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創世神話と、浮気写真(?)

 何もない空間に、一柱の“神”が降り立った。


 神は御身以外の“命の存在”を願った。願いは叶い、この世に草花が、獣が、人が創り出された。神はとりわけ、自身によく似た“人”を気に入り、一人の少女に自身の力を分け与えた。


 神の力を与えられた少女の姿は変容し、より神に近い姿となって、奇跡を起こす力までもを会得した。そして少女は聖女と呼ばれるようになった。


 分け与えたがために“完全”でなくなった神は人の姿を取って、聖女と一緒になり、人の国の王となって、多くの子を成した。子らは人の見目のまま奇跡の力の欠片――魔力を有したものと、聖女と同じように変容し、より膨大な魔力を得たものに二分した。


 これが魔法と魔法種族――魔族の起こりである。


 やがて世界は魔力で満たされ、植物にも獣にも魔力が通うようになり、魔法植物や魔獣が誕生した。



~中略~



 だが長い間、手を取り合って暮らしていた人と魔族の関係は、王たる神の崩御により一変した。世界に満ちた魔力の均衡が崩れ、魔族の膨大な魔力が“暴走”を起こすようになった。


 人を襲い、殺戮を繰り返すもの。食事として、人の血肉を欲するもの。


 人の数は圧倒的な力量差を持つ魔族を前に、急激に減少していった。


 人は考えた。魔力さえ封じることができれば、と。人は隠れながら魔力を封じる術を探った。そして人は原初の魔道具――“魔力封じの首輪”を完成させた。


 多くの魔道具を生み出し、効率的に魔力を運用できるようになった人は、魔族の魔力を首輪で封じ、蹂躙していった。そうして人との戦争に破れた魔族は“魔物”と呼ばれ、迫害を受けるようになった。


 人と魔族の対立に悲しんだ聖女は、己が身に残った最後の奇跡の力を用い、世界を人の世と魔界の二つに分け、全てとはいかぬまでも多くの魔族を魔界に隔離し、二つの世界を二度と交わらないようにした。


 聖女は奇跡の代償に命を落とし、願いを叶える奇跡の力は失われ、人は聖女の死に深く心を痛めた。人は、聖女を蘇らせる術を模索した。


 死者蘇生に、人体錬成。人はありとあらゆる生命の理に反する術を生み出した。だがしかし、聖女が復活することはなかった。


 それから時は流れ、魔族の存在がお伽話のものとなり、人同士で幾つもの国に分かれて戦争を繰り返していた頃、王国の一人の女が魔族との子を身ごもった。産み落とされた子は人の見目に近いながらも、魔族の翼と角、そして膨大な魔力と、失われたはずの“奇跡の力”を有していた。


 王国の人はその子を“聖女”そして“先祖返り”と定め、魔道具で魔族の特徴を隠し、“奇跡の子”として王宮に輿入れさせ、力を独占した。


 こうしてエストレーラ王国は、再び手にした“奇跡の力”と魔道具により、他の国に類を見ないほどの繫栄を誇るようになったのだ。





「――だがな、ここには書けなんだが、奇跡の力を継ぐものを王宮に迎えたのは過ちであったと、(わらわ)は思っておる」


「まちがいって、こと?」


「そうだ」


「ふーん……」


 革表紙の古い本をぱたんと閉じた母は、紫紺の瞳を伏せ、腰まで垂らしたプラチナブロンドの髪をそよ風に靡かせた。


 まだ幼かったわたしはガーデンチェアの上でぷらぷらと足を揺らし、ティーカップに口をつける母をぼーっと見上げていた。


 上手く言語化する能力はなかったものの、庭園に咲いた紫の薔薇がよく似合う人だな、と思ったことをよく覚えている。


「……神の血を引いているとはいえ、王家の子らも所詮は人。人の身に奇跡の力はそぐわぬ。只でさえ王家の魔法は神の力に酷似しているというに、より血を――魔力を濃くするような真似をするなど、己が身を滅ぼしたいとしか思えん」


「?」


 赤い紅茶を飲み干してため息を零した母に、話の半分も理解できなかったわたしはこてりと首を傾げた。


 母は鋭い牙を見せて、「お前には少し難しかったか」と、コココと笑った。


「現にシリウスも原因の分からぬ不治の病に侵されている。もって十数年の命だろう。それに加え、一目見ただけだが、彼奴(あやつ)の子なぞもっと酷いぞ。恐らく、歴代の王族で最も秀でた魔力を持っておるからな」


「おひめさま?」


(いや)。王子様だ」


「おうじさまか……」


 うむむむむ……と悩ましげな顔をするわたしを見、母がうっそりと笑う。


「うーんと……おかあさまは、その子たちをたすけられないの?」


「出来ぬことはないが、望ましい方法ではないな」


「できないの?」


「やりたくない」


「なら、わたしがたすけていい?」


「ほう、これはまた大きく出たな。彼奴らはお前の好む“愛らしい女子”ではないぞ?」


「うん。でもしあわせになってほしい。なんとなく」


左様(そう)か」


「うん」


 お母さまはどこか嬉しそうに紅茶を啜った。黒いドレスがぱたぱたと風にはためいた。


「ならば、妾の××××を宜しく頼むぞ。ロザリア」


 お母さまは大輪の薔薇よりも美しい顔で、愛しそうに笑った。


 わたしはずっと、その一単語だけを思い出せないでいる。





「……」


 もう一度、表紙の方からしっかりと内容に目を通したわたしは、母との思い出の本をぱたりと閉じた。ぶわっと埃が舞い上がった。


 母は長い時を生きたヴァンパイアだった。だから神話や歴史に詳しく、よくティータイムや寝物語に昔話を聞かせてくれた。


 わたしはあの時間がとても好きだった。母のことがとても大好きだった。


「……でも、なんでこの本が陛下のところにもあるんだろう。お母さまと陛下の関係っていったい……っあ、は、はっくしょーーーーーんっ!!!」


 埃のせいで大きなくしゃみをしてしまい、机上の書類が吹き飛んだ。さらに埃が舞った。メガネのレンズが真っ白になった。


「うげぇ、埃が目と鼻と口に~~~~……ぺっぺっ。書類を元の位置に戻さなきゃだけど、視界不良すぎるな。こんなこともあろうかと、持っててよかったメガネ拭き。さてさて、光よりも速くメガネを拭かねば――って、え?」


 本を置いてスッと勢い良くメガネを外し、ポケットに突っ込んでおいたメガネ吹きを取り出しそうとしたわたしは、中途半端な姿勢で固まった。


 埃被ったメガネを外し、書類が吹き飛んだことにより、露わになった机の上。その真ん中。


 そこには、一枚の写真があった。


「なにこれ」


 ぽつりと、感情を削ぎ落した声で呟く。そこには、一組の男女と一人の子供が写っていた。


「お母さまと、シリウス国王陛下。それはわかる。でもこの子は、この子どもは……」


 そこには、朗らかに微笑むお母さまと、愛しそうに微笑む陛下と、そして――。


「だれ?」


 ――お母さまにしがみつく、わたしとロゼッタにそっくりの幼い子供が写っていた。


「……」


 わたしには、この年齢の頃に国王陛下に会った記憶なんて、ありはしないというのに。


「――さあ、誰でしょうね? もしかしたら浮気の証拠写真かもしれませんよ、ロザリアさん」


「っ!」


「いや、今はロザリーちゃんとでも、お呼びした方がいいのかなっ♪」


 耳元で囁かれた弾むような声に、わたしはバッと背後を振り返った。


 おかしい。絶対にわたしは一人だったはずなのに。認識阻害の魔道具を用いていたのに。それに、聞き間違うわけがない。この声は――。


「なんで、」


「うふふ。こーんな簡単な罠に引っかかっちゃうなんて、ロザリーちゃんはカワイイですねっ! 認識阻害を使っているのが、自分だけだとでも思いましたか?」


 長い銀髪が揺れる。翠緑の瞳がばちっと瞬く。黒のマリアベールがぶわりと舞い上がる。くすりと口角を吊り上げた彼女に、わたしは零れ落ちそうなほど目を見開いた。


「――クリスティーナ、ちゃん」


「はいっ! その通り、聖女見習いのクリスティーナ・リュミエールですっ! お久しぶりですねっ♪」


 窓から射し込んだ逆光を背負い、クリスティーナ・リュミエールは神秘的なほど妖しい笑みを貼り付けた。


「ところで、ロザリーちゃんはもう一度お母さまに会いたいなって、思ったことはありますか?」

第27話も最後までお読みいただきありがとうございます!!!

面白かったら、ブクマや星などで応援していただけると嬉しいです!!!

リアクションやコメントもお待ちしております!!!いつもありがとう!!!




はい!


今回は神話とローゼリーナさんのお話でした!!

なにげに、ローゼリーナさんのビジュとしゃべりは初出ですね!!


腰より長いプラチナブロンドの髪に、深い紫の瞳の超絶美人です!!年齢は秘密(本人も覚えてない)!!


そして、久しぶりのクリスティーナちゃんの登場!!どんどん明らかになる設定たち!!あと気になる浮気写真(?)とロザリーのそっくりさんの真相とは!?


まあ、次回で明らかにするかは未定なんですけど(ボソッ)


なにはともあれ、次回もお楽しみに!!!読んでね!!!




【追記】先々週くらいから言ってた短編をようやく投稿しました!!!


闇属性エンバーマーと、キョンシー・ゾンビ・アンデットによるドタバタ異世界冒険譚です!!


反応がよければ続くかもです!!


ぜひとも!!ぜひともポチッとお願いします!!!↓↓↓


https://ncode.syosetu.com/n8997kl/

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