進化
朝です。
巣穴から出てみると、子ウサギが興味津々な様子で蛇の亡骸に群がっている。
でも、食べてる様子はないね。
ウサギだからちゃんと草食なんだね。
怖いもの知らずな子ウサギたちを押しのけると、私はとりあえず蛇の亡骸を咥えて運ぶ。
いつまでもここに放置してると、血の匂いにつられて肉食のモンスターが来るかもしれないからね。
巣穴から十分に距離を置いた所まで蛇を運ぶと、そこで朝食にする。
今更だけど、私は生き物系の動画をよく見ていて、昆虫食やゲテモノ食いに抵抗がない。
あと、今私がキマイラだって事が関係しているのか、こういう生肉を前にしても食欲がわいてくるんだ。
病は気からとはよく言うけど、逆に言えば体が病んでいたら気分も悪くなるって事。
体と心は密接にかかわってるって事だね。
まあ、そんなどうでもいい事は置いておくとして…蛇は鶏肉みたいな味がするらしい。
カエルが鶏肉の味ってのは有名だけど、蛇もそうだって聞いたことがある。
…でも、昨日この蛇を倒す時に少し食べた感じ、そうは思えなかった。
あの時は意識がはっきりしてたとは言えないし、確かなことは分からないけど…今食べればはっきりする。
意を決してその肉にかぶりつくと…口全体に生臭い血の匂いが広がった。
うっ!?
ま、不味すぎる!!
こんなの食べのもじゃないでしょ……そう言えばあの動画の人の火であぶってたっけ?
生の肉って、基本何かしらの処理をしないと生臭いもん。
せめて香りづけに使えそうな草でもあればいいんだけどなぁ。
でも、そう言うのって大抵毒で人間はその手の毒が利きづらいから食べられてた節はある。
チョコレートなんかがいい例。
アレは人間は美味しい美味しいって言うけど、猫や犬に誤って食べさせようものなら中毒を起こす。
大体、臭み消しに使われるコショウやトウガラシは、虫に食べられない為の毒みたいなものだし。
ともかく安全かどうか分かるまではそう言う変な草は食わない方がいい。
そもそも消化できるかわかんないし。
蛇の不味さは何とか我慢してお腹が満たされるまで貪っていると…気が付けば骨とカスみたいな肉しか残っていない事に気が付いた。
え?私こんなに食べたの?
まだお腹いっぱいになってないし、なんだったら物理的にこの量はお腹に入らないと思うけど…ちょっとステータスを見てみようか。
◆名前 無し
種族 キマイラベビー
レベル 9/10
HP 105/105
MP 29/29
筋力 81
防御 86
精神 29
防魔 79
素早さ 68
スキル 『鑑定』『成長補正』『爪Lv1』『気配感知Lv1』『隠密Lv1』『筋力強化Lv1』『防御強化Lv1』『思考加速Lv1』『貯蓄Lv1』
加護 『癒しの加護』『転生の恩恵』
スキルポイント2
そう言えば昨日レベルが上がってたね。
後で素早さ強化のスキルを取ろう。
んで、この貯蓄とか言うスキルだけど…何これ?
『貯蓄
食べ物が持つ栄養価やエネルギーを保存する。主にモンスターが取得するスキルであり、人間は滅多に持たない。キャパシティ230/1000』
ほ~ん?
つまりこのスキルがあれば、食べられるときに食べられるだけ食べておけばいいと。
キャパシティ…要は食料を栄養価とエネルギーに変えて、必要な時に必要なだけ消費するストックをスキルで用意できる。
問題はこのストックがどのくらいで消費されるかだけど…これも鑑定できたりする?
『残りエネルギー:72時間後に枯渇』
72時間?てことはあと三日は持つわけだ。
えーっと…つまり1時間で約3エネルギー…1エネルギー約20分ほどって感じの計算でいいかな?
じゃあキャパ限界まで食べたらおおよそ2週間は呑まず食わずでも持つと。
なかなか嬉しいスキルだね。
…とりあえず残りの骨とカス肉は放置でいいや。
その辺のスカベンジャーが餌にしてくれてどうぞ。
さーって、一旦体を洗って今日も狩りに出ますか。
なんたってあと1レベルで進化できるはずだからね。
意気揚々と水辺へ繰り出した私は、体に着いた血を洗い落とし、気配感知を使いながら手ごろなモンスターを探す。
すると、良さげなモンスターを発見した。
◆
名前 無し
種族 ツリーディア―
レベル 8/10
HP 120/120
MP 10/10
筋力 72
防御 82
精神 31
防魔 69
素早さ 55
スキル 『共生』
スキルポイント8
◆加護『転生の恩恵・モンスター図鑑』発動
『ツリーディア―
低難度鹿型モンスターの一種。体内に植物と酷似した器官を持ち、食した植物の特徴や果実を体に生成することが可能。よく管理された牧場で育ったツリーディア―が実らせる果実は貴族御用達の絶品』
鹿型モンスターというより、こいつ植物モンスターだろって言いたいけど…一応鹿型モンスターらしい。
そして食べた植物の果実を実らせるらしいけど…どっからどう見ても寄生樹の実なんですがそれは。
大丈夫?寄生されてない?
もしかすると、こいつらは共生関係なのかもしれない。
『共生』ってスキルもあるし。
…だとしても凶悪すぎるけどね?
こいつを使って生息域を広げようとしてるかもしれないしさ。
まあ、何はともあれこいつを食べたって寄生される事は無いはず。
ダメそうなら食わなきゃいいし。
んじゃ、私の進化のための糧になってくれ!
勢いよく飛び出してまずは足に噛みつく。
木の枝を噛んでいるように硬い足を何とか噛み砕いて破壊すると、ツリーディア―は足が思うように動かず転倒してしまう。
その隙を見逃さず、喉元に噛みつくと肉を食べてしまわないように注意しながら首を噛み千切った。
寄生樹の種があったら最悪だからね。
ツリーディア―は何もできず体を痙攣させ…そして息を引き取った。
…あと、しっかり体の中に沢山の寄生樹の種が入ってた。
あのファッキン植物マジで…
《レベルが上がりました》
《レベル上限への到達を確認。進化してください》
おおっ!
ついに来ました進化!
ここから私の無双ゲーが始まるんです!
どうせ複数進化選択肢があるんでしょう?
家に帰ったらしっかり確認しますよ。
この手の異世界物は、進化するときに寝てしまうのが定番。
だからいったん家に帰って安全に進化しよう。
種だらけのツリーディア―は放置して巣穴へ帰る。
そして、巣穴の奥まで潜り込むと、そこで私は進化先を確認する。
《キマイラキッズに進化可能です。進化しますか?》
ん?特殊進化は?
複数選択肢は?
…え?無いパティーン?
う、嘘だぁー!
私のチートハッピー無双異世界物語は?
希少種に進化して最強は?
…え?マジでない感じ?
冗談とかおふざけとかそう言うの抜きにしてさ…マジでないの?
……ないのかよ!!
うわぁー!浮かれてた自分が馬鹿らしい。
しかもなに?キマイラキッズって。
赤ちゃんが子供になっただけじゃん。
ダメじゃん!
…はあ、仕方ない。
ダメならダメ、割り切っていこう。
とりあえず進化します、進化!
《キマイラベビーからキマイラキッズへ進化を開始します》
ふぅ…後は待ってたら勝手に…あぁ…コレ凄い…
眠気が…じん、じょう…じゃ…
な……