子供達にプレゼントをする
「ありがとう、クリヒム。ティアヒムはどうかしら? このドレス、新しいものなの」
クリヒムにお礼を言った後、私は黙ったままのティアヒムの方を向いて笑いかける。
「……似合ってます」
「まぁ、ありがとう! とても素敵なドレスよね。少し高価なものだから汚してしまわないかそれだけが心配だわ」
こういう高価なドレスはたまにこうやって着るのはいいけれど、流石に毎日着るのは正直言って落ち着かないのよね。だからしばらくしたらまたバルダーシ公爵家の用意してくれたものを着そうだわ。
「別に汚しても新しいものを買えばいいでしょう」
「もう、そうはいっても結構な値段するのよ?」
「ウェリタさんは我が家の夫人なのですから、そのくらい特に問題はありません。父上もそういうはずです」
ばっさりとティアヒムにそんなことを言われる。確かにそうなのかもしれないけれど……、此処にいる間のたった二か月で散財をしすぎるとなるとまずいと思うのよね。私にお金を使うよりも、子供たちにお金を使う方がずっといいわ。
「そうかもしれないけれど、なるべく汚さないようにはする予定よ。ところで商人からあなたたちに使ってもらいたいものを買ったの。良かったらもらってくれる?」
私がそう口にすると、クリヒムは目を輝かせ、ティアヒムは一瞬驚いた顔をする。
「僕たちに?」
「私たちのものですか?」
同時にそんなことを口にする二人は、しゃべり出すタイミングがぴったりで兄弟だなと思う。
「ええ。二人は私と一緒にお菓子を食べてお喋りしてくれるでしょう? それが嬉しくて、もっと仲良くなれたらと思ったの」
私の独断で決めたものだから、喜んでくれるかなという不安はあるけれどね。
そして使用人たちに購入したものを持ってきてもらう。商人から沢山のものを購入したの。子供達のものだけでも本当に大量に。
だから持ち込まれたものを見て驚いた顔をする。あまりにも量が多かったからだろう。
「……ウェリタさん、これ全て私達へですか? 買いすぎでは?」
「そうよね。私も自分でそう思っているわ。でも二人が喜んでくれるかなと考えたら、沢山買ってしまったの」
商人の方は、私が欲しいと思うものを沢山持ってきてくださっていたの。
おそらく旦那様が事前にそういうものを持ってきてくれるようにと商人に頼んでくれていたからだと思う。
「そうなんだ。ありがとう、ウェリタさん」
「嬉しいですが……、もっと自分のものを買ってはどうですか?」
無邪気にお礼を言うクリヒムと、そう言いながら私のことをまじまじとみるティアヒム。
「自分のドレスも色々と購入したわ。だから私のものはもう十分なの」
「十分ではないでしょう。侍女達に聞きましたが、アクセサリーなどもあまりお持ちではないのでしょう? 父上に買ってもらったらどうですか?」
「手持ちの物だけで十分だわ」
確かに社交界の場にどんどん出る必要がある公爵夫人ならば、もっとアクセサリーは居るかもしれない。私がクーリヴェン公爵家に持ちこんだアクセサリーは実家から持ってきた二つとバルダーシ公爵家が用意してくれた煌びやかで大きな宝石のついたものだけだ。
とはいってもバルダーシ公爵家が用意してくれたものは、あくまでクーリヴェン公爵家に違和感を持たれないように最低限準備されたものでしかないけれども。
「そうですか……。でも必要だと思ったら用意してもらいますからね?」
「ふふ、ありがとう。私のことを心配してそう言ってくれているのね?」
クーリヴェン公爵夫人として相応しくないものを見に付けていたら私が周りから笑われてしまうというのが分かっているからこその言葉だと思う。
「……心配なんてしてません」
なんていっているけれど、ティアヒムの思いやりを感じて私はにこにこしてしまった。
「ねぇ、兄上、ウェリタさん。僕、これで遊びたい!」
私とティアヒムが話していると、クリヒムが突然そんなことを言いだした。クリヒムが手に持っているのは、所謂ボードゲーム。前世でいう所のチェスのような玩具があるのよ。
チェスの駒は前世とは違って、魔物だったりするのだけど。
そういうわけでクリヒムの誘いに乗って、早速三人で遊ぶことになったのだけど……、
「全く勝てないわ!」
私は全然子供達に勝てなかった。
……た、確かに私は前世も今世もこういうもので遊ぶことはあまりなかったわ。たまに触れたことがあるぐらい。
でもまさか子供達に負けてしまうなんて、二人ともなんて強いのかしら。
「驚いたわ。ティアヒムもクリヒムもこんなに強いのね!」
こんなに可愛くて、魔法の才能があって、こういう遊びまで強いなんて本当に素晴らしいことだと思う。
「あなたが弱いだけです」
「兄上、そんなに言っちゃ駄目だよ」
弱いなどと言われてしまったけれど、事実であるし、特に何か思うことはない。
「……弱いと言われて、どうしてにこにこしているんですか」
「だって私が弱かったのは本当だもの。それよりこんなに弱い私だけど、もっと強くなるからまた遊んでくれる?」
私がそう問いかければティアヒムは呆れたような顔をして、そしてクリヒムはにこにこして頷いてくれたのだった。




