王家への報告と、パーティーの始まり
「ウェリタ・クーリヴェン、此度は大変だったな。あらぬことを噂する者もいるかもしれないが、あまり気にせずにこの後のパーティーを楽しんでくれ」
「は、はい。ありがとうございます」
王都に着いた翌日、私はクリティドに連れられて王城へと向かった。ティアヒムとクリヒムも一緒に来ているけれど、別室で待ってもらっている。今回はバルダーシ公爵家に関することを改めて報告する目的もあるので、流石に子供達をこの場に呼ぶことはない。
幾らティアヒムが心を読めるとはいっても、まだ子供だもの。
一般的よりは大人びているだろうけれど、だからといってこういう話をあえて聞かせようとは思わない。
それにしてもこうやって陛下から個別に声をかけられることになるなんて思いもしなかった。そんな未来が来るなんて思ってなかったから、私は緊張してばかりだ。
なかなか挙動不審な様子を見せてしまっていると思うけれど、陛下たちは気にされてなさそうなのでほっとする。
それにしても陛下や王妃様は穏やかな笑みを私に向けていて、少しだけ恥ずかしい気持ちになる。なんだろう、クリティドとは昔からの仲みたいだから、色々と思う所はあるのだろう。
だけど、認めないみたいに言われなかったのは本当に良かったと思った。
……というか、クリティドとの婚姻は皆が嫌がっていたけれど寧ろ結婚相手として素晴らしいと改めて思ったわ。
再婚で、前妻との子供がいること。そして恐ろしいなんて言われていること。
それらのことで、怯えている人が多かった。けれどそんなことない。寧ろクリティドはとても優しいもの。それでいて陛下からの覚えがめでたい状況だもの。それにね、クリティドの悪い噂に関してはバルダーシ公爵家が意図的に流したものも多かったようだ。
そういうものが無くなったのだからきっとクリティドには良い噂の方が出回るようになると思うの。
……そう思うと、私みたいなのがクーリヴェン公爵夫人でいいのだろうかとそんな気持ちにさえなった。
謁見の後は子供達も呼んでしばらく陛下たちも含めてお茶をすることになって、余計に緊張した。
だってね、まさか王家の方々のプライベートな場に私が居ることになるとは思ってもいなかったもの。
それに途中で王太子殿下達もいらっしゃったの。クリティドと同年代の王太子殿下は、昔からクリティドと親しくしていたみたい。なんだろう、クーリヴェン公爵家とバルダーシ公爵家のいざこざで、上位貴族の関係性は怖いものも多いのかなと思っていた。
だから王家との関係も本当は一筋縄ではなかったら……というのも考えてしまったりしていた。けれどそうではなさそうでそのこともほっとした。
私が思っているよりもずっと優しい世界が広がっているんだなとそう思った。もちろん、表面上で見えているものだけが全てじゃないとは思っている。それでもバルダーシ公爵家の出来事に関わって、恐ろしい世界が広がっていると――そういう気持ちにどうしてもなってしまっている。
なんだか平気なつもりでも少しはやっぱり悪影響が残ってしまっているなと思ったりする。
ちなみにバルダーシ公爵家の捕らえられた面々は、牢屋に入れられており判決待ちの状態であるらしい。処刑などはされることなく、長期間での処罰になる予定とは聞いている。
こうしてクリティド達と一緒に居たらきっとそういう気持ちもなくなっていくだろうと確信はしているけれどもね。
それから私たちは一旦屋敷に戻って改めてパーティーの準備をした。陛下たちへの報告は午前中の時間帯で、パーティーは夜からだから。
なんだろう、夜までの間に色んな準備があるのだけどずっと私はドキドキしていた。
パーティーが終わる頃にはもっと、穏やかな気持ちになれているだろうか。
……そう、なれていたらいいな。
私はクリティドに望まれて、公爵夫人として過ごすことを決めたけれど――、やっぱり少し色々考えてしまう。
「母上、緊張してるー?」
「ええ。だって私がクリティドの奥さんとして立つのは初めてだから」
「周りの目とか、気にしなくていいんだよ?」
クリヒムは結構人のことを見ているからか、屋敷で準備中の私の周りをうろうろしていた。それにしても子供達はパーティーに参加するというのに全く緊張などしていないみたい。
二人もあんまりこういうパーティーに参加したことはないはずだけど、これだけ気にしていないのはある意味凄いわ。家族の中で私だけがこうなのよね。こういう様子を見ていると、少しだけ心が軽くなる。
「そうね。大人しくクリティドに守られることにするわ」
「うん。それがいいよ」
「まずはなるべく一人にはならないようにはするわ」
「父上は母上のことをパーティーで離す気ないと思うよ?」
「……そうかしら?」
クリヒムの言葉に不思議な気持ちになった。パーティーの時間は結構な長さなのよ。それなのに、離す気がないなんてことあるのかしら?
幾らクリティドが私のことをその……思っていてくれているとしてもそんなにずっと一緒にいることはないと思うのだけど。
でもどうなのだろう?
一緒にずっといると悪い一面も見えてくるような、そういうイメージにはなる。駄目だわ、私……クリティドが待っていてくれている状況を心地よく思ってしまっている。こうして向けられる思いが嬉しいというだけでも……私はクリティドに惹かれている。
それでもこうして色んなことが落ち着いた今だからこそ、様々なことを私は思考してしまっているのだと思う。今は色々あったから、その影響で……吊り橋効果のようにクリティドが私にああいう思いを向けているだけなのかなって。
「うん。絶対そうだよ。僕もね、母上とずっと一緒に居たいけれど父上が二人になりたいだろうから我慢するんだ」
「そうなのね」
クリヒムの言葉を聞いて私はくすりっと笑った。
――そして緊張しながら過ごしていると、あっという間にパーティーの始まる時間がやってくる。




