両親と、弟との再会 ①
「ウェリタ!!」
私の名を呼ぶ、必死な声がする。それと同時に大好きなお父様の顔を久しぶりに見る。
なんだか、泣き出しそうになる。
私はもう二度と、会うことなんて出来ないかもしれないと……そう思っていた。そんな人が目の前にいるなんて……本当に夢みたいだ。
それにお母様や大切な弟であるイルミテオ。
なんだかふわふわした気持ちになって、本当にまた家族に会えたんだとただ私は嬉しくて仕方がない。
この未来は――本来ならなかったはずのもの。
私が諦めて、もう叶わないと思っていた光景。お母様にぎゅっと抱きしめられる。こんな風に思いっきり抱きしめられるのは子供の時以来だろうか。
大きくなってからはこんなことはなかった。私は……お母様の体温を感じて、私も家族もちゃんと生きているんだって実感して涙をこらえられなかった。
折角また会えたのだから、それはとても幸せなことなんだから――笑顔で迎えたいとそう思っていたのに。
……やっぱり私は駄目というか、まだまだ結婚しても子供なんだなと実感する。
「お母様……会いたかった……!」
私がぽろぽろと涙をこぼしながら告げれば、お母様の私を抱きしめる腕の力がまた強くなる。
「事情は聞いているわ。……ウェリタはもう私達に会えないつもりだったのでしょう?」
「……うん」
「どうして……っ。そんな風に一人で決めてしまったのよ……。私たちあなたが……少しの苦労はあってもそんな状況にあるなんて、思ってもいなかった」
「……ごめんなさい」
必死なお母様の声に、私は胸が痛くなった。
私は……他の誰かが大変な目にあって、もっと不幸な結末が来るよりは私一人が死んだ方がずっといいと思っていた。
前世の記憶を思い出して、何処か現実逃避して……割り切ったつもりで。――それでいいと、その時は思っていた。でもこうして私のことを思って声をあげる家族を見ると、生きてて良かったと実感する。
私は前世の記憶を持っている。とはいえ、死んでしまえば基本的に人生は終わり。このぬくもりも――二度と感じることも出来なかったのだと、そう実感してやっぱり涙が止まらない。
安心して、嬉しくて、今こうやって家族に会えただけで様々な感情で、私の心はいっぱいいっぱいだ。
「謝る必要はないわ! でも……相談はしてほしかったわ。私達だって出来ることがあるのだから」
「そうだぞ。ウェリタ。確かに領地は大切だ。だけどウェリタにその犠牲になって欲しいなんて思ってないんだ。君が周りに優しく出来る子というのは知っている。ただ……私たちは何も知らないまま娘を失ったら立ち直れなかったかもしれない」
私を抱きしめたまま告げるお母様と、抱きしめあっている私達に声をかけるお父様。
――私は死ぬ時は、周りに迷惑をかけないように死のうと思っていた。あくまで出来る限りだけど。
でも結局それってきっと難しくて、私は家族のことを悲しませることにはなったかもしれない。
今だってきっと、私が勝手に割り切って、決めて――そうしたからこそ家族を悲しませてしまった。そのことは反省する。
自分にとってはそれが最善だとは思っていたのは確かで、私は必死だった。
誰にも頼れなくて、身動きが取れないと思い込んでいて……。
けれどもう私はこんな風に大切な家族のことを悲しませずに済むようには動こうと思う。
私はもう一人ではないから。
私に何かがあったらすぐにクリティドや子供達が気づいてくれる。私が困ったらいつでも手を差し伸べてくれる。
「うん……。お母様、お父様。私はもう……あんな風に勝手に決めて行動はしない。私のことを……大切にしてくれている人が沢山いるから」
私がそう口にしたら、お母様とお父様はほっとしたような表情を浮かべた。
お母様とお父様とそんな会話を話して、身体を離した後、私は後ろで控えていたイルミテオと目を合わせる。
恐る恐るといった様子のイルミテオに、私は「おいで」と声をかける。
お母様とお父様が私の元へ殺到していたから、いつ話しかければいいかと分からなくなっていたのだと思う。
ティアヒムやクリヒムよりは年上とはいえ、イルミテオはまだ子供なのだ。だから色々と理解出来ないこともあるとは思う。
だけど私が大変な状況になっていたことは分かるだろう。
それできっとイルミテオも様々なことを考えて、不安を感じていたのだろうなとは思う。
「姉上……っ」
私のことを呼んで、イルミテオは私に抱き着いてきた。小さな身体。
お母様とお父様の後にしようって我慢してくれていたのだと思う。気を遣わせてしまったなとそんなことを思いながらイルミテオのことの身体を抱きしめる。
「姉上……、死んじゃやだ」
「ええ。私は死なないわ。ごめんね、心配かけて」
私がそう口にすると、腕の中のイルミテオは弱々しい声で頷いていた。