旦那様とホットケーキを食べる
「旦那様、こちらをどうぞ!」
今日は旦那様にお菓子を持って行った。
子供達が食べてくれるようになったわけだけど、旦那様も食べたがっているというのを侍女から聞いたから。
私のお菓子を旦那様が待っていてくれているなんて可愛すぎでは? と私は思ってしまう。恐れられているらしいけれど、全然よね!
「……ありがとう。ところでなぜそんなににこにこしている?」
「ふふ、聞いてくださいませ。旦那様。ティアヒムとクリヒムが一緒にお菓子を食べてくれるようになったんですよ」
私は嬉しくなって自慢するように言う。
それにしても旦那様に言われるぐらいに私は満面の笑みを浮かべてしまっていたのね。
旦那様がこういう私を見て嫌な顔をするタイプの人だったら、私だってもっと取り繕ったわ。でも旦那様って私がこんな風にだらしなく笑っていようとも、きっと気にしないだろうなと分かるもの。
あと子供達のことが可愛いのだとそういう気持ちは旦那様にこそ、共有しやすいもの。期間限定とはいえ、仮にも夫婦ではあるわけだし。
だけど私の認識としては一緒にご飯を食べたり、お喋りをしたりするだけの関係――お友達のようなものにはなっているかなと思っている。旦那様はどう思っているか分からないけれど。
「……そうか」
「はい。あと旦那様が可愛いなって」
「……私が、可愛い?」
何を言っているんだとでも言う風に、問いかけられる。
無表情気味なのだけれども、驚いているのは分かる。旦那様って、感情が分かりにくく見えるけれど全然そんなことはないわね。
「はい。侍女からお聞きしました。私がお菓子を持ってくるのを待ってらっしゃるって」
「……君の作ったお菓子は、美味しかったからな」
「おほめ頂きありがとうございます。やっぱり誰かに美味しいと言ってもらえると作った甲斐がありますわ。今日はですね、ホットケーキを焼いてきましたの! 贅沢にチョコレートをかけているのですわ」
前世とは異なってチョコレートって高価なの。それを思いっきり使えるなんて本当に公爵家の財力はすさまじいわ。私自身、チョコレートが好きだから、これだけ思う存分使えるといいわよね。味見の時にちょっと食べるのも美味しかったと、その時のことを思い起こすだけで自然と頬が緩むわ。
「そうか」
「はい。では、このホットケーキ置いていきますね?」
私はそう口にして、ホットケーキの載ったお皿を置くとそのままその場を後にしようとする。
――そうしたら後ろから声を掛けられる。
「待て」
私は旦那様の言葉に不思議に思い、後ろを振り向く。
「なんですか?」
「……子供達とは一緒に食べたのだろう。君もここで食べていくといい」
そんなことを言われて私は驚く。
「一緒に食べてもいいのですか?」
「ああ。……君はティアヒム達と仲良くしていると聞く。話は聞いておきたい」
旦那様は私と話したいと、そうは思ってくれているのは事実だろう。だけど私が子供達に何かよからぬことをしようとしていないかの確認もしたいんだろうなと思う。
まぁ、どちらにして私は旦那様と一緒にホットケーキを食べるのは楽しそうと思うから、嬉しいわ。
「お誘い、お受けしますわ。私も旦那様とお喋りしたいです」
私がそう言うと、旦那様は何とも言えない顔をする。どうしてそんな顔をしているのかしら。
そんなことを私は思いながら、侍女達が用意してくれた席に着き、ホットケーキを口にする。
ああ、美味しい!
「美味しい」
「……君は幸せそうに食べるな」
「はい。だって私、こういう美味しいもの食べるの好きなんですよね。お菓子作りは楽しいことですし、私が美味しく作れた分だけ、食べた時に幸せな気持ちになれるのですよ! お菓子作りって本当に幸せの好循環な趣味ですよね」
私がそう口にすると、旦那様の口元が小さく緩む。
旦那様が笑ってくれたことがなんだか私は嬉しくなった。
「それで子供達についてでしたっけ。ティアヒムもクリヒムもとても可愛いですよね。ティアヒムは家族思いで、クリヒムのことを大切に思っているようですし。それでクリヒムは無邪気な雰囲気で、とても可愛いです。私が作ったお菓子を食べた時の表情が良かったですね。あとは魔法がとても得意で、あんなに小さいのに素晴らしいと思いました」
ティアヒムとクリヒムの可愛さを語っているとついつい多弁になってしまう。だって可愛いのだもの。
旦那様は突如、長々と喋りだした私に驚いた様子だった。




