お菓子を持っていく
体調はあまりよくない。
とはいえ、それを表に出さないようにしながら厨房に立っている。
無茶をしなければ倒れることはないので、気をつけながら作る。料理人達に任せることも出来るけれど、折角ティアヒムとクリヒムが私の作ったお菓子を食べてくれると言っているのだから……、自分の手で作りたいなとそう思ってしまったの。
……私の残り少ない人生。
やりたいことは諦めたくはないから、こういうことで無理はするけれど自分の体と相談しながらやらないといけないわね。
それに体が辛くても、ようやく子供達が私の作ったものを食べてくれると考えると、その苦しい気持ちもごまかせるわ。
今日は何を作ろうかしら。
これだけなんでも材料を使っていいとなると、悩んでしまうわ。
「奥様、今日は何を作られるのですか?」
「そうね……。これだけなんでも作っていいとなると、どうしようと悩んでいるの。でもせっかく新鮮なフルーツがこれだけあるからタルトにしようかしらと思っているの」
私がそう言ってにっこりと笑うと、侍女は目を輝かせた。
まずは生地の準備から!
材料をすべて入れて、混ぜ合わせる。
「ふぅ」
少しくらくらするので適度に休みながら進める。
飲み物を飲みながらゆっくり進め、生地を窯で焼く。
あとは生クリームをふんだんに使って、カットしたフルーツを何種類も乗せていく。
うん、我ながらおいしそうにできたとそう思う。
なんだろう、元の材料がおいしいからというのもあるだろうけれど今世の私はなかなかお菓子作りの才能があるのでは!? なんて一人で思ったりもし万が一、私が死ぬことなく逃げて生き延びられるなんてことになったら、お菓子屋さんなんてやるのもいいかもなどと夢物語のようなことを想像してしまった。もちろん、世の中はそんなに甘くはなく、私の力ではそんなことは出来ないのだけれども……!
多めに作ったのは、お世話になっている料理人達や使用人たちにも渡したいもの。あとは旦那様と子供たちにも渡すの。
だから張り切って沢山作った。
あとは自分でも食べるようね。
私はお菓子を作るのも好きだけど、食べるのも大好きだもの。
ああ、でもこうやって張り切って作りすぎると私も味見をしすぎてしまう。そうなると食べ過ぎてしまって太ってしまうわ。
まぁ、短い命だからどれだけ太ったとしてもそんなことを心配する必要なんて全くないなって思うけれどね。
ただ逆に太ったほうが私の体調不良をごまかせたりするかしら。
食べ過ぎて少し体調を崩しているだと自然? うーん、悩むわね。
私が密命をかなえられない状況になったら、先に処分されちゃう。そうなると、そうならないようにしないといけない。
やっぱりそのあたりは難しいわ。
だけど、頑張るしかない。
「よしっ……、子供たちのところに行くわよ」
私がそういうと、侍女たちは頷いてくれる。
今の時間帯は、子供たちは家庭教師に勉強を教わっている最中らしいの。勉強が終わるまでの時間、私は待っておくことにする。
それにしても公爵家となるとやっぱり私の実家の子爵家よりはずっと、教育がしっかりしている。それだけお金に余裕があるんだろうな。
そうじゃないと余裕がなくなって、面倒な問題が様々に起こったりもするもの。
しばらく待っていると勉強の時間が終わったみたいで、家庭教師の男性がまずは部屋から出てくる。私はその男性に挨拶をする。にっこりと笑って送り出し、その後、勉強終わりの子供たちの部屋へと入る。
「ティアヒム、クリヒム。タルトを作ってきたの。よかったら食べてほしいわ」
勉強で疲れた脳には、甘いものを食べるべきだわ。私も前世で試験や受験の勉強の時に勉強をした後に甘いものを食べると疲れが吹き飛んで、やる気がでたもの。
「ウェリタさん! 持ってきてくれたの?」
「……前に受け取るといったので受け取ります」
満面の笑みを浮かべるクリヒムと、なんだかんだ受け取ってくれるというティアヒム。
二人ともなんて可愛いのかしら。どちらとも頭を撫でまわしたくなるわ。ただそんなことをすると嫌がられるから、やらないけれど! だけど私が死ぬまでの間に一度ぐらい撫でさせてもらえたら嬉しいなと思ったりする。
「ふふっ、ありがとう。あなたたちがタルトを受け取ってくれるだけでうれしいわ。上手にできたのよ」
本当に嬉しくて、自然とにこにこしてしまう。
もしかしたらこのままずっとここにいる間に受け取ってもらえないかもと思っていた。それなのにこうやって受け取ってもらえるなんて本当に幸せなことだわ。
侍女たちに指示を出して、机にタルトを並べてもらう。あとはタルトに合う飲み物もね。
ティアヒムとクリヒムの目が輝いていてなんて可愛いのだろうか。
「じゃあ、私は戻るわね」
ゆっくりタルトを食べるのを邪魔したらいけないと思って、そう声をかけて背を向ける。
そのまま去っていこうとしたのだけど、予想外に声がかかる。
「あ、あの!」
クリヒムのそんな声に、私は振り返る。
少し躊躇した様子のクリヒムは、ティアヒムのほうを向く。そしてティアヒムが頷くと、私に向かって声をかけてくる。
「ウェリタさんも、一緒に食べよう!」
そんなことを言われて、私は驚いてしまう。
「まぁ! 私も一緒に食べていいの?」
私がそういうと、ティアヒムとクリヒムは頷いてくれた。
そういうわけで子供たちとタルトを食べることになった。