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死刑のあとに出来る事  作者: 和泉こまる
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第4話 似たもの同士 後編

 「ツナギく~ん、……じゃ、少ないけど自己しょ……」


「ようお前!そうそのモップみたいな頭のお前だ!」


 見た事の無い形に歪んだドアを尻目に、そのとんがり頭は僕の髪型をやじってくる。

 そんなこと言われてもこれはさっき生えてきたのだから僕にはどうしようもない。


「オメーの名前なんかはこの世界で生まれてあの世に行く時まで誰も知らなくても良いけどなァ、俺だけ!俺様だけだ!俺様の名前だけはよ~く覚えておくんだな!」


「……それで、名前は?」


「オウよく聞いてくれたな!ツナギだ!」

 さっき聞いた。

 そしてそのまま隣の席に座る。


「それ以外はいらねえ!お前がここで学ぶことはこれで全部と言って良い!」


 後ろで先生が大きくため息を吐いているのが見える。


「……まあこういう子だから。ハジメ君は仲良くしてあげてね~。あ、自分で自己紹介したかった?」

 いや、大丈夫。なんだか彼と話すのは疲れそうだ。


「このクラスはここにいる生徒で全員だから、少ないし仲良くしてくれよ」


「ここにいるって……まだ2人しかいませんよ?」


「ああまだ言って無かったか。ほらキミの隣にさ」

 そう言って先生は僕の隣を指さす。


 そこにはさっきまで絶対無かった椅子と机が置いてあり、その椅子の上にはちょこんと女の子が座っていた。


 シアよりも大きいがミャーよりも小さい。僕よりもだ。


 黒い髪をおさげの様に括り、前髪は長くあまり表情が読み取れない。


 よく見ると顔に傷跡がある?……あまりよく見えないから見間違いかもしれないけど。


 机をじっと見ている少女はこちらの視線に気づくと申し訳なさそうに会釈し、


「リヲ」


 とだけ呟き、

 そして再び視線を机に戻した。


「よ~し、自己紹介も終わったし早速授業に移るか~」

 

 さっきのは自己紹介で良いんだな!?

 ツナギに聞こえていないと思うが、その辺をしっかりやりすぎるとまた時間がかかるのが目に見えているし……。というかツナギはまだ席にすらついていないまま破壊したドアの前で威張ったようなポーズをとっている。


「今日やるのは基礎的な浮遊魔術だけど……ツナギ君以外はまだグローブ未装着だったか~。ん~、それじゃあ今装着して見せてくれ。ポーチの中に全部入ってある筈だから」


 リヲは机に掛けてあるポーチに手を伸ばす。

 そこにあるのは僕がシギから貰ったモノと同じものがあった。


 つまりはこのポーチこそ学校指定の備品で、シギは初めから僕をここに通わせるつもりだったのだろう。

 この先生が僕のことを詳しく知っているのもすでに何かしら連絡してあったに違いない。


 ……もしかして僕が施設の中で気を失ってから随分経つのか?


「……」


 そう思っている間にリヲは袋から取り出した赤いグローブを左手に付けていた。

 グローブと言っても薄い手袋の様なもので、はき口から黒いラインが五本指に向かって伸びている様なデザインだ。


「色は変わったか~?」


 先生がリヲに尋ねると小さく頷く。

「ケッ、地味な色だなァ~。そんなモヤシみてえな色じゃあ茶も沸かせねえぞ?」

 ツナギがしなくてもいいのに悪態をつく。

 リヲは全く聞いていない様だけど。


 確かに、よく見ると手の甲のラインが虹色に光っている様にも見える。


「じゃあハジメ君もやってごらん」


「先生、多分僕……そのグローブってやつ持ってないです」


「は?お前もモヤシか?」

 お前の悪口はそれしかないのか?


「あ~大丈夫だよ。君の保護者がそれに入れておいたって言ってたからね~」


 そう言い先生はまだ身に着けたままだった僕のポーチを指さす。


「そのポーチは気まぐれだから、グローブが欲しいな~って頭の中で思い浮かべながら探してごらん」


 何を言っているかわからないが、とりあえずポーチを弄る。


「うおっ!」

 危うくバランスを保てなくなりそうになる。

 およそ20センチぐらいのポーチのはず――

 

 なのに……底が無い。

 二の腕が埋まるほど腕を突っ込んでいるのに依然そのポーチは僕の腕を飲み込んでいる。


「ほらほら~、早く探さないと最悪の見込まれるぞ~」


「そんなこと言ったって……」


 僕は咄嗟に開け口に指を突っ込み、ポーチから腕を引きはがす。

 

 つ、付いてる……まだ僕の手が……無くなったかと思った……。


 よく見ると黒い布のようなものが指に引っかかっている。

 さっきリヲが付けていたグローブと比べて少し小さい様にも見える。


「あ~……まあそうか、じゃあそれ着けてみて」


 何かを察したように少し先生は口ごもる。


 グローブ……にしては小さすぎる。


 広げてみると入れ口が3本しかない。


 形からして親指から中指までだろう。

 不思議に思いながらも、利き手の右手にそれを通す。


 丁度僕の右手を半分覆うくらいの大きさだ。

 リヲのグローブとは違いラインの様なものも入っていない。


「……これで、どうすれば?」


「魔力を練ってみてくれ、人によってその感覚は違うけど……まあ初めは指先に意識を集中させていたら段々暖かくなるから。それが魔力が集まってる感覚だと思う」


 だと思うって……、先生という割には自信が無さそうな言い方だ。


 ともかく、言われた通りに右手に視線を落とす。


 少し二の腕が変だ。鳥肌が立っているような感覚。そして何か見えないものが右腕に集まっている……気がする。


 目には何も映らない。でもその見えないもう羽の様なモノが間違いなく僕の右手に集まる感覚がある!


「な、なんか、熱い……」


 後頭部からも変な感覚が集まっている。なんか熱が頭の中に集まってきている……


「……うっ!!」


 喉から何かが込み上げてくる……

 

 なんか酸っぱい感じが、この感覚は身に覚えがある。


「お、おええええっ……」


 これは吐き気だ。施設で一回体調を崩したことがある。


 今のところ自分の人生の中で一番不快な感覚だ。


「……オイてめえ、良い度胸してるなァ?あ?」



 そして僕の吐瀉物は隣のツナギの机に撒き散らされていた。


 

読んでいただきありがとうございます。



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