漆黒の堕天使
「ごはんを恵んでください」
机の縁にちょこんと座っていた人形と思われたそいつは帰宅してドアを開けるなり機械のような声で話しかけてきた。
「は?え?」
何が起きているか理解できずに勢いよくバタンとドアを閉めた。
漫画でしか見た事がないが見間違いと信じてもう一度ドアを開けてみる。
やっぱりそいつは机の縁に座っていてまっすぐした目でこちらを覗いている。
俺の右手にはさっきコンビニで買ってきたばかりの弁当とビールが袋に入っている。
「お前は誰なんだ...?」
「私は漆黒の堕天使です。ごはんを恵んでください。」
「漆黒の堕天使?」
「その弁当を半分私にください」
「俺はこれからビールを飲みながら弁当をバカ食いして、さっき99万円も競馬で負けた鬱憤を晴らすところなんだ。君は体の大きさからしてミニトマト1個で十分じゃないのか?」
「ごはんを恵んでください」
「話通じねえのかよもう」
「ごはんを恵んでください」
「ああ、はいはい」
その喋る人形を捨ててやろうかとも思ったが、俺は競馬で大負けしたおかげでそんな気力もなく、ただ弁当を平らげビールを飲んで眠りについた。
「ごはんを恵んでください」
「うるせえ」
「ごはんを恵んでください」
「はいはい、おやすみー」
漆黒の堕天使が来て1週間くらい経っただろうか。
俺は漆黒の堕天使をなんとなく捨てずに無視したまま過ごしていた。
「ごはんを恵んでください」
「俺も腹減ったしコンビニ行くかー、ってうわ、金ねーじゃん」
どうしようか。無職で頼る相手もいないおれは今日を生き抜く術がない。
「なんか高く売れるもんでも家にあったかなあ...。」
「ごはんを恵んでください」
「あ」
俺はにたりとして漆黒の堕天使に近寄った。
「ごはんを恵んでください」
無機質に同じ言葉を言い続けるそいつをただの喋る人形としか考えていなかったが、よくよく見てみると人間のような質感の肌をしていて、髪やドレスもきれいだ。万が一こいつが未知の生物で学者に家に押しかけられるのはごめんだが、高く売れるのは間違いないだろう。
「おい、お前は生きてるのか?」
「ごはんを恵んでください」
「お前はどこから来たんだ?」
「ごはんを恵んでください」
「そうかそうか」
俺は腹が立って漆黒の堕天使を今すぐにでも売りつけたい気分になった。
「今、いいとこに連れてってやるからな!」
俺は漆黒の堕天使を机からとろうとしたが、机に貼りついているのか力を入れてもとれそうにない。
「仕方ない。はさみかカッターでひっぺがすか」
俺は机の中をゴソゴソと探り始めた。
「ジャキン!」
「ん?」
「ゴロンッ」
漆黒の堕天使はいつの間にか立ちあがって刃物を持っていて俺の首を切り落とした。
ピーーー
「堕天使更生試行プログラム、失敗です」
「あーー、魔王様!やっぱりダメですね!堕天使を人間に転生させてみたらまともになるか試してみたんですが、初日に持ち金100万円のほとんどを競馬に溶かすし人形への慈悲の心も全くなし!
1回堕ちてしまった天使はやっぱりゴキブリとかハエとかに転生させるしかなさそうです!」