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それはまるで、ギャルゲーのような

 夢を見ている、ような気がする。第三者視点で物事を俯瞰するような、そんな夢だ。


 わたしは王宮の真っ白なベッドに横たわっていて、そばにはルキウスさまと騎士の男の子、それとお父さまが立っていた。


 わたしとロザリアちゃんは手をつないだまま胎児のように眠っていて、みんなが心配そうにわたしたちの目覚めを待っていた。

 布団に覆われていたから傷の状態はわからないけれど、彼女のあどけない寝顔には苦痛の色がなかったから、きっと無事に治療がなされたんだと思う。


 みんなが心配そうにわたしたちの目覚めを待っていた。コンコン、と開けっぱなしだった入り口の扉がノックされたのはその時だった。


 夢だから、だろうか。わたしにはノックの音は聞こえなくて、扉を振り返ったみんなの反応で入り口の人影に気がついた。


 一人は国王陛下――シリウス・エストレーラさまだった。


 彼は女の子になったルキウスさまに一言二言声をかけ、それからお父さまに目を向けた。口の動きでしかわからないけれど、「ロドス」とファーストネームで呼びかけて、親し気な、柔和な笑みを浮かべていた。


 陛下はお父さまと会話をしたあと、少し体をずらして誰かの名前を呼んだ。


 その瞬間陛下の後ろから姿を現した女の子に、全員が目を見開いた。


 月の光を束ねたような、長い銀髪のハーフツイン。翡翠色の瞳は宝玉の輝きを放っていて、黒いシアーのマリアベールが神秘的な美しさを醸し出している。

 黒を基調とした独創的なシスター服も、短いスカートの内側から伸びるガーターベルトと黒いニーハイソックスも、前世で見た彼女の姿そのもので、ドクンと心臓が止まったような心地がした。


 見間違うわけがない。

 そこにいたのは聖女、クリスティーナ・リュミエール。


 『愛飢え乙女の幸福な結末メリーバッドエンディング』の――この世界のヒロインだった。


 クリスティーナちゃんが黒いパンプスを踏みしめて、みんなの前へと躍り出る。ニコニコと微笑を絶やさずにお辞儀をして、何事かを口にする。

 クリスティーナちゃんの言葉を受けて、みんなは困惑をあらわに顔を見合わせた。クリスティーナちゃんはニコニコと国王陛下を振り返り、陛下は目くばせをして彼女の言葉を引き継いだ。


 そこからはまるで、演劇の舞台を見ているようだった。


 音声こそ聞こえないものの、身振り手振りを用いて高らかに語るさまはさながら歴史に名の残る名演説のようで、さすがは国王陛下だと素直に感動した。

 みんなの表情から困惑が消えていき、まず初めにお父さまが名残惜しそうに部屋を後にした。次に騎士の少年が、最後にルキウスさまと陛下が部屋を出て、パタン、と扉が閉ざされた。


 部屋に残ったのは眠っているわたしとロザリアちゃん、それとクリスティーナちゃんだけ。


 クリスティーナちゃんは扉がしまった途端、ふっと息を吐いて笑顔を消し、ベッドサイドへ歩を進めた。クリスティーナちゃんがベッドで眠るわたしたちに片手をかざす。手のひらの先と右目に黄金の魔方陣が浮かび上がる。


「――」


 クリスティーナちゃんが何事かを呟いた瞬間、ばちっと目が合った。

 ベッドにいるわたしとではなく、今ここに浮かんでいるわたしと、である。


 首を左上に向けて部屋の隅を凝視するクリスティーナちゃん。もちろんこんな天井の端っこに何かあるわけはない。


 つまり、クリスティーナちゃんにはわたしが見えている。ならこれは、夢じゃない?


 気づいた途端に精神が体に引きずり込まれる感覚がして、わたしは薄く目を開いた。ぼやけた視界に映るのはこちらを見下ろす黒い聖女で、ああさっきまでのあれは幽体離脱ってやつか、と心中で一人ごちる。


「おはようございます、ロザリアさん。お救いできてよかったです!」


 クリスティーナちゃんはニコッと笑みを貼り付けて、わたしに言った。

 わたしもお礼をしようと口を開くが、喉の渇きからか声は出ない。


「あっ、申し遅れました! あたし、聖女見習いのクリスティーナですっ! ……って、お前は知ってるか」


「……?」


 だらんと腕を下ろして無表情になり、クリスティーナちゃんはキラキラさせていた目をすっと細めた。柔和な緑のたれ目に、諦観に似た影が宿る。


 あれ、クリスティーナちゃんって、こんな表情をする子だったっけ。

 お前、なんて二人称、使ってたっけ。


 そもそも、まだ7歳なのに、なんで。


 寝起きで働かない頭の中を、疑問符が埋め尽くしていく。


「……あっ、いっけな~い! あたしそろそろ帰んなきゃ、“聖女さま”に叱られちゃうのですっ! 今回はた・ま・た・ま! あたしが王宮に召還されてたから良かったですけど、もうあんまり無茶したらダメ! ですからねっ! ぷんぷん」


 クリスティーナちゃんはすぐに目に光を戻して表情を切り替え、腰に手を当ててぷりぷりと怒った。その表情は完璧に原作通りのかわいさなんだけど、台詞まわしとかに少し引っ掛かりを覚える。


 なんというか、昔やってたギャルゲーじみている、というか。……ううん、言語化が難しい。なんなんだこれ。


 頭をひねるわたしをよそに、コンコン、と扉がノックされた。「ロザリー? 目が覚めたの?」と、TSして若干高くなったルキウスさまの声がする。

 クリスティーナちゃんは扉を一瞬鋭くにらんで、湿度の高いため息を漏らした。


「……あたしは聖女見習いですので、おこまりの方はお救いいたしますけど、これ以上邪魔をするようなら容赦しませんから。だって、愛を集めるためにヒロインに……ってああ、これは言っちゃダメなんだったか」


 はは、と乾いた笑いを零し、クリスティーナちゃんがまた暗い瞳をする。


「ともかく、あたしはこれでおいとましますねっ! ではまたいずれ、学園で!」


 最後にニコッと微笑んで、クリスティーナちゃんがUターンした。「もう入っても大丈夫ですよ~っ!」と扉に向かって声をかけ、直後開いた扉から駆け込んでくるルキウスさまたちと入れ替わりに、パンプスを鳴らして歩いていく。


「ロザリー、体はもう平気? しんどくはない? ごめん。ボクが人払いなんて余計なことをしたから、ボクもランスも駆けつけられなくなって。なのにキミのお父上の侵入はゆるすなんて、ほんとうになんて謝ればいいか、」


「ぇ、ぁ、……と、」


「おいルキウス。起きたばっかのロザリアサンにそんな詰め寄るんじゃねーよ。病人だぞ? そっとしとけって、な?」


「だけどランス、」


「ロザリア……良かった、目が覚めて。私はまた家族を失うかと……、もう一人のロザリアはまだ目覚めないのか……、すまない、私が、私のせいで……、……すまない」


「だああ、アンタもか! そんな暗い顔してたら、治るもんも治んねーから! あとオレの負担も考え──」


『うぅ……うるさいわね……、アタクシの安眠を妨害するなんて、万死に値するわ……、むにゃ、』


「わぷっ! 寝起きに浮遊魔法で枕投げんじゃねーーー!」


 むにゃむにゃと、ロザリアちゃんが寝ぼけながら放った枕が顔面にクリーンヒットし、水色髪の騎士の少年――ランスくんは枕を握りしめて絶叫した。

 わたしはそんな彼らの様子にくすくすと吹き出してしまい、ルキウスさまが愛しそうにわたしに微笑みかけてくれる。


「……いいなぁ、」


 だから、また学園で、だなんて未来を知っているような口ぶりにも、扉の外から眩しいものを見るように零された呟きにも、わたしは終ぞ気づかなかった。


「ゴホッゴホッ……、シスター・リュミエール? どうかなされましたかな」


「……いえ、なんでもないですっ! 行きましょうか、国王陛下!」


 パタパタと二つ分の足跡が遠ざかっていく。

 室内にあたたかい笑い声が溢れかえる。


 完全に目が覚めたロザリアちゃんとランスくんの口論を聞きながら、ずっとこんな幸せが続けばいいな、とわたしは一人、天に願った。

第11話も最後までお読みいただきありがとうございます!!!

よかったらブクマや星などで応援していただけるとモチベになります!!!


これで一応第一章に結がつきました!!もうちょっとローズガーデン家の描写をしたら、ランスロットくんも深掘りしたいな~~~TSしたルキウスさまとのいちゃいちゃも書きたいな~~~

書きたいものがありすぎますね、がんばろう!!


次回もお楽しみに!!


あ、あと第4話に挿絵追加しましたので、よければご覧になってください!!今回もわたしが描きました!!ショタウスさま(ショタルキウスさま)です!!ニョタウスさまもそのうち描きたい!!!

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