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商人がやってきました

「はじめまして。クーリヴェン公爵夫人」




 目の前でにっこりと笑う、壮年の男性。

 彼は旦那様が呼んだ商人である。確かにこの前、旦那様は商人を呼ぶと言っていたけれど、こんなに早くやってくるとは思わなかった。



 それにしても目の前の商人はクーリヴェン公爵家と昔から関わりがある方だと聞いているけれど、私のことを見てにこにこしている。

 悪意や敵意などはまったくないように見える。






 ひとまず私は子供たちに渡すものを選ぶことにする。





 何をプレゼントしたら喜んでくれるだろうかと頭の中はそればかりだ。

 魔法に関する本とか、ぬいぐるみとか、あとは実用性のある文具とか、使い勝手の良いハンカチとかでもいいわ。

 ハンカチを購入するなら、刺繍を入れたりするのもありよね。

 そんなことを考えると何を買おうかと私は悩んでしまう。







「どれを買おうかしら?」

「お悩みでしたら、全てご購入されては?」

「……いえ、流石にそれは買いすぎだわ」



 商人の言葉にそう答えると、小さく笑われてしまう。




「クーリヴェン公爵夫人は子爵家の出とは存じておりますが、あなたは今公爵夫人なので全て購入しても問題がないと思いますよ」



 商人にはそう言われ、



「奥様、旦那様からは公爵夫人としての予算内に収まらなくても公爵家の予算を使っても構わないと言われておりますので、幾らでもご購入ください」


 傍に控えていた執事の一人にもそう言われる。





 今回、商人との対応の際、旦那様付きの執事も同行してくれているのよね。どうしてなのだろうと思っていたけれど、このことを伝えるためだったのかしら。




 ……それにしてもそんなことを言って、私が公爵家のお金を食いつぶすような存在だったらどうするつもりなのだろうかと心配になる。もし本当にそれだけ散財しようとしたら執事は止めようとするだろうけれど、こうも人を信用するなんてと旦那様のことが心配になってしまった。

 優しすぎてしまうから、誰かに騙されたり、悪意のある人が近寄ってきたりするのではないかってそんなことを考えてしまう。




「……そうなのね」




 旦那様にはあとでお礼は伝えておくとして、本当に全部購入してもいいのかしら。



 こんなにたくさんのものを買いこむことなんて今までしたことがないから、本当にいいのだろうかなんて気持ちになる。

 ただにこにこしながら、商人にも執事にも、周りの侍女達にも見つめられ子供たちのものを色々と買い込む。



 それにしても公爵夫人としての費用って、かなりの額なのね。

 ……これだけ購入しても問題がないなんて、よほどクーリヴェン公爵家は裕福なのだと言うのがよく分かる。



「ではこれだけいただくわ」




 そう言って子供達のものを選び終えたら、執事にこほんっと咳ばらいをされる。

 なんだろうと思ってそちらを見ると、執事がこんなことを言い始めた。




「奥様の衣服は買わないのでしょうか? 旦那様からは購入するようにと言われてますが」



 そう言われて、そういえばそんな話を旦那様とした気がすると思い出す。




 子供たちのものだけ購入出来れば私は満足だったのだけど……。

 ただ流石に何も買わないと旦那様も納得しなさそうなので、一先ず二着ほど購入する。二か月で去る予定の私に沢山の衣服なんて不要だわ。




 ……そう思っているのに、



「奥様、少なすぎるかと思います」


 そんな風に言われて執事がてきぱきと商人と購入の手続きをしていた。

 どうやら旦那様から最低何着は購入するようにといったことを伝えられていたらしい。





「こ、こんなに買うなんて。高価なものも多いのに……」



 なんていうか、高級素材を使われているものも多くて私は驚く。




 だって貴族の出とはいえ、ただの子爵令嬢だった私では手が届かないものばかりだわ。

 王都でも有名なデザイナーのものまであるじゃない!! 旦那様ってば、私のためにこんなものまで商人にお願いしていたの? と驚く。




 結局私が驚いている間に、色々と購入手続きは進んでいた。

 私の好きな色のドレスを全部購入が決まっていたり、ほ、本当にいいのかしらとそう思ってならなかった。

 こんなに沢山あっても全部着きれるか分からないのに、それでも問題がないらしい。




「奥様は公爵様に愛されているのですね」




 なんて、商人から言われたけれどそんなことは全くない。事実無根なことを旦那様が思われているのはどうかと思うので否定しておいた。



 旦那様は優しいから私に対してこういう思いやりを見せてくれているだけだものね。

 そもそも私が居なくなった後に旦那様はまた再婚されることになるかもしれないし、ちゃんとそのあたりは誤解が深まらないようにはしておかないといけないとそう思う私だった。



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