魔法がどれだけ好きか語り、混ぜてもらう
「……混ざりたいですか?」
ティアヒムは私の言葉が予想外だったのだろう。驚いた表情でこちらを見ている。
そういう表情を浮かべていても、可愛くて思わず笑みをこぼしてしまう。今世でも弟以外とは年下の子とそこまで関わってはこなかったけれど、やっぱり子供って可愛いなと思う。
「ええ。私ね、魔法が好きなの。だからティアヒムとクリヒムが魔法を使っているのを見て、交ざりたいなと思ってしまったの」
私がにっこりとほほ笑んでそう告げれば、ティアヒムは相変わらず警戒した表情で、クリヒムは何処か目を輝かせる。クリヒムも魔法が好きなのかもしれない。
「ウェリタさん、魔法好きなの?」
そう問いかけられて、嬉しくなった。
私に向かってこんな風に話しかけてくれるなんて……嬉しい限りだわ。
「クリヒム……!」
「わっ、ごめんなさい」
私がクリヒムに近づくと、ティアヒムが警戒するように呼び掛ける。そうすると大人しくクリヒムはティアヒムの後ろへと隠れた。
「あなたは何を考えているのですか? 魔法が好きというのは嘘では?」
「あら、どうしてそんな風に思うの?」
本当に子供なのに、しっかりしている子だと思う。私がこの位の年頃の時はこんな風に誰かを警戒したりなんてしていなかったな。
やっぱり公爵家の産まれだと、こんな風に警戒しなければならない環境にあったのだろうか。もっと子供はのびのびと、何も考えずに無邪気に生きていていいのになとそう思ってしまう。
「……どうしてって、あなたは父上と仲良くなりたいから私達に近づきたいのでは?」
「そういう風に思っていたの? 違うわ。私は……そうね。旦那様と仲良くなりたくないと言ったら嘘になるかもしれないけれどあなたたちと仲良くしたいと思っているのは本当よ? 私ね、魔法も好きだけど子供って好きなの」
「子供が好き?」
「ええ。だって可愛いもの」
「……可愛い?」
その怪訝そうな顔を見ていると、あまり可愛いと言い慣れていないのかもしれないと思った。
前の奥様はティアヒムにあまり近づこうとしなかったと言っていたし、旦那様も子供達を猫かわいがりしないタイプのように見えるもの。
あんまり子供らしく甘えたこともないのかもしれないなと思う。この冷たい表情が柔らかく笑ったら――うん、きっと素敵だろうな。私はそういう姿を見たいな。
「ティアヒムはとても可愛いわよ。私はあなたを見ているだけで幸せな気持ちになるもの」
そう言ってにっこりとほほ笑めば、ティアヒムは驚いた顔をする。
そのぽかんとした顔を見ていると、思わず笑みがこぼれる。
「し、幸せな気持ちになるって、冗談を言わないでください!」
「冗談じゃないわ。私ね、魔法が好きなのは素晴らしい力だと思うから。見ていて楽しくて、綺麗で嬉しくなるもの。……私は残念ながら、魔法があまり使えないけれど。代わりに誰かの魔法は見たいと思うの。ティアヒムとクリヒムの魔法を見せてくれる?」
私がそう言って笑うと、ティアヒムは一瞬考え込むような仕草をする。
その後ろにいるクリヒムは、返答を期待しているのかじっとティアヒムを見ている。
「……分かりました」
ティアヒムは表情を硬くしながらもそう言って頷いてくれた。
「頷いてくれてありがとう。ティアヒムとクリヒムはいつもこうやって魔法の練習をしているの?」
ティアヒムとクリヒムと一緒に居られるのが嬉しくて、私はつい前のめりになって問いかけてしまう。
後ずさられてしまった……。
小さくこほんっと咳払いをして、冷静になるように心がけることにする。
だって折角一緒に居ることを許可してくれたのに、引かれてしまったら悲しくて仕方がないもの。短い期間だけど、此処にいる間にティアヒムとクリヒムと仲良くなれるようにしたいもの。
「……そうですけど、それが?」
「ふふっ、とても頑張り屋さんなのね。一生懸命魔法の練習をしているのは偉いと思うわ」
そう言いながら私はその頭を撫でて、褒めてあげたいなとそんな気持ちでいっぱいになる。ああ、でも我慢をしておかないと。
少しうずうずしている腕を隠しておく。
「……褒めても、何も出ませんよ」
少し照れたように、そう告げてそっぽを向くティアヒム。
やっぱりなんて可愛いのかしら。クリヒムは素直に褒められて嬉しいのか、にこにこしている。
照れたような反応も、無邪気に笑ってくれることも両方ありよね。
私はどちらの反応も可愛くて、素敵だわ。
「それでも構わないわ。そもそも何か返してほしくてあなたたちのことを褒めているわけではないもの。私はただ二人が頑張っているのを知って褒めたかっただけよ」
私がそう口にすると、不思議そうな顔をされる。
「……そうですか」
「ええ。そうよ」
頷いて、目を合わせて笑いかけた。




