。





 

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