転生
ふあああぁぁぁ……よく寝た。
…ん?
なんか暗くね?
私今確か三限目の英語の授業受けてた気がするんだけど…まさか夜まで寝ちゃってた?
…流石にそれはないか。
そうなる前に先生が起こしてくれるはず。
いくら友達がいないとはいえ、優しいクラスメイトが起こしてくれたり…いや、ないか。
うちのクラスは完全に崩壊してるし、授業にならないくらい荒れてるってか好き放題してるってか…まあ、まともな人間はいない。
それはともかくだ…誰かが寝てる私に布か何かを被せて寝やすいようにしてくれたに違いない。
さーて、もうすぐチャイムが鳴るだろうしそろそろ目を開けて…あれ?
…お、おかしいな?全然目が開かない。
なんていうか…瞼が全く動かない。
と、とりあえず瞼はいったん置いておくとして、とりあえず体を…痛っ!?
体が何かにぶつかり、姿勢を崩して倒れてしまう。
な、なんだ今の!?
何ていうか…天井?みたいなのにぶつかったけど……てかよくよく考えてみたら体勢が変だ。
私は机に突っ伏して寝てたはずなのに、まるで猫みたいに丸まって寝てる。
どゆこと?
絶対学校じゃそんな寝方出来ないんだけど?
と、とりあえずもう一度体を……駄目だぶつかって動けない。
しかもこれ…天井どころか壁まであるよね?
何ていうか…私自身が何かの箱にでも閉じ込められてるみたいな感じ。
…まさか誘拐された?
私みたいな髪ボサメカクレ女誘拐して何の役に立つんだか……まあ、誘拐犯にそんな事情関係ないか。
…でもだとしたら大問題になって絶対気付くよね?
捕まって目が覚める今の今までずっと寝てたなんてある?
睡眠薬とかで眠らされてたにしても…飲まされる感触には絶対気付くし注射でもチクッとした痛みで気付くはず。
それすら無いって事は……誘拐の線は薄いか?
誘拐じゃないとしたら何?
私別に学校で周りのことが分からなくなるくらい寝たこと無いし、昨日も睡眠時間は何時もと変わらない。
だからこんな事になってるのに気付かないほど寝てるなんてあり得ないんだ。
…ということは私自身に何かが起こったと言うよりは、周囲の環境で寝ている状況では気付かないくらいの変化が起こった感じか。
…例えばクラスメイトがイタズラして来た。
イジメとかは無かったけど、うちみたいな底辺高校、精神年齢の低いガキ共が多くて変にちょっかいかけられる事がある。
その延長で席を箱で囲まれてるとか。
…そう考えたらイライラしてきたね。
箱から出たらとりあえず一発事故に見せかけて殴ってやろう!
オラ!オラ!壊れろ!!
私は箱のような何かを殴って壊そうとする。
段ボールにしては妙に硬い気もするけど…にしてはなんか脆い?
まるで卵みたいな感触を感じつつも箱を攻撃し続け…ついにそれを壊すことに成功。
手を開いた穴から出してバキバキと箱を壊すと、全力で中から飛び出した。
「ガウッ!……?」
コラ!
…そう叫んだつもりだった。
でも出たのはまるで野生動物のような声。
その時点で何かおかしい。
でも、違和感はそれだけじゃないんだ。
人の声が1つも聞こえない。
そう言えばさっきから一言も声が聞こえないんだ。
そんなことはあり得ない。
授業中も休み時間もうるさいこのクラスに限ってそんなことはない。
男子生徒の豪快な笑い声も、女子生徒のライブの話も、2軍男子のゲームの話も、2軍女子の世間話も聞こえない。
異常事態だ…明らかに異常事態だ!
目は…よし開けられる!
さっきまで開かなかった瞼が動き、光が情報として入ってくる。
そして私が見たものは…びっくりするほどの大自然だった。
ここはどこ?
私は誰?
…そう言えたならどれだけ良かった事か。
残念ながら底辺高校に通う私の記憶は残ってる。
そして、その記憶が理解を阻害している。
…明らか人間じゃないよなぁ〜、この体。
もうね、鱗が生えた前脚が見えるんだもんね。
そう、前脚だよ前脚。
人間にはね?とっても器用に動かせる発達した腕と手があるんだ。
その器用な手を使っていろんなことをしていた。
けど今私にはそれがない。
代わりに、鱗で覆われた前脚が2本見える。
これを見れば底辺高校で万年10位代から抜け出せない私でも理解できる。
と言うか、そんな私だから理解できる。
これは、俗に言う異世界転生ってやつだ。
それはもう大流行して、私も好きだったジャンル。異世界転生。
もしその例に沿っているのなら、きっとステータス的なやつがあるはず!
問題はどうやってステータスを見るかだ。
ステータスオープン?鑑定?それともスキルボードってやつか?
外したらイタイ事を言ってる恥ずかしいやつになる。
……ここは無難に鑑定で行こう。
ふぅ〜……すぅ〜……『鑑定』!!
◆
名前 無し
種族 キマイラベビー
レベル 1/10
HP 55/55
MP 10/10
筋力 30
防御 30
精神 15
防魔 30
素早さ 30
スキル 『鑑定』『成長補正』
加護 『癒しの加護』『転生の恩恵』
スキルポイント1
おお!当たりだ!!
にしてもキマイラか…キマイラ…キメラ?
う〜ん…確かによ~く見てみたら四肢はトカゲっぽいけど、体は違うね。
なんというか…猫っぽい?
あとちっちゃいけど翼が生えてる。
これ飛べるの?
え〜っと…うん、動くね。
……で?
全然飛ぶ気配が無いんですがそれは…
流石に体に対して翼の大きさが足りないか、あと確か飛ぶためには凄く発達した筋肉が必要らしいし…そんな筋肉があるようには見えない。
流石に飛べないか。
でもまあ翼があるって事はいつかは飛べるって事でいいよね?
今はベビーだから飛べないだけで、成長して大人のキマイラになれば飛べるとかさ。
自由に大空を駆け回る姿を想像すると、夢が膨らむなぁ…
とりあえず種族に関してはそれでいいとしてスキルだ。
鑑定と成長補正。
異世界転生のテンプレとも言うべき無難なスキル構成をしてるね。
でも、こういうのって種族特有のスキルが1つくらいあるものだと思ってたけど…無いんだね?
それにチートスキルも見当たらない。
成長補正がそれに該当するのかもしれないけど…なんだかなぁ。
あと加護ってやつも気になる。
『癒しの加護』ってなに?
どう言うものなのそれ?
まあ、一旦後回しでもいいか。
『転生の恩恵』も同じく後回しと言うことで。
んで、私が最後に注目したいのはステータスだ。
このステータスが世界的に見た場合どの程度なのか気になるけど…キマイラなんて種族に転生している以上、きっと弱くはないんだろうね。
でもまあベビーだし、生まれたばっかりだし何とも言えないけど…こればっかりは仕方ないよね。
だって私以外の生き物に会ってないんだから。
でもこう言うのってそういう事を言うと都合よく――――ほらね?
ステータスを確認し終えた私のすぐ近くにある低木。
それが音をガサガサと音を立てたのだ。
音のした方を警戒しながら見ていると…低木の隙間から毛の生えた前脚が出てきた。