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死刑のあとに出来る事  作者: 和泉こまる
2/9

プロローグ 死んだ後―2

 ―転生制度と呼ばれるものがあるらしい。

 凶悪な犯罪者が捕まり、

 裁判に掛けられ、

 その罪が一番重いと判決が下された時、

 その人間の記憶や人格をすべて抹消して社会復帰させるという制度だ。

 僕は半年前に死刑になり3か月前に執行されたらしい。

 『らしい』というのも僕にはそれ以前の記憶が無いから当たり前だ。

 それは同時にこの制度を身をもって体験したという事だった。



 そしてその椅子で目が覚めた瞬間が僕の最初の記憶だった。


「まあ私の目の前のこのボタンを押せば処刑はできるけどね」

 ……。


「ビビってもしょうがないし、何より君にはそれ以外できないだろう?」

 ……確かにその通りだ。


 僕らはこの施設の決まりに縛られている。その施設の看守の言う事は絶対だ。この声の主は施設の人間では無いだろう。でもこれは施設内で起きていることだ。言うことを聞かなかったらどうなるかぐらい僕にだって想像がつく。


「わ、わかりました」

 ものすごく気は進まない。けれど座らない方が絶対良い目には遭わないだろう。

 

 僕はすり足でゆっくりと椅子に近づき、ようやく正面へ回り込んだ。僕の部屋にある普通の椅子と違って足は無く地面に固定されており、背もたれの裏には大量の配線が床に向かって伸びていた。

「ほおら、そんなに怖い顔しなくてさ、早く座んなって」


 椅子とにらめっこしていた僕は声に急かされ恐る恐る体をそれに預ける。

「うん、座ってしまえばどうってことないだろう?」

「ええ、おかげ様で最高の気分です」

「あ、それって皮肉かい?そんな事どこで覚えたのかな?もしかして以前の性格みたいなものは依然脳みそに残留しているってことかい?」

 それにしても多いな、言葉数が。

「わかりません、でもその皮肉っていうのは看守の口癖だったのかもしれないです」

 声の主は楽しそうにケラケラ笑う。


「そうかそうか、つまり以前の性格の影響というより周囲の影響というわけだね。記憶がない分取り込むスピードも速いんだろう。でもそんなことに容量割くリスクがあるなんて、案外その辺のことは政府とてしっかりしていないんだなあ」

 何を言っているかわからないが、何かが彼の中で合点がいったようだ。ちょっと適当に答え過ぎたかもしれない。


「それで……年齢は14歳、これは見た目通りだね。ちょっと痩せすぎだけど、まあこれは施設暮らしだからしょうがないか。読み書きは一通り出来てしかも脳書き無しか!心身ともにとてもフレッシュ!」

 

 突然僕の言っていないことをつらつらと言い始めた。いつの間にそんなことまで……。

 

ふと座っている椅子に目を落とす。


「そうそうそれ、それに座れば君の中の何もかも見れるようになってるの。私としては直接訊いておきたいからあんまり意味ないんだけど、まあ答え合わせみたいなものさ。君は個々の施設で脳書き、つまり魔術を用いて脳みそに直接何か施術を施されたことはあるかい?」


 沢山言葉を聞くことにどうしても慣れない。彼の言葉を頭の中で反芻し言うべきことをまとめながら話さないと。


「……いいえ、少なくとも僕が起きている間にはなにも。看守が僕の寝ている間に何かしていない限りは」


「なるほどなるほど、君がそう言うのなら大丈夫だ。魔術による施術は覚醒状態じゃないと出来ない。一部例外もあるがね、覚えておくと良いよ」


 そんな知識がここにいる僕にとって何の役に立つのだろう。そのまま彼は続ける。


「ということは、まだ魔術使用回数はまだゼロ?」

「『魔術』と言われるものが世の中では常識っていうのは知っているけど、まだ見たことは無いです。ここでは被執行者以外も使っちゃダメらしいので」


 というのは性格の悪い看守がぼやいていたのを聞いたことがある。

「未だに魔素にもあてられずしかも未開通か、君にはわからないだろうけど、今時天然のユニコーンとかよりも超貴重な存在だよ!」


 興奮で声が大きくなっている。死刑囚と話してこんなに盛り上がるなんて、彼の姿は見えてないけどこの人絶対に友達いない。

 まあ僕もだけど。

「いやー十分だ!3年も待った甲斐があるってもんだ!」

 ん?

「こんな短いスパンで両方揃えられるなんて!幸運……いや、これは私があの時我慢した結果によるものだったから実力!実力以外の何物でもないね!」


 何を言っているんだこの声は。


「あーあー、あ、もしもし?この子にするよ!大学に直送で良いから、うん、じゃあよろしく!」


 この声の主は何をやろうとしている?


「じゃあ君も、またあとでね」

 


 その言葉の直後、ぱん、と


 頭の中から大きな音がした気がした。


 そして強烈な眠気が頭を駆け巡る。

 

 ダメだ、寝ちゃダメだ。まだ就寝時間じゃない。

 ここで寝ちゃうとあの看守に何を言われるか……


 それにしても、この感覚、どこかで、


 ああ、

 この椅子の上、同じだ、あの時と……


 

読んでいただきありがとうございます。


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