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17. カーデン伯爵家での夕食会

「いやぁ、エリッサ嬢のセザリア語はいつお聞きしても感心しますな。まるで母国語のような滑らかさです」

「ま、お褒めいただき光栄ですわ、カーデン伯爵。ありがとうございます」


(そしてこの素晴らしい海鮮料理でのおもてなしも、本当にありがとうございます)


 伯爵邸での夕食会には、カーデン伯爵一家全員が揃っていた。伯爵夫妻にルジェナ嬢、彼女の十歳の弟と、まだ四歳の妹。そして食卓には、新鮮な魚介をふんだんに使った数々のお料理。社交用の笑みを浮かべながらも、私の胸は喜びに弾んでいた。それらを優雅な動作で口に運びながら伯爵の賛辞を受ける。


「いや、我が国をはじめ近隣諸国の貴族家の方々は皆、大陸各国の言葉を流暢にお話しになりますが、エリッサ嬢ほど滑らかな発音のセザリア語はなかなか……。教養の高さがうかがい知れますな」

「ふふ。そんなにお褒めいただくと恐縮ですわ。私は勉強しかしてきませんでしたもので」


 この大陸の公用語は帝国語だが、ほとんどの国に自国の言語が存在する。他国の人たちとの会話は帝国語が話せれば充分成り立つのだが、私は相手への敬意を示すためにも、その王国独自の言語を使うようにしている。


(……陛下は外国語が苦手で、帝国語さえその習得ぶりはちょっと怪しいのよね……。キャロルに至っては帝国語も他国語もまるっきりダメだわ。これから二人、死にもの狂いで学んでいくのでしょうけど)


 あの二人のことがふと頭をよぎった時、カーデン伯爵夫人が美しい笑みを浮かべて言った。


「ま、ご謙遜を。エリッサ様はお勉強のみならず、こうして各地へ足を運び、見聞を広めておられますわ。素晴らしいことですし、私たちともこうして懇意にしていただき、こちらこそ光栄に思っておりますのよ。本当に……エリッサ様を置いて他に、サリーヴ王国の王妃様に相応しいお方はいないと、我が国の貴族たちの誰もがそう思っておりましたのに……」


(来た来た……)


 夫人が早速、最も聞き出したいであろう話題に持ち込んだ。私は曖昧に微笑み、次の言葉を待つ。カーデン伯爵夫妻とルジェナ嬢は、一様に沈痛な面持ちを浮かべた。そんな中で弟君と小さな妹君は、静かに黙々と食事を続けている。よく教育が行き届いているようだ。


「この度のことは、本当に……。私たちなどには分からない様々なご事情がおありだったのでしょうが、エリッサ様のお気持ちを思うと、胸が痛うございます」

「妹君のキャロル嬢は、お心にご負担も大きいでしょうな。何せ突然サリーヴ王国王家に嫁がれることになったわけですから」


 夫妻とルジェナ嬢の気まずそうな顔が申し訳ない。さっさと空気を変えなくてはと、私は明るい笑みを浮かべ答えた。


「お気遣いありがとうございます。仰るとおり、いくつかの事情を考慮した上での、陛下と父の決断です。キャロルはすでに王妃教育に全力で邁進しております。私はセルウィン公爵との婚約がすでに成立しておりますので、今後は公爵領の経営についてしっかり勉強していかなくてはなりませんわ」


 私がそこまで話すとカーデン一家の、特に夫人の表情がサッと変わった。目が光っている。ルジェナ嬢が満面の笑みで私に祝いの言葉をくれた。


「まぁ、もうご婚約を……? それも、あのセルウィン公爵様と……! 素晴らしいですわ。おめでとうございます、エリッサ様」

「ありがとう、ルジェナ様」

「ほ、本当に……おめでとうございますエリッサ様。まぁ、そうですの……セルウィン公爵閣下と……まぁ……! さすがはエリッサ様ですわ! サリーヴ王国随一の公爵家のご当主の元へ嫁がれるのですね。まぁ……」


 好奇心と驚きに目を輝かせる夫人を見て思った。これで数日以内にはこの王国の社交界全体に私とクロード様の婚約が知れ渡るだろう。カーデン伯爵夫人は社交好きかつ大の噂好きなのだ。

 カーデン伯爵がしみじみと言う。


「サリーヴ王国の、セルウィン公爵……。ずっと独身でおられたから、国内外から数々の縁談を山ほど持ちかけられていたようですな。我が国のとある貴族家も、以前ご令嬢との縁談を相談してみたが、にべもなく断られたと……。やはり自国の最も優れたご令嬢を選ばれたということか。あの公爵閣下が所望されるとは、やはりエリッサ嬢は別格ですな」

「まぁ、そんなことは……。ありがとうございます」


 よし、この話題はもう充分だろう。これ以上根掘り葉掘り聞かれて陛下とキャロルのことを深く探られるのは面倒だし。私は少々強引に話題を変えた。

 







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