嫁いできた妻に纏わる話 ③~クリティド視点~
戦力を連れてバルダーシ公爵家の屋敷へ向かい、彼らを捕縛した。公爵一家は喚き散らしていた。
私が王命での捕縛命令を請け負っていることを知ると、私兵が襲い掛かってきた。なんとかその隙をついて逃げようとしたらしかった。
しかしそれを許すことはない。
魔法を使って、すぐさま対応をした。
敵を凍らせ、身動き一つ取れないようにする。
……今の私を見たら、流石にウェリタも怯えるかもしれないなどと思う。
彼女にはこういう姿はなるべく見せないようにしたいとは思う。
馬鹿の一つ覚えみたいに、「私にそんなことをしてもいいと思っているのか!! クーリヴェン公爵はあの娘を気に入っているのだろう。ならば今すぐ攻撃をやめよ! あの娘がどうなってもいいのか」などとあの魔法使いのように脅しつける。
本当に……この者達はウェリタのことをなんだと思っているのだろうか。
――あんなにまっすぐで、優しい女性がこんな者達のせいで命を落とそうとしていたなんて……許しがたい。
「やれるものならやればいい。そんなことはお前達には出来ないが」
冷たくそう告げれば、バルダーシ公爵は私が既に対処済みだと分かったのだろう。顔を青ざめさせていた。
……そこまで怯えるぐらいなら、最初からクーリヴェン公爵家に牙など向けなればよかっただろうに。
まだ私にだけ悪意を向けるのならば、よくあることだから構わなかった。そんなことをしてくるのならば、いつものように対処をするだけだったから。
それなのにウェリタのことをこの者達は巻き込んだ。
きっとウェリタは公爵家の騒動に巻き込まれることさえなければ、もっと平穏に苦しい思いをすることなく過ごせたはずなのに。
バルダーシ公爵はウェリタの命をどうにでも出来ないとなると、次はウェリタの家族のことを口にした。
……こんな風に彼女のことを脅していたのだろうか。それに関しても既に対処済みだ。
ウェリタの家族に関しても既に保護している。
子爵家への援助は、クーリヴェン公爵家が引き継ぐことも王家には伝えている。彼女の不安を全て取り除きたかったから。
「うわあああああああ」
叫び声をあげて、逃げようとするバルダーシ公爵を捕まえる。
……魔法を私に向けてくるが、この程度の魔法で私を傷つけることなど出来ない。
ウェリタの方がずっと、怖ろしい思いをしたはずだ。
自分よりも上位の存在に、脅されてどれだけ怖かっただろうか。そんな状況で、ウェリタはいつだって笑っていた。
「ク、クーリヴェン公爵! わ、私はお父様のやっていたことに関与はしておりませんわ。私も被害者なのです!! だから、あのまがい物の公爵令嬢ではなく、私を妻にしてくれませんか?」
バルダーシ公爵家の娘が、そう言って縋るように私を見る。
打算に満ちた瞳。自分の見目によっぽどの自信があるのだろう。確かに見た目だけなら、客観的に見て美しいとはいえるだろう。だけど――ウェリタの方がずっと綺麗なのだ。
それに自分たちでウェリタを養子にしてこちらに送り出してきたくせに、“まがい物の公爵令嬢”などと口にされることも気に食わない。
そもその話、バルダーシ公爵家がウェリタのことを養子にしたのは……おそらく密命を失敗してもどうでもいいからなのだ。彼女のことを私を殺すための駒としか考えていなかったのだろう。
バルダーシ公爵令嬢は自分は知らなかったなどと逃れようとしているが、そんなことはない。
彼女が家が行っていたことを知っていたのは把握している。
公爵令嬢の言葉を聞いて、公爵やその夫人が喚き散らしていた。
「自分だけ助かろうとしているのか。お前だって知っていただろう!!」「クーリヴェン公爵、私も助けてくださるならいくらでもご奉仕しますわ」
バルダーシ公爵夫人が気色の悪いことを言い始めた。
「なっ、お前、何を――」
「あなたが悪いんですわよ!」
バルダーシ公爵夫妻が醜い言い争いを始める。
……本当になんて、気持ちの悪い連中だろうか。もう二度とウェリタに近づかせたくない。
「連れていけ」
私は騎士達にそう命じる。
バルダーシ公爵夫人も公爵令嬢もずっと喚いている。
「この私を好きに出来るんですわよ!」
「わ、私だけでも助けてほしいのです!!」
自分が助かるためにと、バルダーシ公爵を切り捨てて私に助けを乞う。
……こういう者達を見ていると本当に私の妻はなんて綺麗なのだろうかと思う。
処罰に関しては王国法にのっとったものになるだろうが、処刑などという生ぬるい手段を取らせるつもりはない。ウェリタをあんなにも苦しませて、悩ませておいてただ死ぬだけで終わるなんてさせたくない。
彼女が苦しんだ分だけ、苦しめばいいと思った。
バルダーシ公爵一家を捕らえた後は、早急に彼女の元へと戻ることにする。そうやって対応しているうちに、彼女を縛っていた魔法も、かけた魔法使い側から解除されたらしい。私はそのことにほっとした。ただウェリタの身体に残っている魔法を完全に消し去るには魔法師に確認してもらう必要はあるが。
王家への報告は側近に向かわせた。私は早くウェリタの元へ行って、彼女を安心させなければならないから。
――それに何より、私が彼女に早く会いたかった。




