旦那様の、氷の魔法
旦那様と子供達と一緒に中庭へと向かう。
クリヒムは私の手を引いてくれていて、その前を旦那様とティアヒムが歩いている。
私達四人が連れ立っているのを見て、使用人たちが驚いた顔をしているのが分かる。
まぁ、それもそうよね。私が別々で旦那様や子供達と過ごしているのは使用人達も見ているだろうけれど、四人そろっているってこれまでなかったものね。
そう考えると少しは仲良くなれたのかしら。
楽しいなと私はそんな気持ちでいっぱいだ。……まぁ、そんな中でもバルダーシ公爵家の手の者からの視線は向けられているけれどね。
後から何か言われるかしら?
ちょっとそれは怖いわ。
正直ね、今の私は魔法も上手く使えないし、自分のことを捨て駒としか思っていない人と会話を交わすことも、何かを命令されることも……嫌だなと思っている。出来ればそういう恐ろしいことが一切なければ良かったのに。
私の死が確定していることや、私が命令に背けば家族や領地が大変なことになる状況じゃなければもっと良かったのにな。
この後のことを思うと、様々なことに思考を巡らせてしまう。
……私がなかなか旦那様を殺すために動かないから、向こうからすれば思う所はあるだろう。
ここぞという時に行動を起こすためとか、そういう風に理由をつけて先延ばしにする予定ではあるけれど、どこまでごまかせるだろうかと少し気が重い。
まぁ、やるしかないのだけどね。
そんなことを考えながら中庭へと到着する。ふと屋敷を見れば、二階の窓から使用人たちがこちらを見ているのが分かる。旦那様が魔法を使うと聞いて興味津々なのかしら。
当たり前のことだけど、魔法というものは少なからず危険なものが多い。旦那様は敢えて人前で魔法を見せるということも特にしていないだろう。あとは……旦那様は周りを怖がらせないようにとそう思ってあまり魔法を見せないのかもしれない。
そういう部分は旦那様の優しさだとは思う。
「下がってみていてくれ」
そう言われて旦那様より後ろに私と子供たちは立つ。
旦那様の魔法をいざ、見れると思うと高揚した気持ちでいっぱいになる。
旦那様のように実力のある魔法使いの魔法を見るのは初めてだ。私は特に戦場などには行ったことはないし、私の実家の領地にはそんな魔法使いはなかなか訪れることはない。だって田舎の、小さな領地だもの。
私にとって大好きな自慢の領地だけれども!
好きなところは幾らでも語れる。例えば、屋敷の少し南に流れている川。とても透明で綺麗で、私はそこに赴くのも好きだった。例えば、一面に広がる小麦畑。領民たちは農家が多く、その一面に広がる地帯を見るのも好きだった。
旦那様は私の目の前で、魔力を集中させる。まぁ、凄いわ。
前に出した手の平にあれだけ高密度の魔力を集められるのね。旦那様は魔力量がとても多いように見える。
その魔力が、目の前へと放たれる。
――庭の一角が綺麗に凍っていた。
一瞬で氷の世界へと切り替わる感覚に、驚く。
なんていうか、これでも旦那様はちゃんと周りへの被害が最低限になるように手加減をしているとは思う。そうじゃなければ旦那様の魔法で中庭は大変なことになっているだろう。
一部の場所のみを綺麗に凍らせていて、それでいて私達には悪影響がないようにしてくれている。
「……なんて綺麗なの」
どこまでも綺麗で、幻想的で。
それに旦那様の練った魔力って、純度が高いというか。あとは魔法自体が全く無駄な部分がなくて、本当に見ていて惚れ惚れする。
子供達の魔法も私からしてみると凄いなと思えるものだったけれど、旦那様はもっと素晴らしいわ。
「……待て、人の魔法に不用心に近づくのはやめた方がいい」
私は気づけば、魔法に近づこうとしていた。あまりにも綺麗で、もっと近くで見たいとそんな風に思ってしまったから。
「でも旦那様は私に危害を加えるつもりはないでしょう? だから、大丈夫だと思って」
私がそう口にすると、旦那様は驚いたような表情になる。
「……君は人のことを信用しすぎだ。もう少し警戒をした方がいい。尤も私は君を害するつもりは確かにないが」
「なら、いいじゃないですか。旦那様の魔法を近くで見させてもらいますね」
私はそう言って旦那様の魔法をまじまじと見る。
魔力の濃度が高くて、強い力が感じられる。見た目も綺麗だし、その完成された魔法をじっと見ているだけで気分が高揚する。
こんな風に一瞬で凍らせることが出来るなんて、本当に素晴らしいわ。
もっと大規模な魔法を使ったらどんなふうになるんだろう?
きっとそれも綺麗なんだろうな。旦那様の大規模な魔法を見てみたいなと好奇心にかられるけれど、必要がなければ危険もあるし、そんな魔法は見れないわよね。
私は夢中になって、魔法をしばらく見続けた。
「父上、ウェリタさんは魔法が好きみたいです」
「……そうだな」
旦那様と子供たちがそんな会話をしているのも私は聞いていなかった。
それぐらい夢中になっていた私はしばらくして我に返り、「旦那様、魔法を見せてくださりありがとうございます」と旦那様へとお礼を告げるのだった。




