クリティドと二人で視察 ⑩
薬草の群生地から戻って、今日は室内でゆっくりすることになった。というのもクリティドは私が怪我をしたことを心配していたから。
本当に過保護なんだからと、呆れながらも嬉しい気持ちでいっぱいだ。
「私は行ってくるが、無茶はしないように」
「もう、分かっていますよ。今日は薬師の方々から、薬について聞く予定なので危険なことは何もないですからね?」
クリティドは領内を視察しにいく。私を一人で置いていくことが心配で仕方がないようだ。
クリティドは私のことがどうしようもないほどにか弱く見えるみたいだ。もう少し頼りにされるようになりたいな。
「ああ。ただ何かあったらすぐに呼ぶように」
「はい。もちろんですわ」
私がそう言うと、クリティドは安心した様子で出かけて行った。クリティドが頑張ってくれている間、私も出来る限りのことはやろう。
それに元気だってことを見せたら翌日以降は、一緒に出掛けられるだろうし。
私はそう思っていたので、今日は何の問題も起こさずにのんびりできれば……と考えている。とはいえ、ただ休むだけではなくやるべきことは進める予定だけれども。
基本的に室内に居れば、怪我を負うこともないはず……とは思っているから。
それにしてもクリティドが居ない中で、視察先の屋敷で一人というのも少しだけ緊張するわ。
この屋敷に居る使用人達は今のところは私に対して悪感情などないようには見える。とはいえ、私が結果を出さなければ頼りになる公爵夫人だとは思ってもらえないだろう。
私はクリティドを支えられるような人間でありたい。
そうあるためには周りにだって認められなければならないと感じている。というか、私がそうありたいのだもの。
そういうわけで、薬師の方たちを屋敷に呼んだ。
私の呼びかけに応えてくれた数名の薬師達だ。何人かには急ぎの仕事があるからと断られてしまった。……おそらく私に構う暇などないという研究気質な方もいるんだろうな。
私が結果を出せなかったり、私の事情を知らなかったりすると当然のことだけれどもいきなりやってきた公爵夫人が面倒事を持ってきたと思われてもおかしくない。
私は前世の記憶があるからこそ、一般的な同年代に比べては何かあった時に冷静で居られているとは思っている。けれど、そんなことは人に話していないし、運よく公爵夫人になった令嬢なんて思われていたら関わりたがらないのも分かる。
私は公爵夫人としては、まだまだ何の結果も出せていないのだから。
その分、伸びしろがあるってことだとは思っている。なんだか、こう考えると私ってかなり前向きなのかもと自分で思った。
今の私の評価って、事情を知っている人からしたら可哀想な公爵夫人なんだと思う。
バルダーシ公爵家に命じられて、クリティドのためを殺すために妻になった。そしてクリティド達に助けられて、そのまま奥さんとして残ることになった。この噂だけ聞いたら、どちらかというと守りたくなるようなタイプに思われてしまうのかも。
それこそクリティドが居なければ何も出来ないって。
そのままの評価は嫌だなと思っているので、少しずつ私の評価を変えていけるように頑張りたいの。
「はじめまして、クーリヴェン公爵夫人」
「この度は私共をお呼びとお聞きし、参上しました」
しばらく待っていると、薬師の方たちが到着した。彼らは私に向かってうやうやしく頭を下げる。なんだかこういう態度、やっぱりまだ落ち着かないかも。
とはいえ、私は公爵夫人という立場なのだから周りからこんな態度をされるのは当たり前と言えば当たり前なのよね……。ただの子爵令嬢だった頃とは、明確に色々違う。
「呼びかけに答えてくれてありがとう。調合について学びたいのと、魔力回路を回復させるための薬の情報を知りたいのだけれども良いかしら?」
なるべく威厳を保ちつつ、話しかけられた側が嫌な思いをしないようにと気を付けて言葉を発した。
だってね、私がもし周りから侮られる行動をしたら、クリティドや公爵家に迷惑をかけてしまう形になるの。それが分かるから、きちんとしたいと思っている。
ただだからといって立場が変わったからと、周りを見下すような態度は絶対にしたくない。そう考えると、周りから嫌がられない程度の公爵夫人の対応って結構難しいのかも。
クリティドのような素敵な人だって、バルダーシ公爵家に狙われたりしていた。それを考えるとどれだけ気を付けていても何かしら悪意を向けられることはあるかもしれない。
色々と考えると難しいなと思って仕方がなかった。
「調合については分かりますが……魔力回路についてとは?」
薬師の内の一人、年配の男性がそう口にする。
「私は諸事情で、魔力回路が傷ついているの。それこそ魔法が上手く使えないぐらいに」
私がなんてことないようにそう言うと、薬師達は動揺した。
まぁ、魔力回路が魔法を使えないほどに傷つくなんてめったにないことだもの。
薬師達の表情を見ていると、私が巻き込まれた一件は本当に大変なことだったのだなと実感する。だって薬師達はこれまで様々な状況の患者を診てきたはずなのだもの。それなのに、こんなに驚いている。
「そんな顔しないで? 私にとってある意味勲章ではあるの。ただ問題なく治せるなら治したいから話を聞きたいの」
そう、もちろん、こんな風に傷がついていない方がいい。魔法を使えていた方がいい。それでも私が頑張った証ではある。




