ロザリーは アイテムを 手に入れた!
「じゃあ、今日から三人でがんばろ~~~~~!」
「おー!」
とテンションが高まって三人の手を重ねたところに、コンコンと強めのノックの音が割り込んできたのはその時だった。
「お……?」
「ルキウス殿下。国王陛下がお呼びです」
老父のようなしゃがれた声が、冷徹な響きを持ってドア越しに落とされた。
きょとんと目を丸めて隣を見れば、ルキウスさまは重ねていた手を引っ込めて、睨むような視線を扉に向けていた。ランスくんが所在なさげにルキウスさまと扉の間できょろきょろと視線をさまよわせる。
「……父上が?」
その声は、咎めるような、暗く冷たい音をしていた。
「はい。ランスロット殿も連れて即刻来られたし、とのことで」
「ロザリーは?」
「ロザリー? ……ああ、件の魔物の娘ですか」
「!」
諦観に似た心痛で、あるいは突発的な憤怒で、はっと誰もが息を飲んだ。
呆然と放心するわたしの代わりに、ランスくんが反論しようと口を開く。だがその口から音が発されることはなかった。
「……」
ぶわっと、冷や汗が滲むほどの怒りが、重力かと錯覚するほどの圧が、室内に満ちた。
瞳孔をかっぴらいたルキウスさまのこめかみに、血管が浮かび上がる。魔力は封じられているはずなのに、ぶわっとラベンダー色の髪が宙に広がった。
「誰の婚約者にそんな口をきいている。王の従者に、己が紡ぐ言葉の重みすら理解できない無能は必要ないぞ。ロザリーはボクの妻だ。未来の国母だ。一介の従者風情が蔑める立場にないことすら、お前には分からないのか?」
ガキン、と小刻みに振動するチョーカーが、耐えかねて悲鳴を上げる。
扉の方を向いていたランスくんが、一拍遅れてこちらを振り返る。
こんなに荒い言葉を選ぶルキウスさまは、初めて見た。
「おお怖。ひょっとしてそこに、婚約者殿もおられるのですかな? これはこれは、大変申し訳ございません。この爺め、一生の不覚にございます。ですが、それはそれ、これはこれ。これ以上その方を陛下の御前に入れるわけにはいきませんので悪しからず」
「……」
「そもそも婚約自体、陛下が独断でお決めになったことですから、我々配下は委細承知してはおらぬのです。不老長寿の血筋にあろうと魔族は魔族。神聖なる王家の血に取り入れるなど、爺は反対にございます。あげく妃教育を受けるなどと嘯いて王宮に居座ろうなど、厚顔無恥にもほどが――」
「聞こえなかったか。口をつぐめと、ボクは言ったんだ」
静かに、けれど強く、ルキウスさまが言葉を吐き落とした。
「お父さまもボクもロザリーも認めていることに、お前が口をはさむ余地はない」
「……これは失敬。殿下には随分と嫌われてしまったようですな。では爺めは陛下のもとに下がらせていただきます。後ほど、ランスロット殿のみをお連れになって、玉座の間にお越しくださいませ。では」
カツンカツンと、一度も姿を見せぬまま、老父の足音が遠ざかっていった。
「やっと行ったか、おいぼれが。……ふぅ。ごめんね、ロザリー。ボクと父の従者のせいで嫌な思いさせて。あとできっちりと灸を据えておくから。絶対に」
剣吞な眼差しで短く息を吐き終えた後のルキウスさまは、いつも通りの穏やかでふわっとした表情をしていた。ちょっと最後の一言の時だけ目がマジだったけど。
けど、わたしのために怒ってくれたルキウスさまの横顔はすごくかっこよくて、ドキッとして、ほんとにk……じゃなくて!
「い、いやその! 何年も強制引きこもり状態だったから久々な感覚に面喰らいましたけど、別にああいう扱いを受けるのは慣れてますし、この世界の価値観だとか歴史とかだと当然だと思いますし、表向きは花嫁修業って誤魔化して居座ってるのは事実ですし、そんな大事にするほどじゃ……」
「なら、キミと同じ立場であるロゼッタが今の発言に晒されたらどうするの?」
「殴る」
「ほらね」
「うぅ……」
わたしのことで大事にはしたくない。けど、大好きなロゼッタが同じ目にあったらノータイムで殴る自信しかない。グーで、それはもう原型をとどめないほどギッチョンギッチョンに。
多分こういうとこが、ランスくんに自己肯定感が低いって言われちゃうゆえんなんだよなあ……。なら、直さねば……今からでも鳩尾に一撃入れに行くか……? うーん……。
「……ロザリーサン」
「ん?」
顎に手を当てて真剣にどーやって一矢報いるかを思案していたわたしに、ランスくんが控えめに声を掛けた。その顔はいつになく俯き気味で、切り出された声もやや歯切れが悪い感じだ。
「あの、さ……。オレ、その……、あの人に何も言えなくて、ごめ、」
「あ! それでごめんって言ったら、ランスくんの次のごはんわたし全部食べちゃうからね!」
「え? それは全然いいけど……。あ、朝ごはん量足りなかった? それなら次からもうちょっと多めに……」
「え? ランスくんの手作りごはんをもっといっぱい食べられるの? わーい! ……じゃなくって!」
両手で万歳して喜んだわたしはすぐさま話の脱線に気づき、両手を下ろした。あぶなかった。
「ランスくん一番最初に言い返そうとしてくれてたじゃん! ルキウスさまの圧がすごくて黙っちゃったんだろうなっていうのはわかるし、でも気持ちはすごく伝わったから! わたしの代わりに言い返そうとしてくれてありがとう! ルキウスさまもわたしのためにいっぱい怒ってくれてありがとう! 二人ともかっこよかった! です!!」
「へ!? えと、なら、どういたしまして……」
「うん!! ルキウスさまも!」
「いや、ボクは怒りを制御できなかっただけだから……」
「ありがとう!!」
「……ふふっ、どういたしまして」
うん、完璧。これなら自分を大事にできてるし、二人に強制的にお礼を受け取らせることもできた。ひょっとしたら、わたしって天才なのかもしれないな。
そうやってウキウキするわたしと、慈愛に満ちた笑みを浮かべるルキウスさまの前で、なおもランスくんは浮かない顔をしていた。
「けどオレ、他の人がこんなに魔族をよく思ってないなんて、今まで知らなかった。昨日ロゼッタサンが、他の人もオレみたいだったらって言ってたのって、こういうことだったんだな……」
「……仕方ないよ。魔族も、先祖返りも、もうそんなにいないんだし。でも昔、人間と魔族の戦争があったから、お年寄りとかはそういう意識が強いのかもね。みんながみんなそうってわけじゃないと思うけど……」
こればっかりは難しい問題だ。魔法があって、色々文明は発展しているとはいえ、この世界の舞台は中世。元現代日本人なわたしには想像もつかない問題だって、知らないだけできっと山積みになっているんだろう。
「……うん。魔族への偏見だとか、差別だとかをゼロにするのは難しいと思う。でも、ランスくんみたいに、魔族のわたしとも普通に仲良くしてくれるのは、すごく救いになるんだ。希望が見える、って言うのかな? そんな感じ」
ランスくんも、初めて会った時のまだ男の子だったルキウスさまも、わたしに嫌な視線を一切向けてこなかった。普通に、人間みたいに接してくれた。
他の人みたいに汚いものを見るような視線を寄こさなかった。お父さまみたいに、外の世界で過ごさせることを案じて過保護に接されることもなかった。
それがすごく、嬉しかった。
「だから、何が言いたいってわけでもないんだけど、えっと、これからもわたしと仲良くしてくれると嬉しいな!!」
「もちろん!! 魔族とか人間とかじゃなくて、オレは“ロザリーサン”が大好きなんだし!」
「!」
上手く纏められないまま、目を瞑って叫んだ言葉に、ランスくんはノータイムで、晴れやかな笑顔で返事をくれた。それだけで、さっきのやりとりでちょっと傷ついた心が、あったかく癒されるような気がした。
「えっえっえっと、わたしもランスくんのこと大好きだよ!! もちろん、ルキウスさまも!!」
「ひどいなロザリー。ボクはついでなの?」
「そんなことないです!! あい・らぶ・ルキウスさま!!」
「ふふふ、知ってるよ」
ランスくんが、ルキウスさまが、魔族の血を引くわたしとにこやかに笑い合ってくれる。こんなあったかくて綺麗な世界がもっと広がっていけばいいのになって、心の底からそう思う。
ルキウスさまが覚悟を決めたような顔で話を切り出したのは、その時だった。
「……じゃあ、ランス。そろそろ玉座の間に行こうか。あまり父上を待たせると、こちらの心証が悪くなるかもしれないし」
「ほんとにいいのか? ロザリーサンを一人にして。ロザリーサンのことをよく思ってない人が害しに来るかもしれないし、オレだけでも残った方がいいんじゃねーの?」
「甘いね、ランス。ロザリーを王城に迎えるにあたって、このボクがなんの対策も取っていないとでも? ちょっと待ってて」
席を立ちあがり、長い髪を揺らしながらルキウスさまが隣の部屋――さっきまで一緒にいた寝室へと消えていく。それをはてな顔で見送るわたしとランスくん。
「あ、帰ってきた」
そして数秒もたたずに手に長方形のコンパクトな箱を持って帰ってきたルキウスさま。まじで一瞬だったけど、ほんとにルキウスさま魔法使えないんだよね???
「ロザリー、これを受け取って」
「これって……?」
パカッと、わたしの前に来たルキウスさまが、婚約指輪の箱でも開けるみたいに手の中の箱を開ける。けど、箱が長方形なら、指輪とかではないはず。なら、中身はいったい――。
「ん? ……メガネ?」
「メガネだな」
「メガネだよ」
「メガネだよね?」
「メガネだよな」
「メガネだけれど」
メガネだった。丸っこい細縁の、かわいくてオシャレなやつ。つまり箱はメガネケース。
「えっと、なぜにメガネ……? とりあえず、わたしはこれをかければよろしいので……?」
「うん」
「今?」
「うん」
「説明は!?」
「ないよ」
「ないのか……ならしょうがないか……」
よくわからないまま、頭にはてなを浮かべつつ、メガネを箱から取り出して、装着の準備をする。
「ええい、ままよ。装着!!」
そしてわたしは、今世で初めてメガネをかけたのだが……。
「ん? 特に何も変化ないな……? どういうことですか? ルキウスさま」
「……」
「え、無視? 悲し。ランスくーん、わたしメガネ似合ってるー?」
「……? ……?」
「ランスくんまで!? えらいこっちゃ……」
なぜかきょろきょろと辺りを見回して目をまんまるにしているランスくんと、訳知り顔で楽しそうににこにこしているルキウスさま。なぜか二人に無視されているわたし。ぴえん。
「え? ほんとに何? 今ずっと仲良くしようね的なことで、お話まとまったとこだったよね? なのに無視ですか?? ねーーーーーー! ひどくないか二人ともーーーーーー!!」
ここまで叫んでも、二人は一切の反応をこちらに示さない。さすがに変だなと思って、わたしはこてりと首を傾げた。
「もしかしてこれ、ひょっとして……」
「なあ、ルキウス――ロザリーサンは、どこ行ったんだ?」
「やっぱり! 二人にはわたしが見えてないんだ! ってことはつまり……?」
「これでロザリーにメガネの効果が伝わったかな。今ロザリーに渡したメガネにはね、通常より強力な認識阻害の魔法がかかってるんだ。それをかけていれば、姿も見えないし、声も聞こえないし、ぶつかっても誰にも気づかれないよ。ロザリー、一度メガネを外してくれる?」
「はーい、脱着~~~~~あ、脱着って別に装着の対義語じゃないか。着脱? 違うか……」
「うわァっ! え、ロザリーさん!? ずっとそこにいたのか!?」
「いたよー! 無視されたかと思ったーーーー! びっくりした~~~~~……」
「ふふ、ごめんねロザリー。ちょっと黙ってた方が面白そうだなって思って」
「愉悦犯め……」
「そんな言葉はないよ」
「知ってる……」
けどまあ、本気でびっくりして声まで裏返っちゃったランスくんを拝めたので良しとしよう。ほんとにきみはなにしててもかわいいな……。癒される……。
と、ランスくんをガン見しだしたわたしにコホンと一つ、ルキウスさまが咳ばらいを打った。
「ともかく、これがあれば城内を移動しても誰にも見つからないから……」
「女の子を合法的にガン見できる!?」
「……言うと思った。まあ、可能か不可能かで言えば可能だね。どうする? 場内を探索するか、ボクらについてくるか」
「……それは」
正直、さっきの人がいるなら行きたくない。いくら見えないとはいえ、自分を嫌っている人の傍にはできることなら行きたくない。むしろ、わたしの姿がないならどしどし悪口を言ってくるだろうし……。
「行きたくないんだね。わかった、ならロザリーには特別な任務を任せようか」
「特別な、任務……?」
めがねをかけながら。
「キミには、この城の秘密を探って欲しいんだ」
第25話も最後までお読みいただきましてありがとうございます!!!
面白ければブクマや星などで応援していただけると嬉しいです!!!
コメントやリアクションなどもお待ちしております!!!いつもありがとう!!!
はい。
今回前半暗くなっちゃった……。差別とかって問題はどうやって描写したらいいかとか、どういう言葉選びをしたらいいかとか、色々悩みますね……。
ちなみに口が悪い順(本性)は、
ルキウスさま>ロゼッタ>ロザリー>>>ランスくん
だったりします!クリスティーナちゃんがどこかですか??上の方とだけ言っときますね〜〜〜。
さあ、次回ロザリーは認識阻害メガネで何をするのか!乞うご期待ください!!!
来週も見てね!!!
あと一個ちょっとした告知(?)させてください!!
万が一完成したら、明日の晩にこの話とは1ミリも関係ない短編を一個あげます!!何書くかもまだ決まってません!!1文字も書いてません!!徹夜でなんとかなればいいなって思ってます!!なんとかなれーっ!!
ならなかったら、何も無かったことにして来週の続き書きます。皆さまは何も見なかった。いいですね??
てなわけで、そちらも良かったら見てね!!もし完成したらだけど!!!
ではさらば!!!!!




