オールバッドエンド系乙女ゲームだってばよ
肩まで伸びた、ブロンドの縦ロール。一直線に切りそろえられた前髪の下で輝く、ぱっちりとした薄桃色のおめめ。日光を浴びずに育ったことのわかる、透き通った白い肌。ドレスにも髪飾りにも真紅の薔薇をあしらった、フランス人形のような美少女。
ワールドイズマインで、カリスマ性の塊で、いつも凛としていたかっこいい悪役令嬢。
けれど、“とある事情”のせいで母を亡くし、父に愛されなかったから、似た境遇のヒロインがまわりに愛されていることが許せなかった、ある意味での被害者。
わたしが転生したロザリアちゃんは、そんな女の子だった。
「いやでも、わたしめっちゃかわいいな??」
「なに言ってるんですかお嬢様」
「あっ、……ス、ごめんあそばせ!」
しまった。声に出ていたようだ。わたしがかわいすぎるばっかりに。
巻きゴテでわたしのヘアセットをしてくれている、お付きの銀髪三つ編みメイド――シルヴィアが鏡越しに怪訝そうな顔をする。やめてください。美人の無表情は心に来ます。
てゆーか、この世界巻きゴテとかあるんだね!? 中世ヨーロッパっぽいのにね!? あと、ロザリアちゃんの縦ロールってそうやって作ってたんだね!? シルヴィアさんの技術力が美容師の方々レベルに神がかってらっしゃる……。
とかいう情報過多な世界観は置いておいて、まずは状況を整理しよう。
わたしは公爵令嬢、ロザリア・ローズガーデン(7)。ついさっき前世の記憶を取り戻した者だ。面構えが違う。
普通に今までロザリア・ローズガーデンとして生きてきた記憶はあるけど、どう考えても記憶内の言動が前世のわたしそのもの。
う~ん、わたしの自我が強すぎる……。
「てかやっぱ、わたしかわいいな??」
「お嬢様」
「ごめんあそばせ!!」
……ふう、やれやれだぜ。かわいいわたしは鏡を見るのも一苦労だ。なんせ、鏡の中の自分と目が合うたびに「かっンわいい”!!」と叫びだしそうになってしまうのだから!
まあ、それもそのはず。
今のわたしは悪役令嬢、ロザリア。前世一番ハマった乙女ゲームの、特に好きだったキャラなのだ。ん? なら、最推しは誰だったのかって? ばっか。女の子にランキングとかつけてんじゃねーよ(イケヴォ)。
……噓です。全然最推しとか作ります。ただこのゲームに関してはみんな好きすぎて誰かひとりを選べないんです……
まあそんなもろもろの御託は置いといて。問題は目下、わたしが転生してしまった乙女ゲームのストーリーについてだ。
驚かずに聞いてほしい。なんとこのゲーム……ハッピーエンドが存在しません。
え? って思うよね。事実です。
まず、この世界の舞台となる乙女ゲームのタイトルは『愛飢え乙女の幸福な結末』。
いや、幸福な結末って言ってんじゃんって思ったよね。これね、幸福な結末って書いて《メリーバッドエンディング》って読むんです。
もうびっくりだよね。乙女ゲームなのにハッピーエンドがないんだもんね。
一応ちゃんと恋愛はするし、乙女ゲームであることは確かなんだけど、オールバッドエンド系乙女ゲームを自称してるし、わたし的にはもうこれ鬱ゲーとか、パッケージ詐欺ゲーの類いなんじゃないかと思ってる。
ざっくりとしたストーリーの解説をすると、愛を知らずに育ったヒロインのクリスティーナが聖女に覚醒。
魔法学園に入学して、王子やら騎士やらに溺愛されて愛を知っていく……っていうよくあるマルチエンディングの乙女ゲームなんだけど、これ、一周目であるメインルートはもちろん、全ルートの全エンディングで死人が出ます。
いやまーね、悪役令嬢であるわたし――ロザリアちゃんが死んじゃうのはわかるんだよ。
いや、自分の未来に降りかかる危機って意味では全然納得したくないんだけど、まあ悪役令嬢が処刑やら追放やら悲惨な目にあうのはお約束なんでね。
けどこの話は、攻略対象も死にます。それはもうありとあらゆる方法で。
殺害に始まり、自害やら事故やら病死やら……死亡シーンのスチルを回収するたびに、ヒロインのクリスティーナちゃんの絶望顔が脳裏に刻み込まれて、本っ当に辛かった。
そして終いにはクリスティーナちゃんも死にます。
例えばメインルートでは、クリスティーナちゃんがもつ“とある能力”がロザリアちゃんに暴走させられた結果、メイン攻略対象である王子の目の前で衰弱死したりだとか。
ほんと、メリーバッドエンディングの名に恥じないメリバっぷりで、これでもかと涙腺を破壊してくるゲームでしたわよ。ほんと。
クリスティーナちゃんやロザリアちゃんの幸せな笑顔が見たくて、あるかもしれないハッピーエンドを探し続けていたわたしだから言える。
この世界に、真に幸福な結末は訪れない。
このまま原作通りに進めば、わたしは闇落ちして王子に殺され、クリスティーナちゃんはわたしのせいで息絶え、最終的に国家そのものが滅びるところまでいってしまう。
そして、わたしが闇落ちせずクリスティーナちゃんと仲良くできたとしても、問題を放置しておくだけでは、破滅の運命は絶対に変えられない。
それだけは絶対にいやだ。この世界のクリスティーナちゃんに、あんな絶望を味わわせてなるものか。
わたしはこの作品のタイトルロールが――“愛飢え乙女”の女の子たちが大好きなのだ。好きな子の悲しい顔を見たい奴がどこにいる。
原作ストーリーの開始まで残り8年。なら、今の私にできることは――
「――決めたわ、シルヴィア。わたし、今日から自分を鍛えぬくことにする。もちろん、このロザリアちゃんの体がゴリゴリのゴリマッチョになっちゃわない程度にね。筋肉は裏切らない!」
「はあ。それは別にいいのですが、お願いですから今日は大人しくしててくださいね」
「え、なんで?」
「まさか覚えてらっしゃらないんですか?」
「だからなにを?」
「なにって、今日はお嬢様と婚約者様――ルキウス王太子殿下の顔合わせの日でしょう?」
「あっ」
……そういえばわたし、第一王子の婚約者な悪役令嬢でした。
第二話も最後までお読みいただきありがとうございました!!
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それと、なんと!! ロザリアをはじめとする主要キャラたちのイラストを頂きました!!わーい!!
左から、ルキウスさま、クリスティーナちゃん、我らが主人公ロザリア!!
絵師様のペンネームは『mumemi』先生と、『花舞』先生です!!
mumemi先生がロザリア担当、花舞先生がクリスティーナちゃんとルキウスさま担当です!
先生方のTwitter(X)IDはこちら!!↓↓↓
mumemi先生→@___rezero
花舞先生→@kamaidaze
ほんっとうにありがとうございます!!めっちゃ嬉しいです!!(≧▽≦)
(ちなみに私、花見れもんのIDは@Hanami_Lemonです!進捗報告とか乗っけてます!こちらもよろしければぜひ!(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”)