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クリティドと二人で視察 ③

「ようこそおこしくださいました、公爵様、夫人」



 そういって穏やかな笑みを浮かべる男性の名は、ゴッチルという四十代ほどの文官だ。

 このあたりの土地をクリティドから任せられていると聞いている。事前情報だと、とても愛妻家なのよね。

 それでいてきちんと仕事をしていらっしゃると聞くわ。



 クリティドからも信頼されているというし、私も良い関係を築いていきたいわ。私みたいないきなり公爵夫人になった存在にきっと思う所はあるだろうけれども、それでも私は……出来る限りのことはする予定なの。





 長時間の移動だったのもあり、その日は私達はすぐにその土地を見て回ることにはならなかった。

 私はすぐにでも見に行きたかったのだけれども、クリティドから「疲れているだろうから、今日は駄目だ」と言われてしまったのだ。



 クリティドはいつだって私のことを心配してくれている。

 ゴッチルにも、「公爵様はとても夫人を愛されているのですね」とにこやかに笑っていた。

 こうしてこのあたりの人々にも私とクリティドの仲の良さが広まっていくのは、嬉恥ずかしいわね。




 私達が視察の際に滞在する部屋は、同じである。夫婦なのだから当然のことね。

 屋敷で過ごしている時はティアヒムやクリヒムと一緒に眠ることも多いから、こうやって二人っきりは何だか嬉しいわ。




「クリティド、明日は朝から領内を見て回りますからね!」

「ああ。だが、無茶はするな」

「無茶はしませんよ。具合が悪くなったりしたらちゃんと言いますから。ただあまりにも早起きしすぎると、周りに迷惑かもしれないわね」

「それは気にしなくていい。君は公爵夫人なのだから、少しぐらい無茶を言ったとしても許される」



 クリティドはそんなことを言って笑みを浮かべる。



 優しい笑みは、本当に私の全てを許して、受け入れるかのようだ。うん、というより本当にクリティドの場合は私が何をしても受け止めそうだと思う。それは安心できるようなことだけれども、本当にいいのかしらなんてそんなことを思う。



「そうかもしれないけれど、ちゃんと確認をしてからですね。余程、朝早くからだとゴッチル達にとって都合が悪ければ時間をずらしたいと思いますわ」



 私がそう口にすると、クリティドは笑みを浮かべている。クリティドは大笑いとかはしないタイプ。だけどこうやって静かに笑う姿を見るのが私は好きだ。




「そうだな。ある程度事前に向かう場所は決めていたが、予定変更はいつでもできるからすぐにいってくれ」

「そうですね。領内を見ているうちに私は気になることが沢山出てくるかもしれません。思えばこうやって視察に行くなんて初めてなんですよね。私の実家の子爵領はクーリヴェン公爵領ほど膨大な土地はなかったですし。私の将来のことなんて分かっていなくて、こうやって領主夫人として見て回るなんて思ってもなかった。だからその……私の意見ってもしかしたら役に立たないんじゃないか。ただ楽しむだけにならないかというのはちょっと心配にはなります」




 そう、私はこうして嫁いでくるまで、ううん、嫁いできた後もこのまま死ぬ予定だからと自由に過ごしていた。

 生き延びることになって、勉強をしているつもりだけどまだまだ足りないことが多いのだ。



 思わず心配事を口にしてしまうのは少し情けないなとは思うけれど、クリティドと話していると自然と自分の思っていることを口に出してしまうのよね。




「学び始めたばかりなら仕方ないことだ。それに役に立たないなんてことはない。少なくとも私は君が楽しそうに微笑んでいるだけでも私はやる気が出るからな」

「もう……クリティドはそんなことばかりを言って……。そう言ってもらえるなら、楽しもうとは思いますけれど、私はちゃんと公爵夫人としての威厳を持ちたいのですわ。ほら、クリティドは周りから尊敬されているでしょう?」



 クリティドが姿を見せるだけで、皆が注目をしている。クリティドの魔法の腕を知っているから恐れている人達は当然居る。けれど、少なくともクーリヴェン公爵領の人々は、怖れよりも、尊敬の念の方を向けているように見える。それだけ彼が良い領主だからだとは思う。




「私も同じように思われたら嬉しいなって。もちろん、周りの視線が全てではないとは思ってますけれど、やっぱりクリティドが大切にしている領民の方々に認めてもらえた方が嬉しいの。だから、色々頑張って動くわ。空回りしていた時は教えてほしいです」

「ああ。もちろんだ」



 クリティドは私の言葉を聞いて、頷く。



 今日はゆっくりするとして明日からは頑張らないと。そんな気持ちでいっぱいの私はゴッチルの用意してくれた食事を楽しんだ。




 夕飯で出た魚料理が美味しくて、自然と笑顔になった。普段通りにクリティドに接していたら驚いた顔はされた。

 私にとっては当たり前のことだけれども、以前からクリティドを知る人からすると私に接するクリティドは特別な対応らしい。


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