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1. 国王陛下崩御の知らせ

 その一報が届いた時、私は母国サリーヴ王国の隣りの国で、先日招かれた茶会の礼状をしたためているところだった。この王国に滞在している間懇意にしてくださっていた、とある侯爵家のご夫人に宛てたものだ。

 私の婚約者でもあるサリーヴ王国の王太子殿下フルヴィオ様は、とかく外交が苦手な方。王家唯一の男子でありながら、正直その才覚は今ひとつパッとしない。中でも外交は苦手中の苦手で、何せ自国の課題や経済状況さえしっかりと把握していらっしゃらないものだから、国外の重要人物との会話がいまだに上手くできないのだ。さらには外国語も苦手ときている。

 その上最近、国王陛下の体調が芳しくなく、床についたまま一日を過ごす日も出てきているという。今後はフルヴィオ様が陛下に代わり、公務を行うことも増えてくるだろう。私の目下の心配はそこだった。

 殿下の二つ年下の私は、今年十八歳になった。貴族学園に入学以来、これまで何度も休学しながら国内外を飛び回り、各国の重鎮たちとの交流を深めてきた。近い将来訪れるかもしれないフルヴィオ殿下の即位と治世を支えるためにも、抜かりなく準備をしておかねばと、そう考えていた────


「エリッサお嬢様。早馬が参りました」

「……そう。何の知らせかしら? ミハ」


 私は文机から顔を上げ、部屋に入ってきた侍女のミハを振り返る。男爵家の四女のミハは、私の一つ年上の十九歳。オレンジがかった栗色の髪を後ろでひっつめた、あまり愛想はないけれど真面目な侍女だ。私がどこの国へ立とうとも必ずついてきて私の世話とサポートをしてくれる、誰よりも頼もしい私の相棒でもある。


「お父上のハートネル侯爵からです。国王陛下が、御崩御あそばされたと」

「……っ!」


 淡々とした口調でそう告げるミハの言葉に、私は思わず息を呑んだ。あまりに突然の知らせに、すぐには言葉が出ない。無意識に立ち上がりながら、私は彼女に問うた。


「……他には?」

「特に何も。とにかく急ぎ帰国せよと、そのことのみ記してございます」

「分かったわ。支度をお願い」

「承知いたしました、エリッサお嬢様」


 よく見ると、ミハの顔も普段より若干強張っている。彼女なりに動揺しているのだろう。それでもミハはすぐさまテキパキと動き、私の帰国の準備を始めてくれた。




(まさかこんなに突然……。フルヴィオ殿下は大丈夫かしら。きっと戸惑っていらっしゃるわね。葬儀の準備は、もちろん城の者たちが全て手配してくれているだろうけれど……)


 今後の重圧を考え、今頃殿下は頭を抱えていらっしゃるかもしれない。気弱なところがおありになる方だ。すぐにおそばに駆けつけ、勇気づけてさしあげなくては。

 この私がおそばにいますから、大丈夫です、と。


 馬車を飛ばして四日後、王都のハートネル侯爵邸のタウンハウスに帰ると、すでに両親と妹の姿はなかった。


「どうにか間に合われましてようございました、エリッサお嬢様。旦那様と奥様、キャロルお嬢様は、すでに王城に向かっておいでです」


 家令のルパートからそう告げられた私は、休む間もなく葬儀用の漆黒のドレスに着替え、髪を結い直してもらうと、疲れ切った体に鞭打って再び馬車に飛び乗った。




  ◇ ◇ ◇




 王城にはすでに、国内外から集まった多数の重鎮、高位貴族らの姿があった。


「ギリギリでしたね……」

「本当。葬儀に間に合って良かったわ。ありがとう、ミハ」


 ヒソヒソとミハと言葉を交わしながら、私は見知った人たちと軽く目で挨拶を交わしつつ、フルヴィオ殿下を探す。

 すると、会場の前方にようやく彼の姿を見つけた。急いで近付こうとした私の足は、その途中でピタリと止まる。


(……キャロル……?)


 沈痛な面持ちのフルヴィオ殿下の隣に寄り添っている、華やかなピンクブロンドの長い巻き毛の美女。私と同じ黄金色をした瞳に涙をたっぷりと溜めしゃくり上げながら、あろうことかフルヴィオ殿下としっかりと腕を絡めているのは、他ならぬ私の実妹、キャロルだった。

 









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