私の決意
旦那様を殺すミッション。
それは成功してもしなくても、破滅しかないものだ。
成功した場合は、ご子息二人が不幸になる。新しいお母さんがお父さんを殺そうとしたなんて地獄絵図すぎる。子供好きな私としては、そんな未来は作りたくない。
成功しなかったとしても子爵家の娘を養子にまでしてやったのに恩を仇で返されたとか、勝手にそういう風に言われるだろう。あくまで勝手に私がやったこととして処理をされて、バルダーシ公爵家は素知らぬふりをすることを簡単に想像が出来る。
ただあれなのよね、私が言うことを聞かないと三か月とはいわずにすぐに死ぬことになる気もする。
私は旦那様を殺さなければ死ぬ魔法はかけられているのだけど、それ以外にも外に情報を漏らすことが出来ないようにもされている。
……本当に上位貴族って恐ろしいわ。
私の実家は、私が養子になることを条件に多額の支援をバルダーシ公爵家から受けている。
私の産まれ育った子爵領。私の大切な故郷。そこは数年前に天災に見舞われた。
それこそ子爵領の人々を養っていくことが難しいほどの大変な事態に陥っていた。
だからこそ、バルダーシ公爵家から支援の申し出を受けた時、とてもありがたかった。……その時はまさか、こんな命令を受けるなんて思ってもいなかったけれど。
あれよね。
どちらにしても、私の死は決まってる。
だって魔法に長けている旦那様を私がどうやって殺すの? 噂通りならとてつもなく強いはずよ。
もしかしたら床の場で、旦那様をメロメロにして隙をついて……みたいなのを期待されているのかもしれないけれど。
ちらっと設置されている鏡に視線を向ける。
明るい茶色の髪に、薄緑色の可愛らしい顔立ちの少女の姿がある。……これが今世の私。
それなりに可愛い方だとは思う。うん、悪くはないけれどよくもないみたいな。
旦那様はあの見た目だし、異性から好意を向けられることも慣れていると思うのよね。それこそ絶世の美女とか、可憐な美少女とかに迫られていると思うもの。
だから、まず難しいのでは? とそう思っているの。
正直前世の記憶を思い出す前は、なんとかして旦那様を殺さなければ……と悲観的になっていた。
それは私が命令にそぐわなければ私が死んで、そして実家の家族も死んでしまう可能性がずっと大きかったから。家族のためにもどうにか殺さないといけないとそんな気持ちでいっぱいになっていた。
でも前世の記憶を思い出すと、これはもしかしたら失敗前提なのかもしれないと気づいた。
だって寄親のバルダーシ公爵家からしてみれば、クーリヴェン公爵家の勢いをそぎたいだけだ。
再婚した妻が夫を殺そうとするのも、失敗して三か月で亡くなるのも――どちらにしてもスキャンダルだ。おそらく私という駒を使って、クーリヴェン公爵家の評判を落としたいだけだと思う。
「なら、好きなようにしよう」
私が結論付けたのは、旦那様を殺そうとはしないこと。だって子供たちが不幸になるようなことを私はしたくない。二か月ちょっとで離縁してもらって、ひっそりとどこかで死のう。
それが一番平和的な気がする。
そう、私は腹をくくることにする。
結婚式に関しては明日行われる予定らしい。自分の結婚式というのは、前世も含めて初めてだ。
こういう状況でも、結婚式というのが少しだけ楽しみになっている。
……綺麗なドレスを着て、結婚式を挙げるのは素敵なことだと思うから。結婚式は質素なものだとは言われている。あくまで大々的に行うようなものではなくて、本人たちだけでひっそりと行われるもの。
ご子息たちは居るかもしれないけどね。
それにしても彼らの結婚式での衣装を見れるだけでも楽しいわよね!!
短い間とはいえ、死ぬ前に美形な旦那様と可愛い息子が二人も出来るのだから楽しまないと。
でもひとまず、旦那様にはきちんとお話はしないといけないわ。
ただ他の人達に聞かれるのもどうかと思うので、結婚式の後の――初夜の時なら二人っきりで話せるかしら?
旦那様は私に関して興味などはないだろうから、私が二か月で去りたいといってもそれを受け入れてくれるのではないかしら? なんか雰囲気的に去る者を追いかけたりなどしない気がするもの。
結婚式のドレスとかは、バルダーシ公爵家から持ってきたものを着ることにしている。侍女からの話では、結婚式が行われるからと食事も豪勢にしてくださるみたい。
正直養女になるまでは子爵家の屋敷でしか過ごしてないから、こういう高価な家具が沢山ならべられていたり、沢山の侍女達に仕えられるのは慣れない。
私の実家なんて、料理などを作ってくれる侍女が一人いただけだったもの!! ある程度自分たちでやっていたわ。
これだけ綺麗で大きな部屋に一人も、少しだけ寂しいわよね。まぁ、残り二か月だけだから思う存分楽しむ方がいいのだけど!!
それにしても結婚式って、口づけなどするのかしら? ちょっとそれは緊張するわ。
そんなことばかり私は考えてしまっていた。