魔法の練習をしている子供達に話しかけてみる
「あら」
私は屋敷から、中庭を見下ろし思わず声を上げる。
視線の先には魔法の練習をしている子供たちの姿が見えた。二人で魔法の練習をしているなんて、二人とも優秀なのね。
ティアヒムは旦那様と同じく氷や水系統の魔法が得意みたい。クリヒムはそうではなくて他の属性の魔法も使えるみたい。上から見下ろしてみるだけでも私は何だか楽しい気持ちになる。
魔法って、危険な力ではある。
魔力が暴走して大変な事態になったりという例を知っている。だけれども素敵な力。
私もティアヒムやクリヒムと同じ年頃の時、夢中になって魔法の練習をしていたな。
「ティアヒム様とクリヒム様はいつも魔法の練習をしていらっしゃるんですよ」
「まぁ、そうなのね」
「はい。ご当主様が魔法が得意なので、お二人とも憧れているようですよ」
侍女の言葉に、旦那様はどれだけ魔法が得意なのだろうかと想像をしてみる。
今の所、嫁いできてから一度も旦那様の魔法を見ることなどない。旦那様の魔法は恐ろしい魔法だと噂はされているけれど、そういう攻撃系の魔法の方がやっぱり得意なのだろうか。
……旦那様の魔法、見てみたいな。
そんな好奇心を抱いてしまうのは私が魔法というものが好きだから。特に前世の記憶を思い出してからは、前世では存在しなかったものだったのもあって余計に興味を抱いてしまう。
私が自由自在に魔法を使える状況だったら幾らでも魔法を使っただろう。それに自分の死が確定している状況じゃなければ……もっと魔法を上手く使えるように頑張っただろう。
心臓や魔力回路を縛られ、その影響で魔法は以前のようには使いにくい。それに下手をするとその誓約の魔法に悪影響して、さらに魔力回路がボロボロになってしまう可能性はある。
それで身動きが取れない状況になるのは望ましくないから、我慢するしかないわ。
「ねぇ、あなたは魔法を使えるの?」
「いえ、私は使えないです! 逆に奥様はどうなのですか?」
「私は……魔法を使うことが苦手なの」
私は少し嘘を吐いた。
苦手なわけではなく、今、こういう状況だから使えないだけ。でも……こういう風にしていた方がずっとやりやすいから。二か月ぐらいならごまかせるはずだもの。
「私ね、魔法は使うことは苦手だけど、見るのは好きなの。あの場に私が交ざったら、嫌がられるかしら?」
じっと、ティアヒムとクリヒムを見ていると、交ざりたいなと思ってしまった。
なんだか自分が子供みたいだなと呆れた感情を抱いてしまう。だけど、残り僅かな人生なのだから、やりたいことはなるべく出来るだけやっていこうとそんな気持ちにもなっている。
だから言いたいことは言おうと思う。それにやりたいことはやろうと思っている。
自分の人生が残り僅かだと思わなければ私はそもそもここまで腹を括れなかったと思う。前世の記憶を思い出せなければこんな状況下で自分の意見を口にすることも難しかったかもしれない。
「大丈夫だと思います」
「ふふっ、なら話しかけてみようかしら」
私はそう口にして、二人の居る元へと向かうことにする。
歩きながら妙に緊張した気持ちになる。普段の、ちょっとした合間に「お菓子食べない?」と問いかけるのとは違って「交ざってもいい?」と聞こうとしているのだもの。
……そもそも私と一緒に居たくないと思われていたら断られてしまうのよね。
誰かと何かを一緒にしたいと、そう申し出ることって勇気がいるわ。
可愛い二人の子供達は私のお菓子は拒絶するし、私のことは警戒しているのは分かるけれど……、でも私のことを本当に心から嫌っているわけではないと思っている。
ただ嫌悪しかないのならばもっと冷たい瞳を浮かべるはず……。それこそバルダーシ公爵家の方々みたいに私に対する興味関心が欠片もない状況も普通にあり得た。だけど、子供たちの視線はそうではないはず……。
「ティアヒム、クリヒム」
私がそう言って声をかけると、二人はこちらを向いた。
ティアヒムは警戒したようにこちらを見る。そしてクリヒムは少し心配そうに眉を下げている。
そういう表情しか子供達にさせてあげられないことは少しだけ寂しく思う。
もっと二人には笑顔になってほしい。笑っている二人を見たい。私はそう思っているのにな。
「何か、御用ですか」
クリヒムを庇うように、前に立つティアヒム。
「魔法の練習をしているのでしょう。私も一緒に交ざってもいいかしら?」
私はそう問いかけた。