クッキーを子供達と一緒に焼く ②
「こう……ですか?」
「ふふ、良く出来ているわ」
早速お菓子作りを開始した。今回、作るのはクッキー。ティアヒムとクリヒムにとっては初めてのお菓子作りなのだから簡単なものから作らないとね。
先ほどは失敗は人を成長させるとはいったものの、成功するならそれはそれでいいもの。初めてのお菓子作りが成功して、旦那様が「美味しい」と一言でも言ってくれたら子供たちはきっと喜ぶはずだわ。
クッキー生地を一生懸命、混ぜているティアヒムとクリヒム。
周りで見守っている使用人たちはそんな私達をにこにこしながら見ている。
人によっては子供が騒いでいるのを嫌がったりするかもしれないけれど、大多数の人は子供達がこうして楽しそうにしていると皆、嬉しくなるものよね。
公爵子息という立場の二人はこうやってお菓子作りをするのは初めてだろう。だからか、少し緊張した面立ちで、こんなことで此処まで緊張しなくていいのになと思う。
特にティアヒムが緊張しているように見えるわ。
でもこれだけ何事にも真剣なティアヒムだからこそ、様々なことに結果を出しているのだろうなとそう思う。
何事もそつなくこなすようなタイプには見えるけれど、きっとそんなことはなくていつも一生懸命なのだろうな。
「あ」
クリヒムが小さい手で生地を混ぜていると、一部こぼれてしまった。
その様子を見て悲しそうな顔をしているクリヒム。
「零しちゃった」
「ふふっ、そんなに落ち込まなくていいのよ? 私もこぼしてしまったり、よくしていたもの」
私がそう言って笑いかければ、クリヒムは笑顔を見せてくれる。
私も一緒になって生地の準備をしているのだけど、二人とも初めてのことだからかちゃんと私の指示を聞こうとしてくれているわ。こういう風に周りの意見をきちんと聞こうとしているのが二人の良さなのだろうなと思った。
生地を混ぜ終えた後は、型の準備をする。
星型だったり、丸い形だったり――そんな色んな型がある。あとは魔物の姿を模した型とかもあるの。どの形の方がいいかしら?
味は全て同じだろうけれど、私は色んな形のクッキーがあった方が嬉しくなるわ。
実家の弟や両親たちも私が色んな型のクッキーを焼いたら、嬉しそうにしてくれていたなと思い出す。
「ティアヒムとクリヒムはどの型で焼きたい?」
旦那様へ持っていくクッキーだから、二人ともこだわりたいかしら? こういう場合、ティアヒムとクリヒムは自分がどういうクッキーを焼きたいかと、旦那様に持っていくからとどっちを優先するのかしら。
どちらだったとしても可愛いからありよね。
「えっと……どうしよう」
「どの型でもよさそう」
ティアヒムとクリヒムはそう言いながら悩んだ様子を見せている。
兄弟が仲よさそうに会話をしながら、こうしてクッキーの型について話し合っているというのもとてもいいものだわ。
二人の仲の良さが窺えて、凄くいいなとそんな気持ちでいっぱいの私なの。
「使いたい型、全部使ってしまいましょう!」
悩んでいる二人に私はそう言って声をかける。
「そんなにバラバラでいいの?」
「もちろんよ。ティアヒムとクリヒムはそれだけ沢山の型を使いたいのでしょ? なら全部使って、色んな形のクッキーにしてしまいましょう」
二人とも色んな型に興味津々な様子なので、私はそう提案した。
だってね、悩むほどに関心があるものが沢山あるなら全部使った方がいいじゃない。
私がそう言って笑えば二人とも頷いた。
そういうわけでティアヒムとクリヒムの二人が使いたいといった型全てを使ってクッキーを焼いたの。
窯の温度を見ながら、焦がさないように見守っているのだけど……はらはらした様子の二人はとても可愛いわ。
子供達は二人とも旦那様のことが大好きなのだろうなと思う。
だからこそ旦那様に焦げたものなんて持っていきたくなくて、こうしてどこか緊張した様子で。
「美味しそう」
「わぁ」
しばらくして焼きあがったクッキーを見て、二人は目を輝かせている。
年相応な愛らしい様子に、私も自然と笑顔になる。
「旦那様に持っていく前に味見でもしましょう」
私がそう口にすると、二人は頷く。焼きたててのクッキーを口にした二人の反応も可愛かった。
やっぱりこういうのって作りたてが一番おいしいものね。
私も手に取って口に含む。
味はもちろん、美味しいのだけど何よりもティアヒムとクリヒムが作ったものだと思うとより一層美味しく感じるわ。これは気持ちの問題でしかないけれどね。
その後、私達は旦那様の元へとクッキーを届けに行くことになった。