2. 寄り添い合う二人
(どうしてキャロルが、殿下の隣に……?)
意味が分からない。
私は今日、この長いストロベリーブロンドの髪を、ミハたち侍女に編み込んでもらってまとめている。けれどキャロルは、自慢のピンクブロンドをふんわりと巻いて下ろし、この静粛であるはずの場で誰よりも華やかに目立っていた。漆黒のドレスも床に大きく広がるタイプで、随所にふんだんにあしらわれたレースとブラックダイアモンドによって、王城晩餐会にでも列席しているかのような派手さだった。まるで今日の主賓のような出で立ちだ。
そんな彼女が、なぜ私の婚約者でもあるフルヴィオ殿下に腕を絡め、あんな風に寄り添い合っているのだろう。
この場には、国外からも多くの重鎮たちが集まっている。あの二人の姿を見れば、何も思われないはずがない。
私はため息をつくと、最前列の席に座った殿下と妹の元へと急いだ。
「フルヴィオ殿下。大変遅くなりました」
「……エリッサか」
そばに進み出て声をかけると、フルヴィオ殿下は横目でチラリと私を見て、ただ一言そう言った。その隣のキャロルは、ほんの一瞬私をきつい視線で睨みつけると、また瞳を伏せクスンクスンと鼻を鳴らす。……殿下の隣の席から、動くつもりはなさそうだ。ここは会場の最前列。列席者たち全員の視界に入っている。私は仕方なく妹に声をかけた。
「キャロル、もういいわ。場所を代わって。あなたはお父様たちのところへ行ってちょうだい」
非常識な行動ではあるものの、この子なりに私が戻ってくるまで殿下をお慰めしようとでもしたのだろう。そう判断した私は、キャロルに小声でそう指示をした。両親は数列後ろの席に並んで座っている。
ところがキャロルは、涙に濡れた目を上げると、突然大きな声で私を咎めた。
「もういい、ですって……!? ひどいわ! お姉様! 国王陛下が突然こんなことになって……フルヴィオ様がお一人で苦しんでいらっしゃる時に、ご自分は相変わらず国外でのんびり遊んでいらっしゃって! どうしていつもそうなんですの!? お姉様! どうしてフルヴィオ様のおそばに寄り添って支えて差し上げようとしないの!? お姉様がそんな風だから……あ、あたしは……っ!」
「……キャロル、もういい」
(……な……、)
突如取り乱したようにそう抗議する妹を、フルヴィオ殿下は「分かっているよ」とばかりにたしなめ、腕を回してキャロルの背を抱きしめた。
「……エリッサ、君こそご両親の元へ。俺のそばにはキャロルがいてくれるからいい。下がれ」
「……殿下……?」
耳を疑った。公衆の面前で、私は殿下から邪魔者のようにあしらわれたのだ。婚約者である私を追い払い、妹の肩をしっかりと抱き寄せている。
……けれど、ともかくここで言い争っている場合ではない。
私は平静を装い一礼すると、殿下の元を離れ、両親の席へと向かった。会場中の視線をビシバシと感じる。私がフルヴィオ殿下の婚約者であることは、この中で知らぬ者などいない。一体今、皆からどう思われていることか。
席についた私は、隣の母に小声で問いかけた。
「お母様、一体どういうことですの……? あれは何なのですか?」
「今は黙って、エリッサ。葬儀が始まるわ」
母は冷たい口調でそう言い切った。父も私の方をチラリと見ただけで、何も言わない。
不審感でいっぱいになりながら、私は国王陛下の葬儀に臨んだのだった。