弱肉強食
ゴブリンの縄張りから少し外れた地。
そこにウサギの家族が新しく引っ越してきた。
ゴブリンの縄張りにはあまり天敵がおらず、安全だったがここは違う。
ここには強力なモンスターが多数生息しており、それらが所狭しと群雄割拠し己の縄張りを維持している。
そんな所に何の力も持たないウサギが引っ越してくるなど…餌になりに来ているのと同じ。
今も飢えた獣がウサギ達を食い散らかそうと足音を消して近付き―――
「グギ―――――」
―――突如として現れた猛獣に潰され、逆に食われてしまう。
この世界は弱肉強食。
力あるものが生き残り、弱者は食われるのである…!
…なんてナレーションをしてみるけど、私だって例外じゃない。
実際に私より強いモンスターは沢山居るし、そいつらには勝てない。
もし襲われようものなら…私もウサギも全部食べられておしまい。
だからもっと強くなりたいんだけど…ここはさっきもナレーションした通りゴブリンの縄張りから外れる場所だから、そこかしこに進化前の私と同じくらい強いモンスターがうじゃうじゃ居る。
少し離れるとすぐにウサギが襲われ、離れなくても襲ってくる始末。
そんな事もあり、思うようにレベル上げが出来ずにいた。
でも、食料に関しては身の程を弁えず突っ込んでくるモンスターのおかけで困ってない。
だから今の課題はどうやって強くなるかだけど…最近それが顕著に課題となって来た。
「グルルルルル………」
私が威嚇すると、“それ”は去っていく。
私としてもありがたいんだけど…できればここを諦めてどこかに行ってくれたら尚良し。
でもアイツは諦める気配がないんだよなぁ。
私なんて大して可食部が大きい訳でもないし、ウサギたちもそこまで腹が満たされる訳でもないってのに。
その執念深さに腹を立てながら巣へ戻ると、子ウサギ達の遊んで攻撃を食らう。
私が翼をパタパタさせたり、尻尾を振るとそれに合わせて、テンションマックスで走り回るんだ。
何が面白いのかさっぱりわからないけど、楽しそうなウサギを見ているとやめるわけにはいかない。
そんなこんなで今日も夜までウサギ達と遊び、日が完全に落ちると同時に私は眠りについた。
夜中、またもやヤツの気配を感じて私は目を覚ます。
割とすぐそこまで来ていたヤツは、今回ばかりは完全に私をロックオンしている。
◆
名前 無し
種族 キングスネーク
レベル 12/40
HP 1247/1247
MP 330/330
筋力 731
防御 1033
精神 516
防魔 993
素早さ 1021
スキル 『毒牙Lv4』『鱗Lv3』『遊泳』『気配感知Lv 8』『隠密Lv1』『筋力強化Lv1』『防御強化Lv3』『防魔強化Lv3』『素早さ強化Lv3』『毒耐性Lv5』
スキルポイント54
◆加護『転生の恩恵・モンスター図鑑』発動
『キングスネーク
中難度蛇型モンスターの一種。毒牙とタフネスが特徴の蛇型モンスター。また足も速く、水中でも衰え無しのスピードで噛みついてくる。筋力は同難度のモンスターと比べてやや低めである』
前々からここの巣を狙ってるモンスター。
どんなに威嚇しても一旦引くだけですぐに挑みに来る、まさに蛇のごとき執念深さを持つモンスターだ。
しかも、こいつはタフネスが凄い。
正面から殴り合えば毒のダメージも相まって、私でも負けるかもしれない強敵。
…ただそれはステータスだけを見ればの話だ。
「シャアアアアアアアア!!!」
襲い掛かってくるキングスネーク。
かなりの速度だが、思考加速によって強化された私の動体視力をもってすれば避けられない程じゃない。
何とかキングスネークの初撃を躱すと、私はすぐさま前足を伸ばしてキングスネークの体を引っ張る。
そして、その体を地面に叩きつけた。
さらに全体重をかけてキングスネークの上に乗り、そのままパワーにものを言わせて体をズタズタにしていく。
その結果は言うまでもなく、これまでの警戒の苦労が嘘のように呆気なく勝敗は決した。
私はキングスネークの体をむしゃむしゃしながら戦いの反省会をする。
今回の私の勝因は何だったか?
それはおそらく、体格の差が大きいだろう。
私はゾウ並みの巨躯を持つのに対し、キングスネークは大体3メートルほどの蛇。
身の太さも大した事は無く、ステータスがあれどそれでは埋められない体格の差があった。
結果、熊に雀が喧嘩を売るようなもの。
圧倒的なパワーの差に圧され、キングスネークは成すすべなく負けた。
防御力が高いなら炎の吐息を試せるかと思ったけど…それを使うまでもない圧勝。
自然界において大きな肉体を持つという事はかなり有利なことだということが分かった。
…まあ、その巨体のせいで隠れられないし、弱い奴にはすぐに見つかって逃げられるんだけど。
その上体がデカい分沢山食べないとやっていけない。
これは早々に引っ越しをしないといけないかな?
でもこう何度も住処を変えてはウサギたちが持たない。
どうにかして食料を安定供給できるようにしたいけど…そんなことできないんだよね。
狩猟で生活する以上、それは仕方のない事だ。
キングスネークの死体をあっという間に食べきると、ようやく安心して眠りにつくことが出来た。
明日はどうしようか…近場のモンスターはあらかた食い尽くしたし、馬鹿みたいに突っ込んでくるあのモンスターもいついなくなるか分からない。
食糧問題という深刻な課題に頭を悩ませながら、私は久しぶりに深い眠りにつくのだった。




