王都へ向かう話をされる
「王都へ報告へ向かうですか?」
私がその話を聞いたのは、バルダーシ公爵家の件が片付いてクリティドから告白を受けるという想定外のことが起きてしばらくしてからのこと。
私はクリティドに望まれて、このままクーリヴェン公爵家に夫人としてとどまることになった。
だから公務も少しずつ覚えている。元々はすぐに去るつもりだったから、そういうものに携わらないようにしようと思っていたけれど……その問題は片付いたから。
少しずつ公爵夫人として学び始めている。正直私は元々子爵令嬢だったのもあって公爵夫人としての仕事なんて分からないことばかりなの。というか、バルダーシ公爵家に養子になる際に色々詰め込まれはしたけれどね……。
ちなみにバルダーシ公爵家はクリティドの手によって潰されたので、私は公爵令嬢ではなくなっている。ただの子爵家令嬢が公爵夫人になっているような感じね。
……バルダーシ公爵家の事も含めて、あることないこと噂をされているみたいなの。
正直不安に思うわ。
元々クリティドがあんまり社交界には出ないというのもあって、私は嫁いできてから全くそういうものに出てこなかった。私がこのまま公爵夫人として生きていくのならば、公の場にも出るのよね……! 色々不安だわ。
「ああ。陛下たちが君に会いたがっている」
「え」
正直、ただの子爵家令嬢でしかなかった私は当然王族の方と交友を持つなどというのはない。クリティドの言葉には驚いてしまった。
「バルダーシ公爵家のことを報告する際に君のことも話してある。興味を持たれたようだ」
ああ、そうか。クリティドはクーリヴェン公爵当主だものね。王家とも深いかかわりがあるだろうし……。
私みたいなクリティドを殺すように密命を受けた存在なんて、陛下たちは面白く思わないのではないかしら……? それこそクリティドのことを大切に思っていればいるほど、私よりももっと相応しい方がいるのでは……? なんて、私は心配な気持ちになった。
「ウェリタ?」
考え込む私をクリティドは心配そうに見ている。
「何か心配事か?」
「えっと……クリティドは陛下たちと仲がよろしいのですか?」
「昔からの仲ではあるが」
「私はその……クリティドのことを殺すようにと密命を受けていたでしょう。正直、社交界の場でもどういう噂が流されているかもわからないし……認めてもらえるかしらと心配に思ってしまっていて」
普通に考えたら夫を殺そうとしていた花嫁なんて傍に置きたくないものでは?
クリティドはその……私のことを好きだとそう言ってくれているけれど、普通なら自分を殺すように命じられた存在に思いを寄せるなんてあまりないと思うの。
「大丈夫だ。私は周りがどう言おうとも、君を手放す気はない」
「……っ」
も、もうどうしてクリティドはこうも恥ずかしいことをさらりと言うの? キャラ変わってないかしら? いや、でも元々分かりやすい面はあったけれど……。前世も含めてこんなに情熱的な言葉を向けられたことはないのよ!
「あ、ありがとう。あの、社交界での噂などはどうなっているの?」
「可愛いな」
ぐっ、本当に顔が赤くなっている気がするわ。そんな甘い笑みを可愛いなんて言われたら、もう……!
いっぱいいっぱいになって、頭が働かないわ。
「社交界での噂についてだが、様々なものが流されているようだ。ウェリタが懸念しているように悪い噂も当然ある」
「……やっぱりですか」
「ああ。だが、何も心配する必要はない。陛下からの提案で、王都でのパーティーで見せつければいいと言われている」
「み、見せつけるとは?」
「私たちの不仲も囁かれているらしい。だから、それをどうにかすればいい」
「そうなんですね……。確かにそういう噂が流れているのならば、仲を見せつけるのは必要かもしれないですが。なら、その……わ、私も意図的にクリティドに引っ付いたりした方がいいのかしら?」
私はそう言いながら、自分で何を言っているんだろうとなってしまった。
いや、でもなんというか私はあまりにもこの状況がいまだに夢のようで、こういう言葉を告げられることが慣れなくて。だからか、変な態度を私はなんだかんだしてしまっている気がする。
「効果的であるかどうかはともかくとして、それは私は嬉しい」
「……嬉しいんですか?」
「好いている女性にそういう態度をされたら嬉しいに決まっているだろう?」
「そ、そうですか」
躊躇なくそういうことを言われると、本当に照れて仕方がない。でもそうか……、私が引っ付いたりするとクリティドは嬉しいのか。
「え、えっとじゃあ練習で手を繋いでも……?」
私はクリティドに対して自分がどういう感情を抱いているのか分からない。私はクリティドのことを好ましくは思っているけれど……、同じような熱量を返せるのか否か分からない。
というかそういうのを抜きにしても私とクリティドは夫婦なのだから手を出しても誰も何も言わないし、強引に行ったらおそらく私は流される自信がある。それでもクリティドは私の気持ちを待とうとしてくれているんだろうな。
本当にクリティドって優しい。そういうクリティド相手だから、私はちゃんと向き合いたいとそう思っているのだ。
だからの提案だったのだけど、クリティドは嬉しそうに笑った。
手を差し伸べられて、私はその手に重ねる。
大きな手。
触れているだけでちょっとドキドキする。
「……パーティーってことは、ダンスもですか?」
「そうだな」
「じゃあそれまでにはダンスの練習もしないとですね。私、あんまり得意じゃないのですよね」
「私がリードするから何も心配ない」
そんな風に笑われて、なんだか心配なこともあるけれどクリティドが傍に居てくれたらきっと問題ないのだろうなとそんな気持ちでいっぱいになった。




