一騎当千
気配のする方へ移動すると、ぼんやりしていた感覚が透き通り、数を正確に把握出来るようになった。
その結果分かった事としては…あいつらマジ?って事。
たかが数匹のウサギのために、100匹くらいのゴブリンが来てる。
…いや、もしかしたら本命はウサギじゃなくて別の何かなのかもしれない。
例えば新しい狩場とか。
そうなると、さっき私が倒したのは偵察係とかそういう類のやつらかもね。
まあ理由がどうあれこの先には進ませないよ。
気配のする方へ走る私。
すぐそこまで近づくと、武装したゴブリンの群れが入り組んだ森の中を歩いている光景を見つける。
いきなり飛び出して近くに居たゴブリンの首に噛みつくと、全力で肉を引きちぎる。
体格では私の方がデカい。
所詮小人の群れだ、私の敵じゃないね。
「グギャギャギャ!!!ギーーー!!!」
「ギーー!ギーー!」
「ギギャアアアア!!!」
私の襲撃に、あちらこちらでゴブリンの絶叫が響く。
混乱状態に乗じて1匹、2匹とゴブリンを倒していく。
しかし、流石に私に襲われていることに全体が気付き始め、それぞれ武器を構えて戦闘態勢を取り始めた。
攻撃されそうになって少し後ろに下が―――いっっったぁぁぁぁ!!?
その時、体に何かが突き刺さったかのような痛みがいくつも走る。
痛みをこらえながら何事かと痛む部分を見てみると…なんと矢が体に突き刺さっていた。
ヤバイ!これは想定してなかった!
昔の人たちは野生動物を狩るとき弓矢を用いていたらしい。
原始的な文明を持つゴブリンが弓矢を使って狩りをすることくらい想定できたはずなのに…
いや、だからって逃げる訳にはいかない。
さっき矢を撃ってきたのは…あいつらか!
許さんぞゴブリン共!血祭りにあげてやる!!
ひたすら走って第二射を放とうとするゴブリンの腕に噛みつくと、そのまま体をひねって腕を食いちぎる。
腕を食われたゴブリンは絶叫を上げてその場でゴロゴロとのた打ち回る。
それを無視して悲惨なことになった仲間を見て唖然としている他の弓ゴブリンを攻撃する。
弓を持っているのは見たところさっき倒した奴含めて4匹。
残しておいたら面倒くさいから一気に倒す!
がむしゃらに暴れ周り、次々と弓ゴブリンを倒していく。
最大の脅威である弓ゴブリンの排除を早急に終わらせ、次の目標を定めようとしたその瞬間、嫌な予感が私の胸を騒がせる。
その感性に従って後ろに引くと、私がさっきまでいた場所に他のゴブリンよりも一回り体格のいいゴブリンが棍棒を振り下ろしながら現れた。
◆名前 無し
種族 ホブゴブリン
レベル 2/40
HP 213/213
MP 40/40
筋力 150
防御 173
精神 65
防魔 161
素早さ 175
スキル 『棒術Lv1』『気配感知Lv2』『隠密Lv1』『筋力強化Lv1』『防御強化Lv1』『素早さ強化Lv1』
スキルポイント32
◆加護『転生の恩恵・モンスター図鑑』発動
『ホブゴブリン
低難度亜人型モンスターの一種。ゴブリンが進化した個体であり、通常のゴブリンよりも体格がよく大柄。知能に差はないが、経験を積んだ個体が多いためその分頭は回る。進化前のゴブリンを率いている場合が多い』
なるほど…進化個体か。
ステータスも私に迫るものがある。
まだ負けてないとはいえ、これだけ他にモンスターが居る中でこいつの相手をするのはめんどくさい。
早急に倒して他のゴブリンの相手をできるようにしよう。
すぐに前へ突進し、鋭い爪を剝き出しにして襲い掛かる。
しかし、ホブゴブリンは私の攻撃をひらりと躱し、反撃をしてくる。
背中に鈍い痛みが走り、体が一瞬強張る。
流石は進化個体、そう簡単にはやられてくれないか。
でも、こちとら元人間様ぞ?
ゴブリン程度の知恵で私に勝てると思うなよ!
体を高速回転させながら、ほとんど飾りだった翼を広げる。
急に体積が大きくなったことに驚いたホブゴブリンは私の攻撃を避けることが出来ず、翼が直撃して倒れ込む。
その隙をついてマウントを取ると、容赦なくその首の肉を噛み千切ってやった。
でもそれだけでは終わらない。
HPがゼロにならないとこの世界のモンスターは死なない以上、確実に止めを刺さないと、思わぬ反撃を食らうかもしれない。
そんな事にならないよう、もう一度首に噛みついてさらに肉を食いちぎる。
そうすることで今度こそHPがゼロになり、ホブゴブリンは死んだ。
《レベルが上がりました》
ホブゴブリンを倒したことで、経験値がうまうま。
レベルが上がり、気持ち程度に体が軽くなった。
それに、周りの動きがはっきりとわかる。
動きの一つ一つの合間に考える余裕が生まれた。
思考加速のスキルレベルが上がったかな?
それは嬉しい誤算だ、活用しながらこのゴブリンたちと戦っていこう。
どのゴブリンが、どんな動きをしているかしっかり確認しつつ、今狩れそうなゴブリンを食い殺していく。
ホブゴブリンを倒してからというもの、ゴブリンの動きに異常が見え始めた。
リーダーを失って、どうすればいいか分からなくなっているのか、滅茶苦茶な事をしだす奴が現れたんだ。
そう言うやつで、近くにいるのを優先的に狙いながら数を減らしていく。
塵も積もればなんとやら、100匹以上居たであろうゴブリンの数はみるみる減っていき、あと20匹くらい。
…まあ、少なくとも30匹は逃げ出してるし、半分近くしか倒せてないんだけどね?
残りの20匹を決して逃がさぬように倒し、全員物言わぬ屍に変えてやった。
…今更だけど、やっぱりキマイラって強いね。
こういう系の異世界物って大体イカレスキルで何とかするか、策と頭脳を駆使して戦うものだと思うけど…私純粋なパワーで押し勝っちゃったよ。
だって、爪でひっかくか噛みつくか体当たりくらいしかしてない。
漫画とかだとすごい高火力の魔法で一掃したり、チートスキルの暴力で何とかしてるイメージ。
でも私はフィジカル!
純粋な暴力こそ正義!
やはり暴力!暴力はすべてを解決する…!
とまあふざけるのはこれくらいにして…すごい事にダメージは最初の矢とホブゴブリンの一撃以外食らってない。
矢は自然に抜けてたし、ホブゴブリンの攻撃に関しては攻撃されたところが痛むくらい。
その程度なら、もう加護のおかげできれいさっぱり元通り。
実質無傷の勝利だね。
…あー、でも貯蓄のストックがめっちゃ減ってる。
もうすぐ空だねこれ。
仕方ない。
気は進まないけど、これだけ食料があれば食べない理由なんてない。
むしろ私が食べて減らさないと、他の肉食モンスターが怖いし。
あまり食欲はわかないけど、自分が倒したゴブリンの肉を貪る。
肉の味は固いし臭いし美味しくない。
それに、戦ってる時も思ってたけど、どいつもこいつもガリガリに痩せてるから骨と皮しかないようなゴブリンが多い。
食べるところがわずかな筋肉と臭くて食えたものじゃない内臓だけって悲しいなぁ。
でも、ホブゴブリンはまだちょっと肉付きがよかったから食べごたえはあったね。
美味しくはないけど。
とりあえずご飯を食べつつ、これまでも努力の結果を見てみますか?
◆名前 無し
種族 キマイラキッズ
レベル 12/30
HP 381/381
MP 130130
筋力 278
防御 343
精神 191
防魔 314
素早さ 281
スキル 『鑑定』『成長補正』『爪Lv4』『牙Lv3』『咆哮Lv2』『気配感知Lv2』『隠密Lv1』『筋力強化Lv2』『防御強化Lv2』『素早さ強化Lv2』『思考加速Lv2』『貯蓄Lv2』『火耐性Lv1』『状態異常耐性Lv1』
加護 『癒しの加護』『転生の恩恵』
スキルポイント12
数日で見違えるほど強くなったね。
これが少し前まで野生動物相手にしか戦えないような奴の成長なの?
やっぱり成長補正のスキルは転生特典のチートスキルだったか。
普通に考えて異常だよね?
前世で考えるなら、成績最下位のお馬鹿がたった1週間で最上位並みに頭がよくなるような勢いの成長だよ?
1週間くらいでステータスが十倍近く伸びるって…ヤバイんじゃないの?え?
これだけ強くなって、スキルポイントに余裕があるなら何か新しいスキルが欲しい。
今までは肉弾戦でどうにかしてたけど、それ以外でも戦えるスキルが欲しい。
それこそ今は雑魚になったフォレストスライムみたいな、直接攻撃したらやばいタイプのモンスターとか、今はまだであったことないけど空を飛ぶモンスターだっているはず。
そう言う相手にも勝てるスキルが欲しいよね。
というわけでスキル一覧を確認するわけなんですが…実は少し前から目星をつけていたというか、気になってたスキルがあるんです。
それが、魔法とブレス。
スキルポイント10で取れる『炎の吐息』というスキル。
これはその名の通り口から炎を吐き出せるスキルで、よくあるドラゴンのブレスが使えるようになる。
それが出来るなら、私は強力な遠距離攻撃手段を手にすることになる。
でも少し待ってほしい。
私はこのスキル、実はとらない方がいいんじゃないかって考えてる。
私には何故か火耐性のスキルがある。
この周囲には火なんてないし、森の中で火をぶっ放してくるモンスターが居るとも思えない。
例えばドラゴン。
でも、たかがキマイラがドラゴンに喧嘩を売るとも、ドラゴンと喧嘩するために火耐性を獲得したとも思えない。
じゃあなぜキマイラキッズは火耐性を持っているのか?
私が思うに、キマイラキッズは進化して成体になったら炎の吐息を獲得するんじゃないかって考えてる。
キマイラが口から火を噴いて攻撃してくる姿は容易に想像できる。
でも生き物が火を扱うなんて相当難しい。故の火耐性。
もし将来的に何もしなくても炎の吐息が手に入るなら…私はスキルを取得しない方がいいじゃないかって思う。
じゃあ魔法を取るのかと言われると…これもまた悩ましい。
私のステータスの低い部分と言えば、精神の項目。
これは魔法攻撃力を表していると言っても過言じゃない。
対して物理攻撃力を表す筋力のステータスはかなり高い。
80以上の差があるからね。
仮に私が魔法を使うとして…それなら物理で殴った方がよくね?ってなるのは明白。
もちろん遠距離攻撃手段が必要になるかもしれない以上、あった方がいいのは間違いない。
でも、普段攻撃に使わない魔法主体で戦わないといけないってなった時、果たして私に勝ち目はあるのか?
そんな相手と戦うくらいなら逃げた方がいいんじゃないか?ってね?
というわけで、スキルポイントを消費して魔法を手に入れるってもの、キマイラへの進化まで我慢して炎の吐息を手に入れた方がいいんじゃなの?
そんな理由から魔法の取得を悩んでる。
…まっ、こうやって悩んで答えが出ない事は後回しにしよう。
今のところ大丈夫だけど…逃げたゴブリンがウサギの方へ行っていないとも、これから行かないとも限らないし帰りますか。
無数のゴブリンの食べられそうな部位だけを完食した私は、気持ち駆け足で巣穴へと戻った。