子供たちとの距離
「貴方を母親だなんて認めませんから」
朝食を食べた後、ティアヒムとクリヒムに話しかけてみることにする。
だけどティアヒムにはばっさりとそんな風に拒絶されてしまったの。クリヒムもティアヒムの後ろに不安そうに隠れていて、私に対する警戒心が本当に強いみたいだったわ。
ティアヒムやクリヒムは旦那様の大切なご子息で、だからこそ何も恐ろしいことなどないのになぁなんて思ったりしてしまった。
それにしてもこうしてつんつんしている様子を見ていてもなんだか可愛いなというそういう気持ちでいっぱいになる。
ティアヒムもクリヒムもとても可愛い。
「そうなのね。でも折角だから仲良くしてもらえると嬉しいわ」
私は短期間で去る予定ではあるけれど、それでも仲良くできたら私は嬉しいとそう思う。こんな感情、私のただのエゴかもしれないけれど――。
「そうですか。……そんなことを言っても私たちは認めません」
ティアヒムは変な顔をしている。私のことを訝しんでいるのかも。
そのまま去っていかれて、少しだけ寂しい気持ちになった。
私は子供が好きだから余計にね。今世の私が弟のことを沢山可愛がっていたのも、前世のことが関係しているのかもしれないなと思った。
それにしてもティアヒムとクリヒムのことを考えているだけでこう……、顔がにやけそうになってしまうわ。二人の前で突然にやけてしまったらひかれてしまうかもしれないもの。
「奥様、落ち込まないでください! きっと奥様ならティアヒム様とクリヒム様とも仲良くなれますよ」
私が考え込んでいるのが落ち込んでいるととらえられてしまったらしく、フルヴェラにそんなことを言われた。
ほかの侍女たちも私のことを心配そうに見ていて、優しい侍女たちばかりだと思わず笑みをこぼしてしまう。
「ええ。そのつもりよ。でもどうしたらいいかしら?」
仲良くなるための第一歩として必要なのは、ティアヒムとクリヒムのことを知ることだとは思うのだけれども、何か効果的なことはあるかなと考えてみる。
私自身がよかれと思ったことでも、向こうにとっては嫌なこともたくさんあるだろう。折角あんなに可愛い子供たちと家族になれたのだから嫌われたくはないもの。
ただ仲良くなった後、私がいなくなるとどれだけ悲しむだろうか。
そうなると誰かに私の名で手紙を書いてもらうように依頼でもしておくといいかもしれない。
だって親しくなった相手が上位貴族の命令関係で亡くなったなんて子供たちが知ったら心の傷になってしまうと思うわ。私はそういう悪い記憶として残りたいとは思わない。
「そうですね……。一緒に何かをしてみるとかはどうでしょうか?」
「沢山お話をすれば仲良くなれるのではないかと思います」
「奥様が仲良くしたいと思うのならばきっと仲良くなりますよ」
侍女たちはそう言って当たり前のように穏やかにほほ笑む。
侍女たちは私が密命を受けていることなど知らない。当たり前のように――私がこの先もここで生活をし続けるとそう思っているのだろうと分かる。
そのことを考えると少しだけ複雑な気持ちになる。
「そうね。子供たちと何かしてみたいとそう思うわ。あとは……お菓子などを作ったら食べてくれるかしら?」
基本的にお菓子を好きな子供は多いと思う。だけどもしかしたら、あの二人は甘いものが嫌いとかあるかしら? そのあたりはきちんと情報収集をした上でしないとだめだわ。
「そうですね。よろしいかと思います!」
「ティアヒム様とクリヒム様も甘いものは好きなので、喜んでくださると思いますよ」
「奥様はお菓子を作れるのですか?」
私はそう問いかけられて、にっこりと笑う。
前世でも、実家にいたころも――私はお菓子を作ることが好きだった。
私の作ったお菓子を喜んで食べてくれる人がいるのが嬉しい。笑顔で笑っていてくれることも嬉しい。
ティアヒムとクリヒムも私のお菓子を食べて笑ってくれるかな。
子供たちは私に対して厳しい表情しか今のところは向けてくれていない。でもそれが満面の笑みを浮かべてくれるようになったら――。
それを考えると楽しみになった。
あ、でも勝手に厨房に入ってお菓子を作るのもきっとダメよね。
ちゃんと旦那様に確認をした上でお菓子は作らないといけないわ。そういうわけで私は侍女たち経由でお菓子を作っていいかという許可をもらうことにした。
領主としてのお仕事で忙しいかもしれないし、しばらくしたらいなくなる私がその仕事の邪魔をするのもいけないことだとそう思ったから。
どんなお菓子を作ろうか。
ティアヒムとクリヒムの好みを聞いたうえで作るのが一番よね。あとは私自身が自由にできるお金とかもないから、材料をどれだけ使っていいかとかも確認しないと。
そんなことを考えながら部屋で待っていると、お菓子作りの許可が出た。