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子供たちと一緒にタルトを食べる。

「ウェリタさん、このタルトおいしい!」

「……私も同意です」



 子供のようにはしゃぐクリヒムと、まだ警戒心のある様子のティアヒム。

 どちらも可愛いわ。それにしてもこうして子供達と一緒に机を囲むことが出来るなんて…!

 それだけで私はにこにこしてしまう。

 ティアヒムと目が合う。





「なんでそんなに嬉しそうなのですか?」

「ティアヒムとクリヒムと一緒にタルトを食べられるのが、嬉しいなと思っているの」

「私達と食べるだけで、ですか?」




 ティアヒムには怪訝そうな顔をされてしまう。私は本心からの言葉を口にしているのだけど、やっぱり新しい母親に対して思う所が様々あるのだろうな。




「そうよ。言ったでしょう? 私は子供が好きだって。ティアヒムとクリヒムと一緒にこうしてタルトを食べられるのも本当に幸せなことだわ」



 安心させるようににっこりとほほ笑んで、私はそう告げる。




「……そうですか」

「僕たちと食べるだけでそうなの? じゃあ、これからも一緒に食べよう!」



 無表情のままのティアヒムと、満面の笑みのクリヒムは対称的だ。




「クリヒム、そう簡単に近づくのは……」

「もう、兄上は警戒しすぎ! ウェリタさん、嫌な感じ全然しないよ?」



 無邪気にティアヒムにそんなことを言うクリヒム。

 なんだか一生懸命お兄ちゃんに意見を言う弟って、構図がもう可愛いわ。しかも私と仲良くしようとしてティアヒムにこんなことを言っているのだものね。

 気を抜くと本当に表情筋が緩んで、貴族夫人として見せてはならない顔をしてしまいそうだわ! そう思ってなるべくキリッとした表情を心がける。





「確かに……。私たちに悪意はなさそうだが……」

「もうっ、兄上だってウェリタさんの作ったお菓子、美味しいって思ったんでしょ」

「……それはそうだが」

「これまで断って食べなかったお菓子も、侍女達から聞いて食べたかったって顔してたでしょ」

「クリヒム!」




 なんて可愛らしいのかしらと思いながら見ていたら、なんだか予想外の言葉が聞こえてきた。



 私の作ったお菓子をこれまで断っていたけれど、周りから話を聞いて気になっていた? なにそれ、可愛い。子供らしくて、可愛くて……自然と笑顔になってしまうわ。

 それにクリヒムにばらされて声を上げる様子は、年相応だもの。大人びていてもやっぱり子供なのだわ。





「くっ、そんな顔でこちらを見ないでください」

「あら? そんな顔って?」

「その満面の笑みですよ!」

「ごめんなさい。ティアヒムが可愛くてつい!」




 なるべく顔をにやけさせないように気を付けていたつもりなのだけど、ついつい顔に出ていたわ。でも仕方がないじゃない! こんなにも可愛くて仕方がないのだもの。

 恥ずかしそうに顔を赤らめているティアヒム。




「ウェリタさん、兄上、可愛いの?」

「ええ。ティアヒムはとっても可愛いわ」

「僕は?」



 クリヒムに問いかけられて、思わず「うっ」と声をあげてしまった。そんな私をクリヒムは心配そうに見ている。

 あまりの可愛さに変な声を出しそうになったわ。




「クリヒムももちろん、可愛いに決まっているじゃない。ティアヒムとクリヒムは違う可愛らしさよね。でも二人とも同じぐらい可愛いわ」

「そうなの? ありがとう!」




 私の言葉に、クリヒムは笑みを浮かべる。

 クリヒムがあまりにも嬉しそうで、私も嬉しくなる。



「ティアヒムと一緒なのが嬉しいのね? クリヒムはティアヒムが大好きなのね」

「うん。僕、兄上のこと、大好きだよ」

「とても良いことだわ。ねぇ、この前は少ししか撫でられなかったけれど、今回は思う存分撫でてもいいかしら?」




 この前はもっと撫でていいと言われたけれどティアヒムが駄目だといって思いっきり撫でられなかったのよね。今回は大丈夫かなと思ってクリヒムに問いかける。そうすればクリヒムは判断を仰ぐようにティアヒムのことを見た。




「……好きにしたらいいです」



 ティアヒムがそう言ってくれたので、私は思う存分クリヒムの頭を撫でる。

 気持ちよさそうなクリヒムを見ていると、撫でる手が止まらないわ。

 そうしているとじっとティアヒムがこちらを見ている。




「兄上も、撫でられたい?」

「ティアヒム、撫でていいなら頭を出してくれる? 私は撫でたいわ!」




 クリヒムと一緒になってそう言うと、一瞬躊躇した様子の後、頭を出してくれた。撫でていいってことね!

 私はティアヒムの頭を撫でる。



 さらさらで、撫でていると幸せだわ。やっぱりこんな可愛い子たちを不幸にするわけにはいかないわと気合を入れる。

 そうしていると急にティアヒムの顔が真顔になった。



 はっ、もしかしてやっぱり嫌だったかしらと慌てて頭から手をどける。






「ごめんね、撫ですぎちゃったわね」

「……いえ、それは別に」

「何か気になることでもあるの?」



 様子がおかしくなっている気がして、問いかける。



「なんでもありません……。それより食べましょう」



 様子が気になったのだけど、そう言ってはぐらかされてしまった。



 言いたくないなら無理して問いつめるわけにもいかないわねと、私はそれ以上聞かなかった。

 その日から、私は子供達と時々一緒にお菓子を食べて、お喋りをするようになった。



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