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ランスくんの正式加入

「……なるほど。つまりロザリーサンは、ニホンって国で死んじゃって、」


「うん」


「いつの間にか、そこで見知った物語(ゲーム)? であるこの世界に転生してて、」


「うん」


「しかもそのことに全然気づかないままロザリア・ローズガーデンとして七年間生きていたことを、ルキウスと会った日の朝に唐突に思い出した……ってことか?」


「いえす! その通り! いぐざくとりー! ちなみに死んだなーって感覚は覚えてるけど、その原因も、ゲーム以外の前世の記憶もほとんど覚えてないよ! 年齢は今よりは十個以上上だったかな~……? ってくらい! ほんとにわかんない!」


「そ、それは大変だな」


 眉をひそめ、ピコーンと効果音が付きそうな顔でこちらを窺うランスくんに、わたしは前のめりになって満面の笑みで親指を立てた。さすがはランスくん飲み込みがお早い。


 あれから数分。朝食を食べ終わり食器を片付けたわたしたちは、再び机に向かい合ってこれまでの経緯をあーだこーだとランスくんに説明した。ご理解いただけた。大説明大会が閉会した。……展開も早いな。


「で、ルキウスは世界観測のスキルを持ってて、この世界の結末を夢に見ることをロザリーサンに打ち明けて、半年前の約束を叶えるために女の子になったと……」


「そうなるね。その後はロザリア・ローズガーデン本来の精神体であるロゼッタと魔法で戦ったりと、おおよそキミの知っての通りだよ」


「そーか……」


 ゆっくりと椅子に座りなおすわたしの隣で、ルキウスさまが自信気な笑顔で頷いた。かわいい。肖像画にして拝み倒したいくらいかわいい。寝起きゆえに三割増しでふわっふわの髪にもう一度埋もれたい。かわいい。


 こっそりと、しかし穴が開くほどの熱視線をルキウスさまに向けるわたしをよそに、ランスくんが俯き気味に思案に暮れる。


「んん……わかった。ルキウスに関しては、何で真っ先にオレに相談してくれなかったんだよとか、いろいろ言いたいことはあるけど、話はわかった。……お前も大変だったんだな」


「いや、……うん。そうだね、ランスの言う通りだ。これからはもう少しキミや他のひとにも頼れるよう、努力するよ」


「おう、そーしてくれ」


 眉根を下げて弱弱しく微笑するルキウスさまに、ランスくんはニカッと爽やかに笑った。ルキウスさまの姿は変われど、揺るぎない男の友情を感じてこちらまでほっこりと頬が緩む。


 だが、ランスくんの表情から笑みが消えたのは、ほんの数秒後だった。


 言い淀むように下を見て、すっと短くランスくんが息を吸い込む。


「……じゃあ、さ。そろそろ訊かせてもらうけど、オレの最期って……その、どんな、だった……?」


「……」


 ルキウスさまが押し黙った。


 伝え方を決めあぐねるように重い沈黙を選んだ彼と、不安を紛らわせようと首をさするランスくんを交互に見やり、けれどここで紡ぐべき言葉を持ち合わせない歯がゆさに、わたしも同じように口をつぐむ。


 はく、とわずかにルキウスさまが口を開く。


「……どう伝えればいいのか、わからないんだけど、まずランスはクリスティーナ・リュミエールを覚えてる?」


「? ああ、あの王宮に来てた、聖女サマ見習いの銀髪の人だろ? それがどうしたんだ?」


「いや……」


「?」


 言いづらそうに、苦虫を嚙み潰したような顔で目を逸らすルキウスさまと、顔を見合わせて頭に大量のはてなマークを浮かべるわたしとランスくん。いったい、クリスティーナちゃんがどうしたというのか。


「ふう……、あのね、すごく言いづらいんだけど、未来のキミはクリスティーナに恋をしていたんだよ」


「こ、恋!?」


 驚いてガタッと椅子を鳴らしたランスくんの顔が、一瞬できゅーっと首まで真っ赤に染まり上がった。


 目を見開いたままチラチラとわたしを気にするランスくんに、口を押さえて申し訳なさそうに目を逸らすルキウスさま。そして赤面するランスくんがかわいいこと以外、全く現状を理解できずにはてなマークを増やすわたし。


 ランスくんがクリスティーナちゃんに恋をしていたのはさっき思い出せたけど、今恋バナとかする流れだったか???


「ごめん。あの、本当に必要なことだから……」


「あ、ああ、そーだろうけど、さ……」


「????」


 椅子の位置を直しながら、なおもこちらをチラ見するランスくんを、きょとんと見つめ返す。


 やっぱり、男の子同士の恋バナをするのに、わたしはお邪魔なんだろうか。お邪魔なんだろうな……ぴえん。けどまあ、ここで退室するわけにもいかないので、ランスくんにはこのまま羞恥心に耐え続けてもらおう。


 べべべべ別に、恥ずかしがってるランスくんを少しでも長く目に焼き付けたいとか、そんなよこしまなことしか考えてないわけでは断じてないからね! あくまでランスくんの最期とか、重要な情報を聞き逃さないためだから!


「やっぱ照れ顔ランスくんかわいいな……」


「ロザリー、さすがに今はやめてあげて」


「しまった、また口に出てたか。恋バナの邪魔してごめんね、ランスくん」


「そうだけどそうじゃねーよ、ロザリーサン!!」


「お、おおう……?」


 赤面したまま、きゅっと目を閉じて抗議するランスくんに、また頭のはてなが増殖する。恋バナに横入りされたことを怒っているわけじゃないのか……。


「えっと、なら、次クリスティーナちゃんに会ったとしても、絶対秘密にしとくって約束するから! ね?」


「それはそーしてほしいけど、それも違う!!」


「?????」


「いいから、ロザリーは少し黙っていようね。話が進まないから」


「あい……」


 ルキウスさまに優しくお口チャックを命じられてしまった……とほほ。ランスくんにちゃんとごめんなさいしたかったんだけど、こればっかりはどうしようもない。


 おとなしくお口にチャックでランスくんをガン見しておこう。暑そうに首さすっててほんとにかわいいな……。


「で、話を戻すけれど、未来で見たキミはクリスティーナに恋をしていたんだ。だから彼女の魔法に……、彼女を無理に眷属に置いて魔法を使わせたロザリア・ローズガーデンに操られた」


「……」


 そう。原作メインルートにおけるクリスティーナちゃんの死因は、衰弱死。そしてその原因は、いつかの未来であるわたし……あるいはロゼッタであるロザリア・ローズガーデンに魔力が枯渇するまで利用されたこと。


 ルキウスさまに看取られたラストシーンはほんとうに美しくて殊更に悲しかった……あ、思い出したら目に涙が。


「すん……ずぴ。やば、」


 思わず鼻を啜れば、ルキウスさまがハンカチを、ランスくんがお水を差し出してくれた。そしてまたしても無言で背を撫でてくれるルキウスさま。ありがたい……。


「……続けるけど、ランスはロザリア・ローズガーデンに操られていたクリスティーナに操られていた。だからね、ボクがキミを殺したんだ」


 わたしの背を撫でながら目を伏せ、悲しそうな顔でルキウスさまが微笑んだ。


「操られていないのはボクだけだったから、そうするしかなかったんだ。ボクだけが、クリスティーナの魔法にかからなかったから」


「……そーか」


「ボクも彼女を愛せれば楽だったんだけどね。ロザリーの前で言うべきことじゃないけれど」


「いいえ……」


 意図しない重苦しい空気が場に満ちた。ルキウスさまもランスくんも俯いて、あたりに響くのは最後の一口だったクッキーの咀嚼音だけ。


 ランスはクリスティーナに恋をしていた。そして、ルキウスもクリスティーナを愛していると思っていたから、恋を心の奥底に封じ込めた。


 クリスティーナはルキウスに恋をしていた。そして、ルキウスに愛されていないことを、ロザリアによって、自身が持つ“とある魔法”によって、最期に思い知らされた。


 ロザリアはルキウスに恋をしていた。そう思い込まなければ自分を保てなかったから。本当は誰でもいいから愛を与えてほしかった。だから、皆に愛されるクリスティーナを目の当たりにして、嫉妬の炎に身をやつした。


 ルキウスはクリスティーナに恋をしているフリをしていた。自身のスキルが指し示す未来に背くのが怖かったから。誰かを愛したくとも、擦り減った心では叶わなかった。


 ……原因がどこにあったのかはわからない。運命の歯車の嚙み合わせが最悪に狂っていたとしか言いようがないのかもしれない。最初は誰も悪くなかったのに、事態はどんどん悪化して、気づけば多くの死体が積み上がっていた。


 そういう物語だった。


「……オレに黙ってたのは、それだけか?」


「うん。まだ話していないことはあるだろうけど、隠そうとしていることはもうないよ。ずっと黙っていて、ごめん」


「そっか、わかった」


 ランスくんが長い睫毛を瞬かせる。空気はそれで切り替わった。


「なら、約束する。オレは絶対、お前にオレを殺させない。お前に誰も殺させない。だってお前が見た未来はこれから起こるかもしれないことで、まだ起こってないことなんだろ? なら変えようは絶対あるって!」


「……、ランス」


 ルキウスさまがはっと息をのんだ。


「それに、その世界にロザリーサンはいなかったんだろ? ロゼッタサンも二人の親父さんももう孤独じゃないんだし、オレもいっぱい救ってもらったし、ロザリーサンのおかげで全部、いい方に変わってきてるじゃん」


「わ、わたし!?」


「……確かにそうだね。ボクもロザリーのおかげで変わることができた。こうやってランスに打ち明けることができるほどに」


「え、え~……そんなすごいこと、わたしなんも出来てないと思うけどな……」


「いや、そんなことあるってば。オレが言えることじゃないけどさ、ロザリーサンはもうちょい自己肯定感あげた方がいいと思うぜ?」


「本当にその言葉はそのままそっくりランスくんにお返ししたいけど、……うん。わたしも精進するね」


「おう!」


「ふふ、いい方向に話がまとまりそうでよかったよ。キミたちは本当に眩しいね」


「オレはその言葉こそそのままお前に返したいな」


「うんうん。なんせルキウスさまはランスくんの光だからね!」


「ボクが、キミの光……? 逆じゃないの?」


「うーん、これは両方光! わたしも含めてみんな光!」


「明るくていいな!」


「ふふふ、そうだね」


 わいわいきゃっきゃ、と先ほどまでの雰囲気はどこへやら、にこやかに笑い合うわたしたち。うん、確かに。今のみんなでならハッピーエンドを掴める気がする。


「ランスくん」


「なんだ? ロザリーサン」


「改めて言うけど、わたしたちの目的はまだ見ぬハッピーエンドにたどり着くことなんだ。協力してくれる?」


「もちろん!」


 正面で微笑むランスくんに手の甲を差し出す。ランスくんがその手をわたしの上に重ねる。ルキウスさまもそっと静かに手を乗せた。


「じゃあ、今日から三人でがんばろ~~~~~!」


「おー!」


 こうして隠していたことを全部打ち明けて、ランスくんはわたしたちの仲間に正式に加入したのだった。

第24話も最後までお読みいただきありがとうございます!!!

面白かったらブクマや星などで応援していただけると嬉しいです!!!

コメントやリアクションもお待ちしています!!!




はい!!!


今バイトに遅刻しそうでめっちゃ急いでるので、あとがき特にないです!!!


内容もあとで書き直すかも!!!すみません!!!


強いていうなら三章は物語を深めていこうと思ってるので、毎週ちょっとずつ謎を提示したり解明したりするかも!!!


来週も見てくれると嬉しいな!!!!!

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