カボチャ
冬の寒空の下、大きなカボチャを抱えた少女に出会った。
それはそれは大きなカボチャだった。
ハロウィンなどで時折ディスプレイに使われそうな大きなカボチャだった。
見た目はスーパーで売っていそうな緑色のカボチャ。
なんだか見た目と大きさがチグハグな印象だった。
ワタシは犬の散歩をしている途中だった。
柴犬なので見慣れない大きなカボチャに警戒したのだろう、少女に向かって吠え立てた。
「ごめんなさい」
ワタシは少女に向かって謝罪を口にしていた。
少女はにっこりと笑って「いいえ。びっくりさせちゃったみたい」と言った。
犬の散歩が終わって、家の縁側でアイスを食べていた。
ありきたりな庭を眺めながらアイスを食べるこの時間がワタシは案外好きだった。
こんな寒い時期にアイスを食べるのはよしなさいと、成人した今でも母から小言を言われる。
しかし、ワタシはこのひとときが好きなのだ。
シャリ、シャリ、シャリ、とアイスを食べる音だけが聞こえる。
小さな庭の向こう側に細い道が見える。
そこを大きなカボチャを抱えた少女が歩いていく。
さっき、犬の散歩の途中で出会った少女だった。
少女に声をかけたのはただの好奇心だった。
「重いでしょう? 休んでいかない?」
少女は小首を傾げ、そしてにっこりと笑うとうなずいた。
「ありがとう」
少女を縁側に座らせ、ワタシはもう一本、アイスを持ってくる。
「寒いけどどお?」
少女はアイスの青いパッケージを繁々と見つめるとそのまま縁側に置いた。
冷たいのは嫌だったかな。そう思ったが、口から出てきたのは違う疑問だった。
「どうしてカボチャなんて持って歩いているの?」
「植える場所を探していて」
「植える?」
「そう、カボチャを植えないといけないんです」
「カボチャを植えるなんて聞いたことないなぁ」
少女が抱えていたカボチャは今、庭に置いてある。
カボチャは十分に熟した立派なものに見えた。
「植えなくてもよさそうだけどなぁ」
「あの!!」
少女はワタシを見て決意したかのように声を出した。
「こちらのお庭に植えさせてもらえませんか?」
「えっ?」
「日当たりもいいし、ここのお庭に植えさせてもらえればきっといい結果が出そうな気がするんです」
「はぁ、いいけど」
正直に言うと少女の勢いに押されて返事をしてしまった感が否めない。
庭は母が管理している。
母がなんと言うだろうか……。
やっぱり、断ろうかな。いやでも、一度返事をしてしまったし、とワタシが迷っていると少女は庭に降りて素手で庭を掘り始めた。
「せめてスコップ使って!」
ワタシは慌てて止めた。
物置からスコップを二本持ってくる。
ワタシも手伝って、二人で大きな穴を掘った。
ここまで来れば成り行きだ。一緒に掘ることにした。
これくらいでいいだろうか、と穴とカボチャを見比べる。
まだ、カボチャの方が大きい。
あれ? カボチャ、さっきよりも大きくなっていないだろうか。
「まだです。まだ掘らないと」
少女は一生懸命に掘り続けるので、ワタシもまた地面を掘ることになった。
1mも掘っただろうか、ようやくカボチャが埋まりそうな穴が掘れた。
ふー、と一息ついてワタシと少女の二人がかりでカボチャを穴に下ろした。
明らかに最初、少女が抱えていた時よりもカボチャは大きくなっていた。
「早く、早く」
少女が楽しそうに言う。
二人で穴に土を入れてカボチャを完全に埋めてしまった。
「これでいいの? あ、そうだ。水を撒かないと」
「大丈夫です。これでいいんです」
少女はカボチャの埋まっている地面を見つめながらいった。
地面から芽が出た。
ツルが伸びて葉が出て蕾がついた。大きな蕾だった。
カボチャの成長を早送りで見ているかのようだった。
うちの柴犬が吠える。
蕾が大きく、大きく膨らんでいく。
少女が嬉しそうに見つめる中、ふわりと開花した。
中には小さな女の子がいた。
二人の少女は美しい笑顔で見つめあっている。
二人の少女は手を取り合うと、ワタシに向かってお辞儀をした。
そして、連れ立って庭から駆け出していった。
庭には大きなカボチャの花が残された。
ワタシは目の前で起きたことがよくわからなくて、縁側に座ってぼーっとしていた。
少女が置いていったアイスは溶けて液体になって位しまっていた。