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朝から昼ご飯を準備する。

「では、はじめるわよ」





 さて、湖に向かうその日がやってきた。

 この日が来るまであっという間だった。楽しみで仕方がなかった。




 そういえばその間に旦那様に子供たちの家庭教師のことは報告した。詳しくは聞いていないけれど、別の方に変わっていたからやっぱり何かしら問題があったのだと思う。

 旦那様にはそのことは感謝された。




 湖に向かう朝、早起きをした私は旦那様と子供たちと一緒に厨房にきている。

 子供たちに関しては私と一緒にお菓子を作ることも最近は多かったけれど、旦那様がこうして厨房へと顔を出すことはないから料理人たちはどこか緊張した様子である。

 今回は食べやすいサンドイッチなどを作ることにしている。





「沢山の具材を用意したから、好きなのをはさんでね」




 私はそう言って三人に向かって笑いかける。




 前世でもそうだったけれど、自分で選んで好きなものをはさめるのサンドイッチって本当に素敵な食べ物よね。

 特に子供ってこういう風に誰かに決められるではなくて、自分で決めるのが好きよね。こうやって子供達の自主性をはぐくませるのもとても重要なことだと少なくとも私は思っているの。





「なんでもはさんでいいの?」

「ええ。そうよ」





 もしかしたらサンドイッチに挟むには適さないものもあるかもしれないけれど、こういうのって何でもはさんでいいと思うのよね。

 前世でもサンドイッチは色んなものがはさまれていたわ。それこそこんなものまではさむの? と驚くようなものも色々あったはずだもの。この世界の一般的なサンドイッチだとレタスやハムとかかしら。でも他のものもはさんでいいと思うの。マヨネーズがこの世界にあったらいいのになと思うけれど、今の所、見かけたことはないのよね。






「……チョコレートなどもあるのはどうしてだ?」

「こういうのもはさむのもありだと思っているからですよ! サンドイッチって何でもはさめて無限の可能性がありますよね」




 やっぱりチョコレートなどは一般的にサンドイッチに挟んだりしないらしい。とはいえ、別にははさんでもいいと思うのよね。こういうがっつりとしたご飯系ではなくて、おやつ系のサンドイッチもありだと思っているのよね。



 旦那様の表情を見ると、あら、私ってば前世の記憶を思い出してから突拍子のない行動を無意識に結構してしまっている? と気づき、少し心配になる。

 サンドイッチに普通ならはさまないものも沢山用意してしまっているのよね。旦那様に頭がおかしいとか思われたらどうしようかしら。



 なんて、思ったのだけど――、



「そうか」



 旦那様はそう言うだけで、特に止める気はないようだ。




 旦那様から許可をいただいたので、私は意気揚々とそれらでサンドイッチを作ることにする。





 ティアヒムとクリヒムが楽しそうにサンドイッチの具材を選んでいるのは予想通りなのだけど、案外、旦那様も積極的だわ!

 旦那様は公爵家の当主なので、当然こういうことはやったことがないはずなのだけど、やっぱり子供たちと一緒に共同作業をしてみたいと思われたのかしらね?




 それにしても初めてのことだと思うのに、旦那様は手際がいいわ。やっぱりイメージ通り、旦那様は何でもそつなくこなすタイプなのだろうと思う。何か苦手なことでもあったりするのかな? 旦那様の苦手なことってあんまりイメージがつかないわ。



 じーっと旦那様のことを見てしまう。





「どうした?」

「旦那様ってサンドイッチづくりも上手ですよね。なんか何でも得意そうだなと思いまして、不得意なことがあるのかなと」

「人づきあいは得意ではない」

「あ、それは解釈一致ですね。旦那様ってあんまり人と深く話しているようなイメージないですもの。パーティーなどでもあんまり人とおしゃべりしないんですか?」

「……あまり話しかけてくる者は少ないが」

「そうなんですか。もったいないですね」




 旦那様は私の何気ない、どうでもいいような話題にもちゃんと答えてくれる。

 子供達と一緒にサンドイッチを作りたいだけなら、私の話なんて最悪無視してもいいのに――うん、やっぱり旦那様って優しい人だと思う。




「もったいない?」

「はい。だって旦那様を恐れて話しかけない方達は、旦那様の素敵な一面を知らないままでしょう? 少し話してみれば旦那様の良さがわかるはずですもの」





 旦那様は魔法が得意で、その恐ろしさで周りから敬遠されている。それに一度目の妻を亡くして、再婚だからって理由で中々結婚相手も決まらなかった。だから、私が旦那様の再婚相手になった。

 でも旦那様ってこれだけ素敵な方なのだ。



 少し過ごしただけでも私はすっかり旦那様と一緒に過ごすのが心地よいと思っていて、すっかりその優しさを好きになっている。とはいっても恋愛的な意味ではなく、人としてね。これから死ぬ予定の私がそういう恋愛的な感情を抱くわけにはいかないもの。






「……そんなことを言うのは君だけだ」

「あら、見る目がないですわね? 旦那様はこんなに優しい方なのに」




 にっこりと笑ってそう言えば、旦那様は気まずそうな表情でそっぽを向いた。もしかしたら照れているのかもしれない。そういう様子を見ると、案外、旦那様って可愛い方よねと改めて思う。

 あんまりこういうこと言われ慣れていないのかしら?



 きっとこんなに素敵な旦那様なら私が居なくなった後にすぐに素敵な奥様を見つけられるはずだわ。

 ――それを考えると少しだけ寂しくなったけれど、まぁ、仕方がないことだわ!




 そういうわけで私は気持ちを切り替えてサンドイッチづくりを続けたのだった。



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