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四人で湖へ ①

「わぁ、とても素敵なところね」




 サンドイッチの準備をしてから、馬車に揺られてしばらく目的地である湖に到着する。




 私の生まれ育った子爵領には、こんなに大きな湖はなかったからただその大きさに感嘆する。

 ちなみに此処に辿り着くまでの馬車は、四人で同じものに乗ったの。クリヒムが私の隣に座ってくれて、一生懸命話しかけてくれて可愛かったわ。




 ティアヒムは旦那様に話しかけていて、それも見ていてにこにこしてしまったの。

 普段は大人びているティアヒムも、なんだかはしゃいでいる様子で子供らしい様子を見せられると本当に嬉しくなったわ。




「ウェリタさん、見て、魚が泳いでるよ」




 クリヒムがそう言いながら、水面を覗き込む。私も一緒になってのぞき込んでいるの。

 透き通るような水の中を魚たちが気持ちよさそうに泳いでいる。




「素敵な色の魚ね」




 オレンジ色の鮮やかな色の魚。旦那様が私達をこうして連れてきて自由にさせてくださっているから、あの魚も危険ではない魔物なのでしょうね。

 この世界の生物は少なからず基本的に魔力というものを持ち合わせている。ほとんど動物と変わらないような生物も当然いるけれどね。基本的に平民に関しても魔法を使えるだけの魔力を持たない人の方が多いしね。



 ただ世の中には当然危険な魔物も沢山いるの。

 だからこういう自然豊かな場所に向かう時は魔物よけなどをきちんとしておく必要がある。毎年訪れている場所だけあって、この辺りは基本的に安全だろうけれどもね。



 私自身はそういう危険な魔物と遭遇したことはないわ。

 ただの貴族令嬢として生きてきた私にはそういう機会はなかったから。だけど旦那様は……この領地のために危険な魔物が出れば戦うんだろうなんて思う。





「ウェリタさんはおさかなってすき?」

「ええ。好きよ。見るのも好きだし、食べるのも好きだわ」



 私がそう答えると、クリヒムはにこにこと笑う。



 私は食べることがとても好きだから、こういう魚も美味しく食べているのよね。前世だとお寿司とか、刺身とかも好きだったけれど――この世界だと生魚は食べないのよね。それもそうよね。生だと身体を壊してしまう可能性もあるもの。



 私はお菓子作りの知識はあるけれど、魚をさばいたりするような知識はないわ。前世で読んだ漫画などの中では、そういう知識が完璧な登場人物もいたけれど私はそういうのは出来ないもの。

 大体、それだけ特別だったらこの状況もどうにか出来ただろうし。





「ウェリタさんって、食べることが好きだよね」

「ええ。だって美味しいものを食べると自然と笑顔になるでしょう?」



 私がそう口にすると、クリヒムも同意するように頷く。



 クーリヴェン公爵家にやってきてから、実家では食べられなかったような高価な食材も沢山出てきているのよね。毎日三食、美味しいに溢れていて私は嬉しくて仕方ないもの。それにお菓子だって作り放題だもの。

 密命さえなければ本当に幸福すぎる場所なのになと思ってならない。






「商人からね、作ったことない料理やお菓子のレシピも買ったから今度一緒に作りましょう」

「うん!」





 私の言葉に笑顔で頷くクリヒムを見ているだけで、にこにこしてしまう。




 私が嫁いできてしばらくが経過し、クーリヴェン公爵家に私が居る期間も限られている。その間にどれだけクリヒム達と一緒にお菓子を作れるだろうか?

 今のうちから、私が亡くなった後も手紙を子供達に送るようには秘密裏に手配は進めているけれど……!



 魚を見ながら二人で話した後、クリヒムは飽きたのか立ち上がって「ウェリタさん、こっち行こう?」と私のことを誘ってくる。

 こんなに可愛らしく誘われたら断れないわよね! 当然、私はクリヒムについていく。





 途中からクリヒムが私の手を握ってくれたの。なんだかエスコートをしてくれるように先を歩いてくれるのよ。



 きっとクリヒムは大人になってもこういう風に女の子を素敵にエスコートするのだろうと想像出来る。

 ティアヒムもクリヒムも旦那様に似ているから、同じようにかっこよく育ちそうだもの!

 そういう大人になった二人を見ることが出来ないのは少し残念だと思ってしまう。

 だって旦那様と、大人になった子供達が並んで立っていたらそれだけでとても絵になるものね。旦那様は年を重ねてもきっと素敵なままだと思うし、想像しただけでも何だかワクワクしてくる。





「僕ね、この花好きなんだ」



 クリヒムが見せてくれたのは、青色の綺麗な花。



「とても綺麗な花ね」

「うん。毎年、この時期に咲いているの。僕、昔からこの花好きなんだ」



 クリヒムはそう言って、にこにこしている。

 それでいて「お花が可哀想だから摘まないの」なんて口にしていて、うん、可愛い。



「私もこの花、とても好きだわ」



 私たちがそう言って会話を交わしていると、旦那様とティアヒムが近づいてくる。


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