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初戦闘

低木の隙間から現れた前脚。

もう1本の前脚もでてくると、続いて真っ黒な顔が出てきた。

その顔は可愛らしさなど欠片もない野犬…いや、野生の狼のものだった。


「ガルルル…」


こちらを見つめて唸る狼。

狼は縄張り意識が強い生き物って聞いたことがある。

縄張り争いは狼の主要な死因の1つらしいし、もしかしたらここは狼の縄張りなのかも?

まあそれだけなら……いや、それが一番の問題なんだけどさ?

ここがもし狼の縄張りならかなり困った事になる。

一匹狼なんて言葉があるように、狼は基本群れで活動する生き物。

群れ…と言うよりは夫婦とその子供くらいの家族くらいなんだけど…要は複数の狼に襲われるかもしれないって事だ。

生まれたばかりの幼気なキマイラベビーにはあまりにも重荷だ。


……しかしこちとらキマイラぞ?

ゲームだと中盤の終わりから終盤の始めくらいに戦うモンスターぞ?

たかが犬もどきに遅れは取るまい!

行くぞ!『鑑定』!!


名前 無し

種族 ブラックウルフ

レベル 9/30


HP 120/120

MP 30/30

筋力 155

防御 96

精神 35

防魔 65

素早さ 124


スキル 『牙Lv2』『咆哮Lv2』『嗅覚強化Lv5』『剛毛Lv3』

スキルポイント29


◆加護『転生の恩恵・モンスター図鑑』発動


『ブラックウルフ

 低難度狼型モンスターの1種。鋭い牙を持ち、夜闇に溶け込む光を吸収する体毛を持っている。しかし暗視は持たず、夜間の狩りに置いては嗅覚を頼りとする。ある程度場数を踏んだ冒険者であれば問題ないが、一般人レベルでは対処が困難』


……強くない?

え?レベル9?

しかもステータスにいくつか3桁台の項目があるし…わ、私なんて高くとも30だよ?

しかも加護の効果で見れた説明を見る限り、これで低難度?

私一般人でもなんとかなるクソ雑魚確定では?


「ガルルルルルル……」


おうおう唸り声が低く強くなったぞぉ…

お、落ち着け狼さんや。

わわわ、私は悪いキマイラじゃないぜ?

愛らしい幼気なキマイラベビーだぜ?


「ワォーーーンッ!!!」


な、なになに!?

いきなり吠えるんじゃないよ!

一体何が……ってまさか!?


嫌な予感がして後退ると、その直後低木の影から3匹のブラックウルフが現れた。

や、やっぱり群れ単位で行動してたかぁ…

餌じゃないよね?

狩りの練習とかだよね?

どちらにせよ最終的に腹の中で可愛がられる事に間違いはないんだけどさ!

転生して最初の戦闘にしちゃ難易度鬼すぎない!?

私ハードモード設定した覚えは無いよ!?

と、とにかく……逃げるっきゃない!!


ブラックウルフに背を向けて走り出す。

格上4匹相手に勝てるわけ無い。

どうせあとから出てきた3匹にも速度は負けてるだろうけどさ、とにかく走るしか無い。

周りの様子なんか全く考えず走り回っていると、足音も狼の鳴き声も聞こえないことに気が付いた。

振り返るとブラックウルフの影は全くなく、耳を澄ましてもゆっくりと近づいて来てる感じでもない。

見逃された?


じょ、状況はよくわかんないけど逃げ切れたっぽい。

でも低難度モンスターでアレだとなぁ…キマイラベビーってそれより弱かったりする?

モンスター図鑑さ〜ん。

キマイラベビーの情報くださ〜い。


◆加護『転生の恩恵・モンスター図鑑』発動

『キマイラベビー

 低難度モンスターの1種。様々な種類の生物の身体的特徴を持つモンスターで、親とほぼ同じ身体的特徴を受け継いで生まれたばかり幼体。一般人でも対処可能なほど弱いが放置すると手の打ちようがない脅威に成長する。ネズミや小鳥などの小動物を狩ったり、木の実や新芽を食べる雑食性』


私が願ったら本当に情報をくれた。

にしても…ネズミや小鳥のような小動物を狩るだぁ…?

クソ雑魚じゃないか!!

しかも木の実とか新芽ってモロに害獣だしさ。

…で、でも成長すれば強くなるのは確定。

きっとキマイラは強いはず。

モンスター図鑑さ〜ん、キマイラの情報ちょ〜だい。


◆情報不足です。『キマイラ』に遭遇、鑑定するか自身が『キマイラ』に進化してください。


ちぇっ!使えね。

流石に全てモンスターの情報をくれる訳じゃないか。

1回遭遇して鑑定しないとモンスター図鑑は使えないっぽいね。

はぁ…さっき冗談でハードモードとか言ったけどマジでハードかも。

生まれたばかりなのに全力で走ったからかお腹すいたなぁ…

木の実木の実……おっ?あるじゃん!


あたりを見渡すと、近くの木に沢山の美味しそうな木の実が成っているのを見つけた。

アレを食べて何とか飢えを……待てよ?


…鳥や野生動物は賢い。

ましてやあんな分かりやすく食べてくださいって言っているような木の実。

食べられないはずが無い。

なのにあんなに残ってる。

……怪しいな?

『鑑定』あの木の実はなぁに?


植物 寄生樹

スキル 『体内寄生』『種子形成』


◆加護『転生の恩恵・植物図鑑』発動

『寄生樹

 世界各地に分布する植物。とても甘く、美味な実をつけるが種を誤って飲み込むと消化管内で発芽、寄生される。一定以上の強さを持つ者には寄生できないが、低難度モンスター程度であれば数日で体内の栄養を絞り尽くし、立派な木へと成長する』


そ、そりゃあ全く食べられないわけだ…

説明を見る限り甘いっぽいけど、種を飲み込もうモノなら一発アウト。

転生して数日でお陀仏ですありがとうございました。

…でも逆に言えば種を飲み込まなければ良いわけだ?

とりあえず1個取って味見してみよう。


鋭い爪を幹に突き立ててよじ登り、実を1つ咥えて枝から引きちぎる。

木の上から降りてとりあえず一口齧ってみた。

甘い。凄く甘い。

味は柿みたいな感じで、シャキシャキしてるけど完熟した柿くらい甘い。

…でもなんかツブツブしてるね。


「ペッ!!」


やばい気がして吐き出してみると、グチャグチャになった木の実の中に大量の黒いツブツブしたものが…

そして齧った断面を見てみると……もうね?キウイみたいだった。

実がついてるのは外側だけ。

1センチ程度で、あとは種だらけ。

これ駄目なやつだ。

種を食べないようにすればいいやとかそんな次元じゃない。

器用な食べ方が出来ない今の私じゃ食べたら死だ。

とりあえずこの木の実は諦めよう。


寄生樹の実を諦めてゆっくりと歩き出すと小さな足音を私の耳が捉える。

警戒しながら慎重に足音の方へ行くと…そこには可愛らしい茶毛の野ウサギちゃんが居た。


名前 無し

種族 チャイロウサギ

レベル 1/10


HP30/30

MP5/5

筋力 10

防御 10

精神 3

防魔 3

素早さ 15


スキル 無し


◆加護『転生の恩恵・モンスター図鑑』発動

『チャイロウサギ

 野生動物の1種。何かの間違いで進化した場合モンスターになるが、それまでは野生動物。農作物を食い荒らす害獣として駆除対象となっている』


獲物発見。

強さは言わずもがな、素早さも私の方が速い。

初戦闘はコイツで決まりだね。

いざ!お命頂戴!!


素早さで勝っている以上逃げられる心配はない。

全く隠れることをせず走り出すと、危機を察知したチャイロウサギも逃げ出した。

でも私のほうが速い。

何とか逃げようとするけど逃げ切れず、私に捕まってしまったチャイロウサギ。

いざ捕まえてみると凄く可愛くて罪悪感が凄いけど…これも自然の摂理。

許してくれ、チャイロウサギ。


人間の心を殺し、一匹の猛獣としてその首元に噛み付いた。


「キュウッ!!」


愛らしい悲鳴が私の罪悪感を更に刺激するが後戻りは出来ない。

そのまま顎に力を入れて皮を貫き、肉に食い込む歯。

最初は首に噛みつけば殺せるだろうと思っていたけどそんな甘い話はなく。

何度も噛みつき酷い状態になった首筋を見て……食欲が湧いた。

やがて目がガラス玉のようになったチャイロウサギを見て生き物が肉に変わった事を確認すると、無心でその肉を貪り食った。


初戦闘はブラックウルフから逃げ、チャイロウサギを仕留める。

食物連鎖を体感するいい経験と…何とも言えないモヤモヤした感覚が収穫と言える。

チャイロウサギを殺したことに対する罪悪感は、噛みついている時ほどではなくそれほど苦に感じて居ない。

それを私はキマイラに転生したからだと決めつけ、血の臭いにブラックウルフが集まってくる前に食べられるだけ食べて逃げ出した。

…まるで、罪から逃げているように。

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