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Mission:ランスくんへの大説明大会

 思い出したことがある。


 ランスロット・スティーリアは、“氷の騎士”と呼ばれる無表情の青年だった。


 冷静沈着、冷酷無比。いつでもルキウスの傍に侍り、己が主君に仇なす敵を淡々と屠る。人間味を感じない、完全無欠の騎士の鑑。氷の魔剣に認められし、氷の騎士。


 彼はそんな人間だった。


 騎士たるもの常に至極冷静であれ。己が感情を表に出すな、と。幼い彼に誰かが言った。彼は素直に「はい」と応えた。彼の表情(仮面)から徐々に笑みが消えた。


 騎士たるもの主君に仇なす者の存命を赦すな。お前はよく務めを果たした、と。帰り血に染まった彼の肩に、誰かが手を置いた。彼は暗い目で「……はい」と応えた。彼の周囲には死体が散乱していた。


 いつまで幼児気分でいるつもりか。騎士たるもの弱みを見せるな。最上の強さを誇れ。けして膝を折るな。万事努力せよ。邁進せよ。累進せよ。それが次期王たるお方の剣の役目。私達はお前に期待しているのだから。けして、スティーリアの家名を汚すことの無きよう。お前にしかできぬこと。お前にしか果たせぬ使命。為せ。果たせ。


 さすればいずれ、聖剣もお前を選ぶだろう。


「はい」


 応えた彼の瞳は、どんな深淵よりも暗い色を称えていた。

 そんな彼の心の拠り所は、ルキウスだけだった。


「ランス」


 ルキウスが自身の名を口にするたび、呼吸が楽になっていった。


 ルキウスだけだ。ルキウスだけが己を対等な友人として見てくれる。接してくれる。肯定してくれる。騎士であることを、そう求められることを忘れさせてくれる。いつだって本当の自分を掬い上げて、照らし出してくれる。


 ……けれど、他でもない主だけが、騎士である自分を必要としていないだなんて、なんたる皮肉か。そして、その事実に救われているだなんて、なんで自分はこんなにも……と。ランスロットはさらに己を責め立てた。


 ルキウスは彼にとっての救済の光だった。ランスは自身が蛾に似た何かに思えて内心で自嘲した。その他の煩わしい人間や事象はすべて、暗闇から這い出ずる枷に見えた。


 ずっと怖くて、苦しかった。ルキウスに救われていることすら、鉛毒のようにランスロットの精神を蝕んだ。


 絶望の淵に佇むランスロットのもとに、もう一筋の光が差したのはそんな時だった。


 聖女――クリスティーナ・リュミエールに出会ったのだ。


 彼女はランスロットに騎士であることを強要しなかった。彼女は時間をかけてランスロットに寄り添い、その心を氷解させた。ランスロットは彼女にだけは引け目を感じることもなく、幼少の折のように心の底から笑うことができた。


 そして、いつしか氷の騎士は、春の乙女のようなクリスティーナに恋心を抱くようになったのだ。


 だが、クリスティーナが愛したのはルキウス(己が主君)だった。


 ランスロットは身を引いた。ルキウスには婚約者がいる。しかし、王家は側室を取ることもある。それも、相手は聖女だ。あの国王陛下ならば、聖女を迎え入れることをきっとよしとするだろう。それに、騎士が主の愛した女性(ひと)を奪っていいわけがない。なにより、ほかでもないルキウスに、己を救ってくれた光に、そんな非道を為せるわけがない。


 クリスティーナは聖女として、教会のシスターとして、自身の懺悔を受け止めてくれただけ。ただそれだけ。こんな感情を抱くのは間違っている。


 そうしてランスロットは自身の恋心に蓋をした。でも、それでもよかったのだ。大切な人たちが、己を救ってくれた光たちが幸せならば、それで。ルキウスとクリスティーナを守れるのならば、騎士としてこんなに嬉しいことはない、と、本気でそう思っていた。


 ――あの日、ロザリア・ローズガーデンがクリスティーナを殺害するまでは。





 ……というのが、さっきランスくんのこわい顔を見て思い出した前世の記憶。


 そして、現在。


「……」


「……」


「ひえぇ……」


 超絶激重な空気の中で朝ごはんを食しております。ほんとにこわい。


 わたしの隣に座ったルキウスさまは優雅な所作で黙々とスクランブルエッグを切り分けてるし、正面に座ったランスくんは不機嫌そうな顔でハムチーズトーストにかじりついている。お、めっちゃチーズ伸びてる……食べづらそう……かわいい……。


 ちなみにここはさっきまで寝ていた寝室の、隣の部屋。キッチン&ダイニングになっている。


なんでそんな部屋割り?? とは思ったが、ルキウスさまが「急遽作ったんだよ」と言ってたので、急遽作ったんだろう。付近にはトイレとかお風呂とかも完備されているので、すごく便利そうではある。


 え、わたし専用の部屋?? ……そこになければないですね。カムバック、プライベート空間。


「あむっ……んん! チーズが伸び~る~~~」


 こんがり狐色に焼けたハムチーズトーストにかぶりつけば、びよ~んとピザみたいにチーズが伸びた。おいしいし、めっちゃ楽しい。ハムもよくある薄切りのやつじゃなくて、嚙み応えのある五ミリ幅くらいのお高そうなやつだし、一口の満足感が凄まじすぎる。


 外はサクッと、中はふわっとなトーストに、厚みのあるハムが数枚。のびるとろとろチーズ。おいしい。全味蕾と脳細胞が歓喜に打ち震える音が聞こえる……。


 まずこのハムチーズトーストだけでもすごいのに、なんとそれにスクランブルエッグ、ベーコン&ソーセージ、レタスのサラダ、コンソメスープまでついているのだ。豪華。あまりにも豪華。そして行き届いた栄養バランス。天才。


 しかもこの品数の朝食を三人分、すべてランスくんが作ったというのだ。いや、齢8さいにして宮廷料理人に匹敵するレベルじゃございやせんか?? 一生懸命献立考えて、眠いのに早起きして、わたしたちのためにおいしい朝ごはん作ってくれて……?? え、一生愛した。


「……」


 なのに、スキルだとか、自身の最期だとか、そんな衝撃情報を朝っぱらからぶち込まれたのだ。そりゃ、困惑するし怒るのも当然というものである。今一緒に朝ごはんを食べてくれているだけ、わたしたちはランスくんの寛大さに感謝しなければならない。


 頭のいいランスくんのことだから、きっといろいろ察しもついてしまっているんだろうし。


「……ごちそうさま。おいしかったよ、ランス。ありがとう」


「そ。どーいたしまして」


「空気が重い……!」


 カトラリーを置いて礼を述べたルキウスさまに、ランスくんはついっと素っ気なく返事をした。サラッと揺れる水色ポニーテールを目に焼き付けつつ歯を食いしばったわたしは、ソーセージを一口嚙み切った。美味。


「はむっ。……ごちそうさま」


 ハムチーズトーストの最後の一欠片を口に押し込み、ランスくんがグイッと親指で唇を拭う。つまり、これであと食べ終わってないのはわたしだけ。


「え、二人ともはやっ。ちょっと待ってね。わたしもすぐ食べ終わるから!」


「ロザリー。そんなに慌てて食べると、喉に詰まらせるよ。よく嚙んで」


「そーだぞ、ロザリーサン。オレも別に急かしてるわけじゃねーから、全然ゆっくりで……」


「わかっ……!? げふっげふっ!! み、水……!!」


「ああもう!」


「ほら言わんこっちゃねー……」


 驚くほど早いフラグ回収をして噎せたわたしに、呆れ顔のルキウスさまが水を差しだし、身を乗り出したランスくんが口に端からこぼれた水をナフキンでぽんぽんと拭いてくれた。何という素晴らしき連携。


「はあ、はあ……じぬがどおもっだ……ありがどお……」


「うん。どういたしまして」


「どーいたしまして」


 息を切らせて鼻をすするわたしをちらりと見て、ルキウスさまとランスくんが目を合わせる。そして見つめ合うことコンマ数秒。


「ふふっ」


「あははっ!」


「え、なに??」


 タイミングを計ったように二人は同時にくすっと吹き出し、わたしは頭にはてなを掲げた。


「あはは。や、ロザリーサン見てると、なんか険吞な空気作ってんのが馬鹿らしくなってきてさ」


「わるくちか??」


「ううん。ちげーよ?」


「ふふふ。わかるよランス。ロザリーって間抜けすぎて、見てると張り詰めてたこっちの気までぬけちゃうよね」


「今度こそわるくちだな??」


「違うってば」


「ならルキウスさま笑うのやめれる??」


「うん、もちろ……、ふふふっ……!」


「笑ったね??」


「ははは」


 ちょっとおこな空気を出し始めたわたしをちらちら見ながら、なおも二人はくすくすと笑い続ける。ほんと失礼しちゃうぜよ。……まあ、さっきまでより朝ごはんがおいしい気がするから許すけど。


「あはは。まあ、ロザリーサンはそのままゆっくり朝ごはん食べててよ。無理に早食いされるより、味わってもらった方がオレとしても嬉しいし」


「なるほど確かに。あ、改めてめっちゃおいしい朝ごはんをありがとうございます。めっちゃおいしいです」


「ならよかった! ……じゃあさ、ルキウス。スキルとか、オレの最期とか、今朝言ってたことについて訊いてもいいか」


 途端、朗らかな表情から一転して真剣な目で、ランスくんがルキウスさまを射抜いた。直前までくすくすと振動していたルキウスさまもぴたっと笑うのをやめ、ランスくんの視線を真摯に受け止める。


 いやそれ止めれるんかい、と思いながら、わたしはスクランブルエッグを頬張った。


「うん。いつかはランスにも打ち明けようと思ってたことだから。嫌がらせで隠そうとしてたわけじゃないんだ。……でも、ごめん」


「いーよ。お前がそんなことする奴じゃないってことは、オレが一番よく知ってるし」


「ありがとう。なら、どこから話そうかな……。最初って言ったら……ああでもそれなら、まずはロザリーの正体についてかな」


「っ!?」


「ロザリーサンの、正体……?」


 たぶん蚊帳の外になるだろうし、お口にチャックしといた方がいいかな~と吞気にコンソメスープを啜っていたわたしは、突然自分の話題が振られてまた噎せそうになってしまった。あ、ルキウスさまが背中撫でてくれてる。優しい。


「それについては、ロザリー本人に説明してもらうよ」


「えっ、決定事項??」


「うん。よろしく」


 ルキウスさまとランスくんを交互に見つめて狼狽えるわたしを真っすぐ見据え、ランスくんが口を開く。自ずとわたしの視線もランスくんに固定される。


「じゃあその……、ロザリーサンは何者なんだ?」


「うーん、わたしもよくわかってないこともあるし、覚えてないことも多いんだけど……。まあ一個確実に言えることなら、わたし、この世界の人間じゃないんだよね~~~」


「えっ、魔界出身とかか??」


「いや違うよ??」


「えっ……?」


 困惑顔のランスくんが目を見開く。わたしがこてりと首を傾げる。支配者顔のルキウスさまが愉快そうに口角をあげる。


 かくして、ランスくんへの大説明大会は開始されたのだった。

第23話も最期までお読みいただきありがとうございます!!!

面白ければブクマや星などで応援していただけると嬉しいです!!!


リアクションやコメントもお待ちしております!!!全部私がにっこにこになりますので!!!いつもしてくださってる方ほんとにありがとう!!!!!




はい。


ランスくんは責任感が強くて自己肯定感が低いから、周りの期待に無理に全部応えようとするんですよ。


でも才能がありすぎるから、頑張ってそれすらも叶えてしまって、けれどそれでも自身を許容したり愛したりすることが上手くできなくて、どうして自分はこんななんだろうって苦しんでる。


そんな、何でもこなせるのにどこか不器用な子なんです。


才能に溢れているのに生きづらそうな子って、結構いますよね。ランスくんはその典型例です。


ほんと報われてほしい。生きてるだけでえらいから、まじで幸せになって……。いや、絶対幸せにするからね……ご覚悟召されよ。


とまあ、前半は暗くなってしまいましたが、後半はロザリーのおかげでシリアスが霧散しちゃいましたね。あわれシリアスまた逢う日まで。


よっ、さすがロザリー!みんなのオアシス!お間抜け大臣異世界代表!ラブ・フォー・エバーーーーー!……なんつって。


これ以上愛を囁くとルキウスさまの眼光が飛んできそうなので自重しときます!


ではまた来週!!!

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