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前世の記憶を思い出した。

「あ」



 がたんごとんと、揺れる馬車の中。




 私、ウェリタは頭をぶつけた衝撃で、前世の記憶を思い出した。

 ……一人きりで良かった。誰かが傍に居たら私は訝しがられていただろうから。




 これから嫁ぐ花嫁が、貴族にも関わらずに侍女もつけずに向かうことは一般的にみればおかしいことだろう。仮にも公爵令嬢として嫁ぐことになっているので、後ろに連なる馬車には様々な物が乗っているが、それは決して私が大切にされているわけではないことを私は知っている。

 前世の記憶を突然思い出して混乱はしているけれど、私はそれよりも――今の状況と、これからの未来について考えなければならない。




「さぁて、どうしようか」




 私はこれからクーリヴェン公爵家に嫁ぐことになっている。ただしこれは政略結婚であり、決して向こうから望まれたものではない。それは別に貴族としてはよくある話なので問題ない。

 ただ私の現状は限りなく詰んでいる。




 そもそもの話、私は元々は子爵家の娘なのだ。そんな私がバルダーシ公爵家の娘として、養子に入ったのはバルダーシ公爵家が私の実家の寄親だからである。ただバルダーシ公爵家には本当の娘がいる。それなのにわざわざ私を養子にとったのはこの結婚が幸せなものではなく、私が捨て駒だから。



 私が嫁ぐ予定のクーリヴェン公爵家当主は、様々な噂がされている方だ。




 氷や水系統の魔法が得意で、その魔法特性のように冷たい人だと聞いている。魔物や盗賊と言った敵対する者に対して容赦がなくて、その強さや性格を理由に恐れられている。女性に笑いかけることなどまずないらしい。

 見た目はとても美しい人だとは聞いているけれど、社交界の場にもそこまで出てこないのよね。あとはその見た目から女性たちに騒がれてはいるけれど、一時的な遊び相手としてはともかくとして結婚相手としては向かないとそう言われているらしい。




 私は正直言って、そういう結婚相手に向かないとか、政略結婚とかはどうでもいい。




 結婚相手自体が幾ら冷たかろうが、何の問題があるのだろうか。

 ……寧ろ美形だと噂されている美しい男性を旦那様に出来るのは最高のことでは? と思っている。

 私は前世から面食いだった。中身も大事だけど、見た目が好みであるかも重要だとは思う。





 あともう一つ、クーリヴェン公爵に嫁ぎたがらない女性が多いのは――彼が再婚だからだ。

 元奥様との間に二人の子供がいる。それに関しても、私は特に気にならない。初婚で血のつながらない子供を持つことを嫌がる人は多いかもしれないけれど、寧ろどんな子供達だろうかとそれが楽しみでしかたがない。




 元々前世の私は保育士を目指していた。

 残念なことに大学生の頃に事故死してしまったので、その夢も叶わなかった。

 いつか結婚して、子供を持つこと。それも一つの夢としてあった。その叶わない夢が、自分で産むではないけれど……叶うことは嬉しい。



 ――だけど、ただ喜んでいるばかりでは私は居られない。




 私の状況は間違いなく詰んでいる。



 クーリヴェン公爵に嫁いだとしても、例えば此処から逃げ出したとしても――その事実は変わらない。

 実の家族を頼るわけにはいかない。




 ……それでいてこの馬車から抜け出すことも出来ない。そんなことは私を送り届けている御者が許さないだろう。彼はバルダーシ公爵の手の者だ。

 私が逃げ出せばそれだけ、多くの血が流れるはず。少なくともお母様たちは始末される未来しか見えない。

 そもそも今の私は――とある事情で以前よりも魔法が使いづらい。そういう状況下で、一人で街の外を生き延びるなど出来ない。そもそも逃げ出した時点で、私も死ぬだろう。




 前世の記憶を思い出してなければ、こんな風に妙に落ちついていられなかっただろうと思う。

 実際に私は前世の記憶を思い出すまでの間、不安と緊張と混乱でいっぱいで正気ではなかったから。

 ――だから、前世の記憶を思い出せてよかったと私はそう思う。そうじゃなかったら本当に自棄になったり、冷静さを欠いた行動しか出来なかったから。




「はぁ……、それにしても今世も十代で死亡かぁ」




 本当に詰んでいることに、私の死は決まっている。




 二十を超える前に死亡、今世でも十八歳で死がほぼ確定しているなんて本当にどうしてこんなについていないのか。

 そんなことを考えながらも、私は馬車に揺られるしかなかった。



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