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クッキーを子供達と一緒に焼く ①

「お菓子作りなんて初めてで緊張します」

「美味しくできるかなぁ?」



 私の目の前にはエプロンを身に纏った愛らしいティアヒムとクリヒムの姿がある。ティアヒムは何でも出来そうなイメージなのだけど、流石に公爵子息なのでお菓子作りなんてしたことがなかったみたい。




 緊張した様子のティアヒムと心配そうなクリヒムが可愛すぎて、思わず挙動不審になりそうだわ。

 旦那様もこんなに可愛い子供達からの手作りお菓子なんて食べてしまったら感激してしまうのではないかしら!

 私だったらそんなことをされたら思わず抱きしめてしまうわ。



 というか、今だって許可があれば抱きしめたいもの。撫でさせてはもらったけれど、私が最期を迎えるまでに抱きしめさせてもらえるようになるかしら?




「ふふっ、大丈夫よ。初めてやることなら失敗しても仕方がないもの」

「……失敗しても仕方ない、ですか?」

「ええ。そうよ。失敗するというのは、人を成長させることだもの。私もね、初めてお菓子を作った時には上手く出来なかったの。でも両親が美味しいって食べてくれたの。自分で食べてみると、全然美味しくなかったのだけど……」



 私はそう口にしながら、幼い時のことを思い出して思わず笑ってしまう。

 まだ弟が生まれる前。思えばあんなに幼いころからお菓子作りを始めたのは、思い出していなくても……前世の影響があったのかも。





「それにね、初めて魔法を使った時なんて庭を水浸しにしてしまったのよ。あの時は本当に後片付けが大変だったわ」



 庭師なんて雇うこともしないような子爵家だったから、家族とあとは使用人と一緒に片付けをすることになったのよね。

 考えてみればそういう失敗があったから今の私が居るのよね。

 上位貴族から密命を受けるなんて大変なことにはなっているけれど、少なくとも私は家族に愛されて幸せに生きてきたんだなと実感する。




「……家庭教師は父上のように完璧であれとよく言います」

「そんなことを? 凄いわね。なら、その家庭教師の方はよっぽど完璧なのね?」

「え?」

「だってそうでしょう? 自分が出来もしないことを子供に言うべきではないわ。完璧であれと望むのならばその家庭教師の方だって完璧じゃないとおかしいわよ。それにね、誰かのようにあれなんてそんなことは強要するべきではないと思うのよ。誰かに無理やりやらされたことなんて、楽しくないでしょう? 私はそういうのは自分からあの人のようになりたいって憧れで目指すものだと思うわ」



 私がそう言ったらティアヒムは驚いた顔をする。その後、口を開く。



「……私が父上のようになりたいのは本心です」

「それでもよ。完璧である必要はないわ。旦那様とティアヒムは別人なのだから、完全に一致するなんて難しいわ。それに旦那様には旦那様の良さが、そしてティアヒムにはティアヒムの良さがあるはずだもの。だから失敗することぐらい何の問題もないの」




 大体、子供が失敗したからといって完璧であらなければならないなんて言うのはおかしいものね。

 ……家庭教師の方とは話したことはないけれど、問題がある方なのかしら? 旦那様に言っておいてもいいかも。

 ただ旦那様のことを尊敬していて、そういう風に気持ちが先走っているだけならいいけれど……そのあたりは旦那様にお任せするのが一番ね。




「そうですか……。私が失敗をすることで父上に失望されないでしょうか?」

「あら、そんなことがあるわけないじゃない。ティアヒムは旦那様にとって可愛くて仕方がない血がつながった息子なのよ?」

「でも……」

「旦那様が些細なことでティアヒムに失望したなんておっしゃる方だったら私が注意するから安心してくれていいわ!」

「……父上に注意する?」

「ええ。だって私は仮にも旦那様の奥様で、あなたたちの母親なのだもの。旦那様がティアヒムのためにならないような、傷つける態度をするのは許せないから」




 こういう考え方はティアヒム自身が考えすぎてしまっているのか、家庭教師の方の押し付けなのか……。少しだけ不安になるわ。

 ……バルダーシ公爵家の手の者がこの屋敷内には少なからず入り込んではいるから、もしかしたらその家庭教師も……という可能性もあるわ。

 子供達が悲しむことだけは回避しないといけないから、早めに旦那様に相談をしないとね。




「ははっ。そうですか」



 ティアヒムは私の言葉を聞いておかしそうに笑う。

 笑い方も旦那様に似ているわ。それにしてもなんて可愛い笑みなのかしら!



「ウェリタさんは僕が失敗しても、許してくれるー?」

「もちろんよ。だから、ほら、お菓子作りましょうね」



 黙って話を聞いていたクリヒムの言葉に私は笑いかける。

 クリヒムは私とティアヒムが話をしている間、邪魔をしていけないと思ったのか静かにしていたの。

 本当にとっても良い子だわ。



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