旦那様と、クッキー
「……父上、喜んでくれるかな」
「喜ぶに決まっているでしょう? 可愛い子供が自分の為に作ってきたものなのよ?」
ティアヒムは不安そうにしていた。
子供達の目から見た旦那様は、どういう感じなんだろう? 私の目から見る旦那様とはやっぱり違うのかな。ティアヒムからすると特に尊敬する父親で、跡取りとして自分が目指さなければならない人というフィルターでもかかっているのかも。
確かに噂通りの旦那様ならば、子供が作ったクッキーなんて食べなさそうだし、そういう暇があったら勉強するようにとか言い出しそうだものね。でも実際の旦那様って嫁いできたばかりの私のお菓子も食べてくれるし、子供のこともとても可愛がっているもの。
「父上が僕たちの作ったクッキーを食べてくれると思うとドキドキする」
「ふふっ、クリヒムは可愛いわね」
本当に可愛い。
思わず頭をなでなでしてしまった。
ティアヒムもクリヒムも旦那様のことが大好きなのよね。旦那様も子供達も互いに大切にしあっているのにどこか遠慮しがちなのはもったいないわ。
ティアヒムとクリヒムを連れて、旦那様の執務室へと向かう。
事前に侍女経由でお菓子を持っていくことは伝えてあるのだけど、折角だからサプライズしようと思って子供達とお菓子を作ったことは内緒よ。
まぁ、子供達にお菓子作りをしてもらうという許可はもらっているけれど、子供達とお菓子を作ったのが今日だとは旦那様は知らない状態ってことなの。
領主としての仕事に励む中、思いがけず子供達からのお菓子……なんて素敵なのかしら!
でも一回やってみて旦那様がそういうサプライズが嫌いなタイプだとわかったらもうやらないけれどね。一度ぐらいなら大目に見てくれるはずだわ。
「じゃあノックするわね」
私はそう言ってどこか緊張した様子の子供達を横目に執務室の扉をノックする。
私がこうやって旦那様の元へお菓子を持っていくのは最近ではよくあることなので、旦那様はすぐに「入るといい」と入室の許可をくれた。
まずは私が率先して中へと入る。そしてその後ろからは何処かおそるおそるな様子で子供たちも進み始める。
邪魔してはいけないと思って、あまり執務室には子供達は来ないのかもしれない。
旦那様は書類に視線を落としていてこちらを見ていなかったが、気配で子供達がいることに気づいたようだ。
「ティアヒムとクリヒムも一緒か。どうした?」
子供達に向かって、疑問を投げかける旦那様。いつも通りの無表情気味。うん、旦那様って結構感情が分かりやすいタイプだとは思うけれど、デフォルトはこんな感じで分かりにくい部分があるのよね。
子供達もこういう表情の旦那様ばかり見ているからこそ、クッキーを喜んでくれるかと少し心配していたのかも。
ティアヒムが私の方を見ている。クリヒムもなんて言いだそうかと少し悩んだ様子。
そんな二人に向かって私はにっこりと笑いかける。大丈夫だよ、というそういう意味も込めて。
そうしたら二人は安心してくれたのか意を決した様子で口を開いた。
「父上……ウェリタさんと一緒に、お菓子作ってきました」
「僕たち、一生懸命作ったから父上に食べて欲しいの」
そんな風に告げる二人の姿は、可愛い。それに子供達のそんな言葉を聞いて、旦那様は驚いた様子で固まっていたの。その様子も可愛いなんて思ってしまう私であった。
なんか、旦那様も子供達も可愛くて、見ているだけで幸せな気持ちになるわよね。
「そうか。いただこう」
旦那様がそう口にしたら、一気に子供達の表情が明るくなった。
そして侍女に指示を出してクッキーを持ってきてもらう。
「美味しそうだな。それに色んな形がある」
旦那様はそう言いながらクッキーを一つ手に取る。色んな型を使って焼かれたクッキーなので、その形は様々である。旦那様が手に取っているのは星型のものなの。
そういえば、この世界って前世とはやっぱり異なるから夜空に浮かぶ星々も全然違うのよ。魔法などもあるから、完全に異世界なのだけど……そういう自然の違いを見ると余計に前世とは全然違うのだなと実感したわ。
「色んな形で焼きたくなったから、色んな型を使ったんです」
「父上、食べてみて」
ティアヒムとクリヒムがそう言うと、旦那様は口の中へとクッキーを放り込む。
その様子を固唾をのんで見守る二人。
なんだかこんな素敵な親子たちを見ているだけでにこにこしてしまうわ。
この場に私が居て邪魔じゃないかしらとは少し思うけれどね。私は旦那様と結婚はしたけれど、三人と家族というわけでもないし……。
「良い出来だ」
旦那様がそう言って小さく笑えば、ティアヒムとクリヒムも嬉しそうに笑った。
旦那様へのサプライズは成功だわ。嫌がった様子はないから、良かった。子供達は旦那様に美味しいと言ってもらえてうれしそうだし、旦那様も子供達の作ったものを食べれて嬉しそう。
こうやって互いに嬉しいが溢れているのってとても良いことよね。
その後、旦那様と子供達がクッキーを食べながらしゃべることになったのだけど、
「君も、一緒に食べるといい」
そう言われたので私もお邪魔することになった。




