四人で湖へ ②
「何を見ているんだ?」
「お花を見てたの! 父上はどのお花が好き?」
のぞき込むように私とクリヒムに近づき、問いかける旦那様。それに対してクリヒムが問いかける。
「私には特に好きな花はないが。ただ綺麗だとは思う」
旦那様は花というものにあんまり興味がないみたい。それも旦那様らしいなとは思う。
「父上、私はこの花が好きです」
そんな旦那様に、ティアヒムが一生懸命話しかけている。
なんだかこんな風に、子供にだから見せる笑みを旦那様が見せているのがとても良いことだと私は思う。見ているだけで幸せな気持ちになるわよね。
じっと、私が旦那様のことを見ていると――、そんな私をじっとクリヒムが見ていた。
「ねぇ、ウェリタさんはどうして父上のことをそんなに見ているの?」
「旦那様って、素敵だなって思って」
クリヒムの問いかけに私がそう答えると、私の声が聞こえていたらしい旦那様が変な挙動をしていた。旦那様って、まっすぐに誰かから褒められたりとかを本当にあまりしていないんだろうなと思う。
うん、そういう様子を見ていると旦那様は可愛い。
思わず益々じっと、旦那様を見てしまう。
「ウェリタさんは、父上のことが好きなの?」
「そうね。素敵な方だと思っているわ」
にこにこしながら私はそう告げて、クリヒムの耳元に自分の顔を近づける。
「ほら、旦那様って可愛らしいでしょう。あまり周りから褒められていないからか、こんな風に様子がおかしくなっているのよ」
「可愛い……?」
私の言葉を聞いて、クリヒムは一瞬驚いた顔をする。そんなクリヒムに私は続ける。
「ええ。とても可愛いわ。旦那様って見た目はとてもかっこいいのに、可愛い一面もあるから反則的だと思うわ。今もほら、あんな様子なのだもの」
「うん! 父上、可愛い」
驚いた様子だったクリヒムは、私の言葉ににっこりと笑って同意する。
こそこそと二人でそんな会話を交わしていると、旦那様とティアヒムが近づいてくる。
「何を話しているんだ?」
旦那様にそう問いかけられ、私とクリヒムは顔を合わせて笑った。
「私とクリヒムの秘密です」
「うん。内緒なの!」
二人でそう言って笑いかけると、旦那様とティアヒムはそれ以上何も聞いてはこなかった。
それにしても旦那様の可愛さってあんまり周りに同意されないのよね。侍女達にも「旦那様って可愛らしい所があるわね」と口にすると、不思議そうな顔をされたりするの。私は旦那様のことがとても可愛らしいとそう思うのだけど。
その後は四人で湖の傍をぶらぶらしながら、ゆっくりと過ごした。
その間、一緒についてきた使用人たちは私達に近寄ってくることはほとんどない。家族の時間を大切にさせてくれようとしているのだと思う。あくまで私はお飾りの妻で、家族という枠組みとは違うかもしれないけれど。
それにしてもついてきている使用人達に関しては、バルダーシ公爵家の手がかかっていない……と思いたい。けれど私が知らないだけで、もしかしたらバルダーシ公爵家の手の者がいるのかもしれないと思うと恐ろしいなとそう思う。
だけどまぁ、今は気にせずにこの湖での過ごす一日を思いっきり楽しもうとそう考えるのだった。
昼ご飯を食べる時間まではそうやってゆっくり過ごしたの。
私はこの湖に来るのが初めてだったから、何もかもが目新しいものばかりだわ。
だから余計に楽しい気持ちでいっぱいになる。
お昼の時間、敷物を引いてそこに四人で座り込む。
日差しがぽかぽかと暖かくて、こうして座っているだけでも穏やかな気持ちになる。
「美味しい!!」
「自分で作ったものだからか、余計に美味しく感じます」
クリヒムとティアヒムがそう言って笑っている。
こんな風に子供達が笑っているのを見るのも私は好きだわ。それにね、旦那様も笑っているの。
三人とも自分でこうやって何かを作ってお出かけするなんて初めてだろうから、余計に楽しんでくれているみたい。
「そうね。とても美味しいわ。特にティアヒムとクリヒムがはさんだものは特別だわ」
例えば、サンドイッチにはあまり合わないものがはさまれていたとしても私は子供たちが作ったものだったのならば何でもおいしく食べられるだろうなと思う。
これだけ可愛い子供達が一生懸命用意したものだものね。
楽しく昼食を食べた後は、おやつを食べたわ。
三人が喜んでくれたら嬉しいなとそう思って用意したものを喜んでくれて嬉しかった。
――そうやって楽しく過ごしていたのだけど、その時間は長くは続かなかった。