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子供たちの魔法は、とても綺麗

「ほら、これで満足ですか」




 そう口にしながらティアヒムが魔法を披露してくれる。




 冷たい魔力が形成したのは、氷で出来た鳥のようなもの。その美しく組み立てられた魔法は、空を浮遊している。

 こういう魔法を見ると、この世界は本当に前世とは全く違うのだなと実感をする。

 それにしてもティアヒムは私が怖がると思ったからこそ、攻撃性のある魔法ではなくてこんな風に優しい魔法を使ってくれたのだろう。



 旦那様もそうだけど……冷たい印象を人に与えて、私に対しては笑顔を見せたりなんてしないのに、とても優しいわ。

 その優しさを実感すると、ティアヒムも旦那様に似ているなと思う。



「僕のも、見て」



 クリヒムはそう口にして、風を起こした。



 クリヒムは風系統の魔法が得意みたい。柔かな風が、その場に吹いて、中庭に置かれていたジョウロがふわりと浮く。




「ティアヒムもクリヒムも素晴らしいわね。ティアヒムの魔法はとても綺麗で、見ているだけで興奮するわ。クリヒムは魔法の操作が上手なのね」




 本当に素敵だわ。

 思わず顔がにやけてしまいそうになる私。なんとか、にやけそうになるのを抑える。

 出来たことはきちんと褒めた方がいいと私は思っている。厳しくされてこそ、育つものもあるかもしれない。そういう愛情もきっとあるだろう。それを否定はしない。けれど私は褒められたり、自分のやっていることを肯定される方がずっと嬉しい。

 子供の性格によってはどれがいいか、異なるだろうけれどね。




「……あなたも、貴族ならば魔法ぐらい使えるのでは?」

「そうねぇ……。使えないわけではないけれど」



 どうしようかなと、一瞬悩む。

 あまり無茶をしたら私の体に悪影響を与えるのは間違いない。私の心臓や魔力回路は縛り付けられているから。





「……私たちと一緒に魔法を使いたいというのならば、あなたも魔法を使うべきでは?」

「そうね。あんまり上手じゃないから、少し恥ずかしいけれど……。下手だからと笑わないでね?」





 こんなに素敵な魔法を使える二人の前で、私の今の状況の魔法を見せるなんてと少し躊躇してしまう。

 だけど仲良くなるためにも、魔法は使っておいた方がいいかもと判断した。




 そういうわけで魔法を使ってみる。

 魔力を込めて、水球を形成してみる。

 透き通るような水が、その場にうまれる。とはいっても一つだけ。




 元気な時だったなら、もっと水球の数を増やすことは出来た。もう少し沢山の数を出して、空に浮かべて遊んだりも出来た。

 細かい操作をするのも今は疲れやすいから、一旦これだけの魔法になってしまった。





「ウェリタさんも、父上と兄上と、一緒!」

「ふふ、そうね。私も水属性の魔法が使えるものね」

「……僕だけ、違うなぁ」

「クリヒムの風魔法は素敵なものだから、一緒じゃないからと落ち込まないでいいのよ。何でも一緒である必要なんて全くないもの」




 旦那様も、ティアヒムも、私も――氷や水系の魔法を使う。だけど、クリヒムは風魔法。だけど違ったとしてもそれがクリヒムの素敵な個性だと思うから、全く一緒じゃないことを悲しむ必要は何もない。

 クリヒムの頭を軽く撫でる。




 はっ、つい、許可も得ずに撫でまわしてしまったわ!



 これで手を払いのけられたり、嫌がられたりしたら嫌だわと思っていたのだけどクリヒムは嬉しそうにされるがままだ。

 頭を撫でられるのが好きなのかもしれない。うん、そういうところが改めて可愛いと思った。




「クリヒムは可愛いわね」

「僕、可愛い?」

「ええ。とても可愛いわ。幾らでも頭を撫でていたいと思うもの」




 私がそう言えば、「撫でていいよ」とそのまま頭を差し出してくる。ぐっ……、本当に可愛い!

 私はクリヒムの態度ににこにこしてしまう。





「……クリヒム、そのぐらいで」

「はーい」




 ティアヒムはやっぱり私のことを警戒していて、クリヒムに注意するように口を開いていた。




 しっかりしたティアヒムと、子供らしいクリヒム。

 二人のことを見ていると、良い兄弟だなと嬉しくなる。兄弟仲が良いのもよく分かるし、そういう様子を見ているだけで幸せな気持ちでいっぱいになるわね。





「ティアヒム。私はこの通り、あんまり魔法が得意ではないの。だから余計にね、あなたたちの魔法を見たいなと思うのよ」

「……いいけど」



 私の言葉にティアヒムはぶっきらぼうにそう言った。




 それから私に魔法を見せてくれる。なんというか、こんな子供なのにこれだけ多くの種類の魔法を使えるだけでも凄いわ。派手な魔法ばかりが注目を浴びたりするけれど、丁寧な魔法も好きだわ。

 派手なものも私は好きだなとは思うけれど、ティアヒムとクリヒムがこうやって私が喜ぶからと魔法を見せてくれるのが何よりも嬉しいからどんな魔法でも素敵だと思うの。





「ティアヒムもクリヒムも、これだけの魔法が使えるなんて素晴らしいことだわ。二人ともこれだけ魔法が使えるなんて、魔法が好きなのね」

「……父上みたいに、なりたいから」

「僕も」



 私の言葉にティアヒムとクリヒムがそう言う。



 旦那様のことがティアヒムもクリヒムも大好きなのだろうなと分かる。こんなに可愛い子供達から慕われている旦那様は、良い父親なんだろうなとも。




「旦那様の魔法は噂だととても凄いものらしいものね」

「うん。父上の魔法は凄い」




 私の言葉にティアヒムが年相応な様子で頷く。少しだけ表情が緩んでいる。




「そうなのね。私もいつか旦那様の魔法が見たいわ」

「……あなたは、父上の魔法が怖くないの?」

「怖い? どうして?」

「だって父上は、色んな噂されてるって聞いたので」




 ティアヒムは旦那様に関する噂について、知っているみたい。誰が耳に入れたのだろう? この聞き方からすると悪い噂も何処からか聞いてしまったのだろう。

 それで怪訝そうな顔をしているらしい。




「確かに旦那様の噂は様々なものが流れていて、私も聞いたことはあるわ。だけど旦那様と少しでも接していればその力がこちらに向けられるのはよっぽどのことだと思うもの」



 最も私はそのよっぽどのことを密命で受けているわけだけど……。流石にどれだけ優しい旦那様でも自分を殺そうとしている相手には容赦ないだろうしね。




「……そうですか」

「ええ。それに旦那様って優しいもの。きっと魔法を使うのは理由があるからだわ。旦那様の魔法を想像してみるとそれだけでも楽しいわ。きっと壮大な、素晴らしいものなのでしょうね」

「……あなたは、変わってますね」

「ふふ、そうかしら?」



 変わっていると言って、小さく笑うティアヒム。



「ウェリタさん、今日はお菓子はないの?」



 私がティアヒムと話していると、クリヒムが声をかけてくる。もしかしてお菓子があるかもと期待してくれていたのだろうか。





「ごめんね。今はないの。でも次に作った時は受け取ってくれる?」


 私がそう問いかけると、クリヒムは反応を伺うかのようにティアヒムの方を向いた。



「次に作ってきてくれたら、受け取ります」

「まぁ、本当?」

「……父上も、食べているって聞いたので」

「ありがとう。一生懸命、作るわね」



 ティアヒムも私の作ったお菓子を食べてくれるといってくれて、思わず私は笑った。クリヒムも嬉しそうにしていた。


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