激闘・ゴブリンキング
「オォォウ!!」
ゴブリンキングが大声を出して剣を振り上げる。
その速度はゴウッ!!という大きな音と風が発生するほどだ。
私はそれを避けることが出来ず、胴で剣を受ける。
今までに感じたことのない凄まじい衝撃が私の胴を襲い、2メートルほど吹き飛ぶ。
ゴブリンキングの剣はかなり使い古され刃が潰れているため、斬られたというより殴られたイメージに近い。
実際、痛みも殴られた時の痛みを感じてるし。
でもまあ動けない程じゃない。
HPはごっそり1000以上削られてるけど、それほど苦しいわけじゃない。
私が異世界生活で痛みに慣れた証拠なのか、そもそもキマイラは種族的に痛みを感じにくいのか。
理由はどうあれ、私はすぐさま反撃に出る。
もちろん無策に突進するわけじゃない。
私の予想だと、ゴブリンキングは人間並みの知能があるはず。
だから無策に突っ込んだところで、ボコボコにされるのは目に見えてる。
実際、そうやって私は安定した狩りをしてきたわけなのだから。
「グ…!」
私がマジックローを飛ばすと、ゴブリンキングはそれを軽やかに躱して見せた。
その間も私への警戒は怠っておらず、隙を作るには至らない。
まあ、たかがマジックアローごときで隙を作れるなんて思ってない。
だからこっちが本命。
マジックアローを見せてそっちに少しでも注意を向かせた間に溜めた魔力が、灼熱の炎へと変わる。
威力を調節し、火力自体は下がるものの避けにくいように拡散するようにした炎ブレス。
お前ならどう対応する?ゴブリンキング。
「グウ…」
ゴブリンキングは忌々しそうにそう呟き、後ろに跳んで家屋の陰に隠れる。
生き物は、本来火を恐れるもの。
人間だってそうなのだから、当然ゴブリンもだ。
本当は当たってもゴブリンキングの防御力をもってすれば大したことがない炎ブレスも、本能が避けろと叫ぶせいで逃げ腰になる。
そこに、強い意志で火を恐れない私が現れればどうなるか。
「ガアアアアッ!!!」
炎から逃げていたこと、そして拡散した炎が煙幕となり私が見えていなかったこと。
その要因によってゴブリンキングは突如炎の中から現れた私に反応できず、鋭い爪から繰り出される強烈な一撃を食らう。
ただの金属の塊のようなゴブリンキングの大剣と違い、こちらの切れ味は十分。
硬い皮膚を容易く切り裂き、筋肉の塊をまるで豆腐のように断つ。
鑑定を使いながら戦っているからわかるけど、今の一撃だけでHPが5000近く削れた。
ゴブリンキングのHPはおよそ2万。
つまり、一撃で体力の四分の一を失ったことになる。
「グオオオ…」
ゴブリンキングは私にバッサリとやられた部分を抑えながらその場に膝をつく。
これは勝負が決したかと思ったけれど、ゴブリンキングの目から闘志は消えていない。
恐らくは何か戦える策があると見た。
一体何をしてくるのか…ゴブリンキングはステータスだけでなくスキルが強い。
特に戦闘技術と魔法……魔法?
「グググガアアアアア!!!」
雄叫びを上げるゴブリンキング。
その体からは激しく魔力が溢れ出し、魔法陣が足元に現れる。
そして、凄まじい強さの風が吹き始めた。
このままにしておいたら不味いと感じた私は即座にゴブリンキングの首に噛みつこうとするも、ギリギリで躱され首ではなく肩に歯が食い込む。
それでも構わないと全力で顎に力を入れ、ゴブリンキングの肩を噛み砕く。
その勢いのまま左腕を噛みちぎるも…そのタイミングで魔法が発動。
強風に殴りつけられた私は、まるでサッカーボールのように飛んでゆく。
地上100メートルほどまで一気に打ち上げられ落下してくるが、上手く『飛翔』のスキルを使って着地する。
着地した場所には大量のゴブリンがおり、戦闘員と非戦闘員の両方が私を見つめている。
『ガァァァァアアアアアア!!!!』
とりあえず全力で咆哮を使うと、数百…いや、1000以上いたゴブリンが皆倒れる。
《レベルが上がりました》
おお?別に敵を倒したつもりは……待てよ?これ、咆哮でゴブリンを倒せてる?
試しに鑑定を使ってみると、倒れているゴブリンは全て死体。
私が吠えただけで大量のゴブリンが死んだ。
そう考えると、咆哮のポテンシャルは凄いね。
雑魚処理の時はバンバン咆哮を使って一掃し、同格相手には圧倒的なステータスを持って相手をする。
格上?そんなの逃げるに決まってるでしょ、何のための脚と翼だよ。
とまあ、咆哮の強さを再認識したところで、わざわざこっちに出向いてくれたゴブリンキングさんの相手をしますか。
さてさて…咆哮によって一掃されたゴブリン達を見てその王であるゴブリンキングはどんな反応をしてくれるのかな?
「ググ……ァァァアアアアアア!!!!」
おおー!怒ってる怒ってる。
よく読んでたラノベとかだと大抵仲間を何だと思ってるんだって感じのゴブリンキングだけど、この王は慈悲深いらしい。
仲間が虐殺されたのを目の当たりにしてそれはもうカンカンにお怒りだ。
でも、私相手に怒りで我を忘れるのはよろしくないね。
「ガッ!?」
攻撃される前に、私から攻撃する。
体当たりでゴブリンキングを突き飛ばすと、倒れたゴブリンキングの上にマウントポジションを取る。
そして、口に魔力を集め、ブレスを構える。
仮に戦闘技術と魔法を存分に使われた場合、多分だけど私は勝てない。
戦闘が始まってもうすぐ数分経過するけど、これ以上続ければ不利になるのはこっちだ。
今何とか有利な状況に居るうちにコイツを倒しきる。
さあ、炎に抱かれて死ね!
「ガァァァアアアアアア!!!」
口から超高温の炎を吐き出し、ゴブリンキングの体を焼き尽くす。
体を焼かれているゴブリンキングの上に私は乗っているから、私も焼けていくけど…耐性の関係で私へのダメージはそこまで高くない。
フサフサの毛並みがチリチリになるのはいただけないけど…それくらいは許容しよう。
しばらくは毛繕いをするたびに舌がチクチクしそうだね。
炎でじっくり焼き続け、流石に吐き続けるのが困難になった頃……ゴブリンキングはまだ生きていた。
「…ゥ……アア」
なんてしぶといやつだ。
でもまあここまでやれば、あとは適当に攻撃するだけ。
さあ、終わりにしようか。
前脚を振り上げ、ゴブリンキングにトドメを刺そうとしたその時―――私の体は腹の下で何かが爆発した事で一気に空高くまで打ち上げられた。
……はあ?
な、何が起こった!?
めっちゃくちゃ痛いし、HPがごっそり削られてるし何事!?
爆発したように感じたけど、特に爆炎は見えなかったし…ぶはぁ!?
な、なんだなんだぁ!?
今の攻撃は一体……ってまた来た!!
私の体は見えない何かで攻撃され、ゴリゴリHPが削られていく。
何が起こっているのか全く理解できない。
何度も何度も体に何かがぶつかってHPを削って行く。
HPとMPの確認のためにいつでも見えるようにしているステータスを見て…私はその攻撃の正体に気が付いた。
ステータスに、新しく『風耐性』と言うスキルを見つけたからだ。
つまりこれは、ゴブリンキングの風属性魔法攻撃。
さっきの爆発の正体は風の魔法を使った空気爆発!
くそっ!やっぱり時間をかけると魔法がヤバイ!
何とか飛翔のスキルを駆使して態勢を立て直すと、ほとんど見えない風の魔法を躱しながら地上へ向かう。
途中マジックアローやマジックボールを使ってみるも、ゴブリンキングの風の魔法のほうが強くて掻き消される。
ただそれでも諦めず連射していると、スキルがレベルアップして新しい魔法が増えた。
その名もマジックビーム。
文字通りビームが撃てる。
これなら行けるはず!
そう意気込んで撃ってみたものの…やっぱり火力はあっちのほうが上で、ロマンの塊であるビームがあっさり掻き消された。
ただ、なんやかんやで地上はもう目の前。
そのまま攻撃を受けることを覚悟で突貫する。
体に風の攻撃が何度も当たり、肉が外からも内からも裂け、骨が歪む。
それでも愚直に突撃を仕掛け、ゴブリンキングを捉える。
もう火傷でまともに動けないゴブリンキングは、私の突撃を避ける事が出来ず地面に押し倒された。
そして、私が振り下ろした前脚によってついにHPがゼロになり…大量の経験値が流れ込んでくる。
《レベルが上がりました》
その通知を聞いて一安心。
ひとまず回復も兼ねて休みたいところだけど…その前にやるべきことがある。
今日からこの辺りは私の縄張りだ。
私の縄張りになったからには、ゴブリン風情に好き勝手させるわけにはいかない。
と言うわけで、この生き残りのゴブリンを殲滅する!
体はあちこちが痛いけど…所詮雑魚の群れ。
私の時代の幕開けじゃぁ!!!
痛む体にムチを打ち、逃げなかったゴブリン、逃げ遅れたゴブリンを狩り尽くす。
ただの虐殺に見えるかもしれないけど…これも立派な食料確保。
美味しくはないけど、なんせ数が多い。
大量のゴブリンを喰らい、貯蓄に貯めていく。
これでしばらくは安泰のはず。
少しずつ回復していくHPと貯蓄の数値を眺めながら、私は無慈悲にゴブリンを狩りまくった。




