第12章
第12章
「疲れた……」今日は仕事がいつもより大変だったので、酒場に寄ることにした。カウンターでマスターと話をしていると、ふと、カウンターの端で1人で飲んでいる女性が目に入った。深酒をしているみたいだ。
「テキーラ……」そのショートヘアに紅いドレスの女性は美しく、似ても似つかなかったが、アンちゃんをふと思い出し、気がついたら口が動いていた。
「やめときなよ、体壊すよ」その子は僕のことを見るなり、びっくりとして、氷の入ったグラスを倒した。
「ご、ごめんなさい、先生……」患者さんかな……と名前を思い出そうとして、彼女の目を見た時におどろいた。スカーレット色の瞳。この子はアンちゃんだ。
「雰囲気、変わったね……」
「はい!」アンちゃんは、これまでに見せてくれなかった、笑顔を見せた。
「イメチェンしました。あの、少し話しませんか?」僕は不思議と、安心感と庇護欲の境目のような気分になり、彼女と話した。
「ねえあなた、いとこのジョージさんは呼ばなかったみたいだけど……」シャーロットちゃんは伏し目がちにハーヴェイに聞いた。
「ああ、そんなことはどうでもいい。とても綺麗だよ……」花嫁姿のシャーロットちゃんを前に言った。様子見に来たはいいけど、やっぱり友として善をすることは、いいことだなと思った。僕は2人におめでとうと伝えた。今日は森の修道院で、2人の婚礼があった。次期領主が田舎で結婚式をあげると言うことに対し、元老院からの反対は激しかったが、テレーゼ様の一声で、この修道院に決まった。
シャーロットちゃんから、修道院のみんなのことを教えてもらった。カエルを踏んづけたみたいな声で、来賓の案内をしているのがパーシーちゃんだな。領主様も、幾つもバリエーションがあるのだろう、ブラックグリーンの衣装に王冠を被り最前列に座られている。
式が始まった。真っ白の花嫁衣装のシャーロットちゃんに向かい合った、冠姿のハーヴェイが誓いの口付けをほおにした。修道院長が聖母のしるしを手で切り、誓いは成立しました、と仰った。鳴り止まない拍手と共に2人は祝福される。ハーヴェイは、重い腰をあげて、森から出て外交の仕事にも着手すると言っていた。
花びらをサシャちゃんという子から受け取り、合図とともに2人にふりかけて、僕はおめでとうと言った。ブーケトスを受け取ったのはまさかの……アンちゃんだった。いたことに驚きだが、その日たまたま教会に来たら結婚式をしていたと言っていた。びっくりした様子の笑顔が可愛らしかった。
クリシュナとエイヴァちゃんは、よちよち歩きを始めた3人の男の子の世話で疲弊しているようだが、しあわせそうだった。ヴァイオレットさんも呼んだようで、ボディーガードの男性がそばについていた。