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旦那様の謝罪と、ティアヒムの秘密

「え、いえいえ、旦那様が謝ることではないです! というか、旦那様、いつから……その、私が密命を受けていたこととか知ったのですか? それにあの公爵家が潰れたっていうのは……。旦那様達は大丈夫ですか?」




 私は旦那様に謝られる理由はないと思った。



 だってバルダーシ公爵家がクーリヴェン公爵家を狙ったのが悪いのであって、旦那様に悪い所なんて何もないもの。

 そう口にしたら何故か、「ウェリタ!」と名前を急に呼ばれる。

 それと同時に、思いっきり抱きしめられた。



「だ、だだだ、旦那様?」




 こんな風に男性に抱きしめられることなど初めてで、私は落ち着かなくて。なんでこんな風に抱きしめられているかもわからなくて、ただただ動揺してしまう。




「クリティドと呼んでくれ。ウェリタ」




 そんなことを言われて、困惑する。旦那様は私を抱きしめたまま、私に名前を呼ばれることを待っているようだった。ぎゅっと抱きしめている力が強い。

 ……旦那様って、人を抱きしめたりするようなイメージなかったのにな。やっぱり私がよっぽど心配をかけてしまったからかしら。





「えええ、っと、クリティド様?」

「呼び捨てでいい」

「……え、っと?」

「君は本当に他人のことばかりだ。自分の命がかかっているのならば、もっと自分を大切にすればよかったんだ。私は……、君が居なくなったら悲しい」





 抱きしめられたまま、耳元で囁かれる。

 なんて、良い声なの。この状況も相まって、思わず赤面してしまう。

 だって、旦那様――クリティド様がこんなことを言ってくるなんて思わなかったのだもの。呼び捨てでいいなどと言われたけど、呼び捨てなんて!







「父上、母上が困惑しているから一旦離してください」

「そーだよ。父上! 母上と話をするんでしょ」





 クリティド様は子供たちにそう言われて、私の体を離す。





「母上、顔真っ赤! 大丈夫?」

「ええ、心配してくれてありがとう。クリヒム。大丈夫よ」





 私がそう言って笑いかけると、クリヒムは嬉しそうに笑った。可愛い。



 それにしても旦那様の視線が、とても生暖かいというか、とても優しい目……勘違いだと思うけれどまるで愛おしい者を見るような目を向けていて全く落ち着かない。

 落ち着かなくて旦那様から視線を逸らす。だって、目が合ったらドキドキしてしまうじゃない!




「母上」




 そんな私にティアヒムが緊張した面立ちで声をかけてくる。その表情を見ていると、何かあったのかと心配になってしまった。




「ティアヒム、どうしたの?」




 私がそう問いかけると、ティアヒムは意を決したような表情で告げる。






「もしかしたら……母上に嫌われてしまうかもしれないのですが、まず最初に一つお伝えします。私は……人の心の声を聞くことが出来ます」

「え?」

「……気持ち悪かったら、離れてもらって構いません。生みの母親もそれで私を傍に置きたがらなかったので」





 ティアヒムの声も、表情も全てが悲しそうだった。


 苦しそうに私に向かって、諦めたような態度で……。

 私はその様子を見ていると、思わず抱きしめてしまった。だってティアヒムがこんな顔をしているのに放ってはいけないもの。





「え? 母上……?」




 ティアヒムは抱きしめられるとは思っていなかったみたいで、驚いた様子だった。

 私はティアヒムを抱きしめたまま、安心させるように言葉を告げる。




「気持ち悪いなんてそんなこと言うわけないじゃない! それにしてもそんな素敵な能力を持っているのね」





 喋らなくてもお話出来るなんて何だか素敵だわ。童話などに出てくる妖精か何かみたい。確か妖精の逸話の中ではそういう話があったわ。

 幼い頃の私はその絵本を読んで妖精と喋ってみたいなんて思っていた気がする。はっ、ティアヒムはこんなに可愛いから、妖精の血でも引いているのでは……。





「はははっ、本当に母上は可愛いですね。私は人の心を読み取れる力を持っただけの人間で、妖精じゃないです」




 私の心を読んだであろう、ティアヒムはそう言って今まで見せたことのないような笑顔を浮かべている。




「兄上だけ、ずるい! 僕も母上と話したい」

「そうだぞ。君がその能力を持っていたからこそ、ウェリタのことを救うことが出来た。その点は感謝しているが、独占をするのはやめてほしい」




 クリヒムとクリティド様にはそんなことを言われる。

 ティアヒムは呆れたような表情で笑った。




「父上、そんな発言をしていると母上に嫌われますよ?」




 ティアヒムがそう言えば、クリティド様は私の方をまっすぐ見る。どこか不安そうに見えるって……私に嫌われるかもって思っているってこと……?

 私がクリティド様のことを嫌うなんてありえないのに。そもそもこんなに素敵なクリティド様のことは誰だって好ましく思うはずだわ。





「えっと、嫌ったりなんてしません!」

「そうか。なら、良かった」



 クリティド様は、満面の笑みを浮かべる。




 その表情にドキッとしてしまう。なんだかクリティド様、ずっと笑顔を大放出してません? クリティド様って結婚前の噂だと、全然笑わないって聞いていたのに。最近は笑顔を見ることは多くなったけれど、それでもどうしてこんなににこにこしているの!



 こんな笑みを私が向けられていていいのだろうか……。そんな戸惑いでいっぱいの中、ティアヒムの小さな笑い声が聞こえてきた。



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