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嫁いできた妻に纏わる話 ①~クリティド視点~

「なぜ、私はこれまで気づけなかったんだ……!」





 長男であるティアヒムからの相談を受け、事実確認をした。調べて様々なことが発覚した。








 私の妻となった女性、ウェリタは不思議な存在だった。バルダーシ公爵家の養子となった子爵家の娘。表面上は親しくしているものの、何を考えているか分からないバルダーシ公爵家の送り込んできた花嫁。






 最初から、本当によく分からなかった。

 初夜の場で、事情があって二か月で離縁したいなどと告げてきた。





 わざわざ子爵家からバルダーシ公爵家の養子になったというのならば、それだけ野心のある娘かと思ったのに、そんなことは全くなかった。

 夜の営みはない方がいいなどといって、寝るといったら無防備に私の前で寝て。

 私が手を出さないとは言ったとはいえ、初対面の男を信用しすぎだった。

 私を油断させるためにそういう話を切り出しただけで、内情は違うのではないか。警戒心を解けばすぐさま本性を現すのではないかと思っていたのに……本当に熟睡していた。






 長旅で疲れていたのかと思うが、それにしてもよく分からない存在だった。







 公爵夫人という立場になったというのに、どうせ離縁すると思っているのか公務に携わろうともしない。お茶会も開こうともせず、望むことと言えばお菓子を作りたいとかそういうことだけだった。

 余程子供が好きなのか、私と話している時もティアヒムとクリヒムのことばかりだ。







 ……嫁いでくる女性が子供達を虐待でもしたらどうしようかと心配していたのに拍子抜けした。

 周りからも散々言われていた。継母というものは、前妻の子供を疎む者も少なくないと。もしティアヒムとクリヒムを傷つけるような真似をするのならば注意をしなければいけないと思っていたのに、そんなことは全く起こらなかった。





 実際に初夜は行われなかったので、それに対して噂はされていたようだ。しかしウェリタはあっという間にクーリヴェン公爵家に馴染んでいった。

 公爵邸に仕える者達もすっかりウェリタのことを慕うようになっていた。





 ティアヒムやクリヒムだって、微笑むウェリタに絆されていつの間にか仲良くなっていた。……そして私自身も。






 彼女は私の目をまっすぐに見る。

 私は愛想がよい方でもない。ウェリタは私の恐ろしい噂ぐらい知っているはずなのに。

 その薄黄緑色の瞳は、まっすぐに私のことを見つめていた。そこには打算一つ見えずに、恐怖も不安も……何も見えなかった。





 彼女はいつも柔らかい笑みを浮かべている。人を安心させるような優しい笑みで、子供達のことを見ている。

 怖い物知らずなのか、普通と感覚が違うのか、私に対して優しいとか可愛いとか……そんなことを言っていた。






 彼女は、不思議で。どこかちぐはぐだった。





 二か月で此処を去るといっていたのに、私やティアヒム、クリヒムの心にすっと入ってきた。彼女と一緒にいるのは心地が良かった。






 ウェリタの頭の中は、いつも他人のことばかりだった。

 自分のことをもっと考えてもいいのに、いつだって自分のことは後回しにしているように見えた。

 ウェリタのドレスもそうだ。持ち込んだドレスの一部しか着用していないこともよく分からなかった。そのことを聞けば、自分の好みではないなどと言っていた。







 ……彼女がどういう事情でバルダーシ公爵家の養子となったのか、そしてこちらに嫁ぐことになったのか。その理由は彼女自身が語らないので分からない。

 ただきっと、ウェリタは強く望んでこの状況を作ったわけではないのだろうなとは思った。





 すぐに去るから公爵家の資産は使わないなどと口にしていたウェリタには自由に使うといいと言った。





 それでも商人が来た際には、子供達の物ばかり買っていたらしい。執事をつけなければウェリタは自分の物を後回しにしていただろう。本当にいつも、彼女はそうだ。





 湖に彼女を誘ったのは、一緒に行きたいと思ったから。彼女が一緒ならばティアヒムとクリヒムも喜ぶし、私も楽しいだろうと思った。

 実際に湖は楽しかった。……ただ魔物が現れたことだけは予想外のことだったけれども。




 その時だってウェリタは、怖ろしくて体が震えているというのに……クリヒムの心配をしていた。もっと、自分のことを大切にすればいいのにとそう思っていた。





 その後からウェリタの体調が悪くなっていた。

 もしかしたら病弱だからこそ、離縁を申し出ているのかもしれないと思った。医者に診せようといってもウェリタは「大丈夫です」なんて言って笑う。





 私は彼女が、ずっとここに居ればいいのにと思った。

 身体が弱かったとしても、公爵夫人としての務めをこなせなかったとしても、周りが何を言おうとも――私の妻はウェリタのままが良かった。

 でも彼女は……頷かない。






 流され良さそうに見えて、か弱そうに見えるのに――芯の部分がぶれないというか、一度決めたことをやり遂げようとするというか、彼女はそういう人だった。




 ウェリタの事情をどうやったら話してもらえるだろうかと、そう思っていた中でティアヒムからのあの相談があった。

 それから情報を集めて、私はウェリタを守るために、彼女には安全な場所に居てもらうことにした。



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