鏡を見た。めっちゃかわいい悪役令嬢がいた。つまりわたしだった。
これは、まだわたしが前世を思い出す前の話。
「――わたしね、女の子が好きなんれすよ。オシャレでかわいくて、ふわふわで……」
シャンデリアが頭上できらめく、王家主催の夜会。おいしい料理が食べたくて、パーティーに向かう父の馬車にこっそり忍び込んだ日。
わたしは身にまとった薔薇色のドレスにぽろぽろとチョコブラウニーの欠片を零しながら、目の前の男の子に向かってそんなことを呟いた。
「へえ、そうなんだ。……ほっぺた、ついてるよ」
「えへへ、ありあとうございまし」
ラベンダー色の髪をした男の子は、愛おしそうに笑って頬についた欠片を取ってくれた。
さっきから頭がふわふわとしているせいだろうか。遠目に見たときは陰を感じた男の子の瞳が、今はなんだかキラキラと輝いているように見える。
「だからね、何が言いたいかって言うと――女の子大好き!!! れす」
「キミはほんとうに女の子が好きなんだね」
「はい!!! それはもう!!!」
「ふふ」
男の子はくすっと吹き出して、こう続けた。
「そっか。――なら、ボクは女の子になるよ」
◆
前世、わたしは乙女ゲームが苦手だった。
というより、乙女ゲームに出てくる攻略対象たちが苦手だった。
付き合ってもないのに、変に馴れ馴れしくしてきたり。逆にツンデレをこじらせすぎて、女の子にする対応とは思えない粗暴な言動をとったり……etc。数を挙げればきりがない。
あれはハマってはいけないダメ男図鑑かなんかか? と思うくらいには引っかかる場面が多々存在した。
それでもわたしが乙女ゲームをプレイし続けたのには、もちろん理由がある。
ヒロインと悪役令嬢がかわいいからだ。
大事なことなのでもう一度言おう。ヒロインと悪役令嬢がかわいいからだ。
リピートアフターミー。ヒロインと、悪役令嬢、イズ、ベリーキュート。文法がおかしいとか言ってはいけない。
はいまず、女の子はかわいい。これは世界の常識だろう。次に、恋する乙女はめっちゃめっちゃかわいい。はい、QED。もうこれに尽きる。
わたしは女の子が大大大大大好きなので、もちろんギャルゲーをプレイしていた時期もあった。けれど諸事情により離脱した。
なぜかって? ……聞いてくれたまえ。全っ然共感できないんだよぉ!!(泣)
歩み寄ろうと努力したけどダメだった。まず、主人公よ。お前は全方位の美少女に言い寄ってんじゃねーぞ、と。そこから始まりエトセトラエトセトラ。挙げ連ねればきりがなくなってしまう。
なんど主人公の言動にイラっとさせられたことか。ギャルゲーの女の子たちはかわいい。けど、きゅんと来るより先に、主人公へのイラァが勝ってしまうのだ。このままでは若年性更年期障害にでもなりかねない。
それにいくらかわいいとは言っても、ギャルゲーの女の子たちはやはり男性向けに作られた存在。いや、実際の女の子はそんなんじゃないって!! とツッコんでしまうこともしばしばあった。
わたしにギャルゲーは向いていない。そうだ、乙女ゲームをやろう。
乙女ゲームならヒロインの葛藤を一人称視点で見られる。共感してきゅんきゅんできる。悪役令嬢とのキャットファイトも見られる。友情和解エンドは大変よろしおす……。いつかだれか百合エンドを作ってくれ……。
――ああ、やっぱ乙女ゲームって最高(手のひらくるっくるの姿)。
そんなわけでわたしは乙女ゲームと、乙女ゲームの主要人物――“タイトルロール”たちにのめり込んでいったのだ――……
という、しょーもない記憶を取り戻したのがさっき。
そして今――
「いや、悪役令嬢になってもうとるやないかーい」
そこには鏡を見てツッコミを入れる悪役令嬢――ロザリア・ローズガーデン(7)の姿があった。
いやでも、わたしめっちゃかわいいな??
第一話、最後までお読みいただきありがとうございます!!まずは一週間、毎日投稿がんばろうと思います!
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