表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
植物な少女とワタシ  作者: 生方冬馬
6/11

白木蓮

美しい少女がいた。


いや、少女がいること自体はいい。いや、よくないのか?




とにかく、白木蓮の花をのぞき込んだら、美しい少女がいた。


ワタシは驚きのあまり固まってしまい、言葉も出なかった。


高い脚立から落ちなかったのは、偶然の産物だった。


「おい、どうした」


「い、いえ。なんでもないです……」


ワタシは親方に咄嗟に嘘をついてしまった。


ワタシは少女のことをじっと見つめていた。視線が反らせない。


なぜだか、白木蓮の中で気持ちよさそうにしている少女のことを報告する気になれなかったのだ。


「早く確認してくれ。終わらせよう」


「はい」


その美しい少女から視線を引き剥がして、ワタシは白木蓮の木を見て回る。


「どうした。何かあったか?」


「いえ、何もないですね」


ワタシは親方に嘘を重ねた。


白木蓮の花の中で寝ている少女のことを報告しなければならないはずなのに、ワタシは黙っていることを選んだのだった。




ワタシと親方は小さな造園業を営んでいる。


十人もいない小さな業者だ。


今回、受けた依頼は奇妙だった。


依頼人曰く「白木蓮の木が歌うから見てみてほしい」




「歌う? なんだそりゃ」と親方は不思議そうに首を捻っていた。


依頼人によると夜になると美しい歌声が白木蓮から響くのだとか。



美しいならいいじゃねぇか。というのが親方の意見である。


しかし、依頼人はお得意様だった。


無下に断ることもできない。




というわけで親方と入社一年目のワタシが仕事道具と共にやってきたわけだった。



白木蓮の木に異常はない。


ラジオが引っかかっているわけでもないし、鳥が巣を作っているわけでもなかった。


親方は今、依頼人と談笑をしている。


どうやら、この後の季節の手入れの相談をしているようだった。


楽しそうな笑い声が庭先に響いている。





ワタシは脚立を片付ける際にもう一度、さっきの花をのぞいてみた。


少女がいた白木蓮の花だ。


白木蓮の花は白く、咲いている。


そこに少女はもういなかった。




ふと、あの美しい少女が歌ったのならきっと宝石を転がすような美しい音色に違いないと思った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ